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七十五話

 主の原作『疾風迅雷伝』のアニメ化が発表されると、世間では大きな話題として取り上げられた。

 アイドルグループはなみずき25の初のタイアップと公表されたからだ。

 アニメの、しかもアルバムで特典小説をかいた人物が原作のアニメとタイアップ、これまでのはなみずき25と@滴主水の関係性などで連日ワイドショーにも取り上げられている。

 加えて、はなみずき25の妹グループ。先日デビュー会見を行ったかすみそう25もタイアップするとあって、その話題性は少し前の炎上騒動など簡単に吹き飛ばしてしまっていた。

 この話題で一番の注目を集めたのは、何といっても賀來村美祢だった。

 @滴主水が作家デビューする切っ掛けを創り、今回タイアップする両グループに所属。かすみそう25ではセンターを務めることが決定しているのだから、話題にならない方がウソだった。

 そして今注目のアイドル、賀來村美祢がはなみずき25の新曲のフォーメーションで、どこを担当するのか予想が入り乱れていた。


  ◇ ◇ ◇


 立木は腑に落ちないながらも、安本と本多に渡されたフォーメーションの決定稿を持ち会議室の扉の前に立つ。

 恒例のはなみずき25の新曲フォーメーション発表の撮影のため、扉の向こうにはメンバー全員と数台のカメラが待っている。

 いつものように、盛れるだけの緊張感をその身にまといたがら入場する。集まる17の視線。

 多くの者が下にはなりたくないと、恐怖にも似た視線の中、現センターの高尾花菜は『私以外にセンターが勤まるのか』といった強気の視線を立木に向けている。


 そして恐怖に染まっていない視線は、他にもあった。

 現フロントメンバー、園部レミ。彼女の視線はどこでも良いから、早く寝かせろと言っている。美容番長は、睡眠時間だけでなく入眠時間にもうるさいタイプだ。

 もう一人、少しでも上にと、もっともっと高みにと挑むような視線を投げ掛けているのは、賀來村美祢だ。

 かすみそう25でリーダーとして、センターとして後輩を背負っているその目は以前とは違っていた。

 春頃の賀來村は、立木の目から見ても限界だった。理想とする自分と現実に置かれた自分のギャップに、今にも押し潰されてしまうのではないか? そう思っていた。

 何時からだろう、彼女の目に力強さと責任感が宿ったのは? 後輩が出来たからか、一人での仕事をこなしたからか。いや、あの男に出会ってからだ。

 今回のシングルは、売り上げはどうあれ話題の楽曲となるに違いない。

 立木には、立木なりの勘がそう呟いている。


 ◇ ◇ ◇


 フォーメーションの後ろから、何時も通りに名前が呼ばれていく。今回のフォーメーションは、前から3人、5人、9人の三列。

 一人目の名前が呼ばれた時から、本来なら声を出さない演出が出された場面にも拘わらずどよめきが起きる。

 立木はそれをあえては注意もせずに、名前を呼び続ける。

 二列目、本来ならもう呼ばれていなくてはおかしいその者へメンバーの視線が集まる。

 グループアイドルのフォーメーションは、単純な勝ち負けではない。だが、本人達にとっては、そのものな部分も少なからず存在する。

「二列目、三人目……賀來村!」

「はい!」

 

 美祢はメンバー全員の視線を一身に受け止め、立ち位置に付く。美祢の目には、少し悔し涙が貯まっていたがそれを理解したのは花菜一人だけだった。

「最後にセンターは、高尾! 今回も頼んだぞ」

「はい!」

 そう言いながら、立木に向かって右手を突きだし親指を立てて応える花菜。

 任せろ! と全身で言い放っている。

 そして顔は向けずに、立てた親指をカメラの方向にも向ける。まるでファンに向けて、自分に付いてこいと言っているようにも見える。


 花菜本人にはそんなつもりはなかった。

 部屋の端にいる@滴主水に、約束は果たしたと宣言しただけだった。

 しかし、ファンたちはメンバーだけでなく、自分達も引き連れてアイドル街道の真ん中を走り続ける絶対的なエースの力強さを見た。花菜がセンターであればはなみずき25は安泰だと、そう思わせるのだった。

 花菜のこのパフォーマンスにより、美祢の大躍進は霞んでしまった。

 それまで美祢の立ち位置を熱を込めて予想していたメディアは、挙って花菜のサムズアップを大々的に取り上げ報道するようになった。

 

 注目を逃した美祢は、番組でのインタビューにこう答えた。

「やっと背中が見える位置に立つことができました。次は肩を並べる位置を目指します」

 あまりの短時間であったため目立たないその言葉は、一部のファンには届くのだ。@滴主水の書いた特典小説、そして『エンドロールの外側』、それに心動かされた者は美祢にあの主人公の少女を幻視する。

 あの上を向いて泣いていた少女が、前を向き目標へと走り出したのだと。

 あの物語の続きが今始まるのだと。

 ファンの期待を胸に、美祢達の新曲活動は今始まろうとしていた。

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