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七十三話

「……え? 僕……ですか?」

「そうです! @滴先生、貴方は最低です!」

 予想もしていなかったピザ時計廻りの言葉に、目を丸くしてしまう主。周りにいた編集部の面々も同様に目を丸くしている。

「あの~、……何故?」

「分かりませんか!? こんな大事な時期に、事実ではないにしても炎上騒ぎを起こした作家の作品、誰がアニメ化したがるって言うんですか?」

「……」

 ピザ時計廻りの指摘は、主を含めて勝てる戦しか見ていなかったもの達に浴びせるには十分な水となった。

「……取り敢えず、漫画部に確認してみます」

 佐藤は少し浮かれてた自分を恥ながらも、冷静を装い確認の内線わかける。


「あ、佐藤です。牧島君戻ってますか? ……はい、はい。わかりました、直接かけてみますね」

 佐藤の渋い表情に、居合わせた人間は少しだけ焦りを感じる。

 なにも言わず牧島へのコールを始める佐藤に注目が集まる。

「あ、牧島君? お疲れ様、佐藤です。……っ! はい、なになに。うん、あ……、じゃあそっちは編集長経由で、こっちから向こうに説明するようにしてもらうから。うん、なんかごめんね。はい、は~い」

 短い通話だが、佐藤の言葉で状況を把握した数人は、逃げる者、編集長を呼ぶ者に別れてその場を後にする。

「あの……牧島君、泣いてましたね。製作委員会からこの件で説明を求められたらしくって」

「ほら! 言ったじゃないですか!」

「しかしこれは、相手の逆上ですから防ぎようが……」

 ピザ時計廻りの言葉に佐藤は主をかばうような言葉で応える。

「逆上させないことも出来ましたよね?」

 そもそも相手を怒らせないという選択も確かにあった。確かにピザ時計廻りの言葉は正論だ。正論だが、それが@滴主水でなければと、佐藤は思う。

 それが正解だと、主は言い始める。

「いえ、そんなこと出来るわけないでしょ?」

「何でですか!」

「彼女たちを貶めたままにするなんて、すべてのクリエイターを後ろから打つのとかわらないでしょ!」

 

 そう言われてピザ時計廻りは、言い返すことが出来なかった。

 自身の行動、師匠である傘部ランカの行動を思い出してしまったからだ。

 ただ横になっているように見えてもネタ出しを行っている作家。ゲームに熱中しているように見えても構想を練っている作家。

 他の仕事からみたら、遊びのような行動も作家サイドからみたら真剣な仕事の最中であることもある。

 主の言葉は、職業に貴賤なしとは、その過程も含めてすべての職業を貶めないという意味だったと理解するピザ時計廻り。

 それを理解してしまえば、いや、だがこの時期に。

 ピザ時計廻りの中で葛藤が生まれる。

 平時であれば@滴主水の精神は称賛されるべきものだ。だか、アニメ化を控え各所がナーバスな時期に対応を変えないのは、頑固を越えた独善ではないか?


「大声を上げてすみません。確かに時期を考慮するべきでした」

 悩むピザ時計廻りに、主はあっさりと引き下がる。

「アニメ化難しいですかね?」

 黙っていた佐藤に声をかける主。

「あ、そうですね。炎上したのは事実ですからそこを突かれるとなんとも……向こう次第、としか」

「じゃあ無くなっても良いように動かないとですね」


 主は佐藤とピザ時計廻りを残して編集部を後にする。

 それを見送りながら、佐藤は自身の手に力が入っていたのを遅れて理解する。

「あ、スイッチ押してたか。データは写してるから大丈夫……だな。一応マスターだから確認しないと。……ピザ先生今日のところはお帰りいただいて、後日牧島と伺いますので」

「……はい」

 頭を下げながら、ピザ時計廻りは走り出す。今も主の行動が正しいのかを問い続けながら。

「さて、どうしたものか」

 佐藤は自身はどうするかを思案する。今回のアニメ化が流れたとして、疾風迅雷伝にどのような影響を与えるか。

 それを考え始めた矢先、不意に先程の主の言葉が戻ってくる。

「……動く? 何処に?」

 そこはかと無く嫌な予感を覚えた佐藤は、急ぎ主をコールし確認作業を始めるのだった。


 ◇ ◇ ◇


「本当にあなたって人は、行動が速すぎるんですよ!」

「でも、偉い人には最初に言っておかないと。言い訳作る時間あるといざって時に尻込みしちゃうんですよ」

 主を追って佐藤が向かっているのは、はなみずき25と先日デビューを発表したかすみそう25が所属している事務所だ。

 もちろん芸能界のフィクサーこと、安本源次郎がいる事務所でもある。

「それにしてもなんで、一番があの事務所なんですか?」

「いや~、リップサービスだとは思うんですけど、オープニング曲書くとか言われてたから、万が一本気なら一番に言っておかないと怖いじゃないですか」

「……確かに。英断です先生」

「でしょ?」

 自慢気な顔の主とそれに少しイラついている佐藤は、気を引き締めなおし事務所へと足を踏み込むのだった。

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