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七十二話

 主は電話を切り、美祢達を見る。

「ちょっと問題起きたから、僕たちはこれで。これで何か注文していくといい、一応帰りはタクシー呼んでもらいなさい。いいね」

 そう言って、テーブルに数枚の紙幣を置いてピザ時計廻りを呼ぶ。

「……わかりました。ヒーちゃん、また連絡するから」

「あ、あの! ……」

「ごめんね。一大事なんだ」

 そう言って、主は美祢達を置いて店を後にする。


 ◇ ◇ ◇


「すみません、遅くなりました!」

 ピザ時計廻りを伴い編集部の佐藤のところまで到着した主。

 佐藤の周りには、数人編集部の人間が佐藤を取り囲んでいた。

「どんな感じですか?」

「あ、先生! このありさまですよ」

 佐藤がデスクのディスプレイに主を誘う。主が見たのはおびただしいまでの主を批判コメントだった。

「大元は?」

「こっちです」

 佐藤が操作して出てきたのは、一つのアカウント。

 そこに書かれていたのは、主がロリコンで女性差別を擁護する発言をしたという内容のものだった。

 ホテルで行われたかすみそう25の結成記者会見のことも書かれていて、状況的にはこのアカウントは淡路岬のものと見て良い。


「まったく、先生。本当に女性運無いんですね」

「これに関しては叔母の見る目が無いということにしておいてください」

 そう言いながら、主はどこかに電話をかける。

「ダメだ、出やしない」

 コールしかしない呼び出しを切り、別のアドレスを出して再びコールを始める。

「あ、潤か? 久し振り。ああ、違うんだ、一つお前に仕事を依頼したくってな。最悪お前の母親に内容証明送ることになるかもしれないが、受けるよな?」

「あ、先生、こちらの顧問弁護士も介入するので弁護団って形でお願いします」

「だそうだ。うん、すまんが今から来れるか? 住所は……、ああ、頼んだ」

 電話を終えた主は、気の抜けたような笑いを浮かべる。

「まさか、本当にこんなことになるなんて、先生の担当になってから退屈って意味を忘れましたよ」

「佐藤さんの危機管理能力には頭が下がりますよ、本当に」

 電話で話していたほど慌てていない主と佐藤を不安げに見ているピザ時計廻り。

「あ、あの……いったいどういうことなんでしょう?」

「ピザ先生ですね、@滴先生の担当の佐藤です。本当は牧島から説明させたいところですが。まあ、要約するとこの@滴主水先生には女難の相が色濃く出ているってことですかね」

「ちょっと、佐藤さん? これは僕だけのせいじゃないと思うんですが?」


 先日ピザ時計廻りにもアニメ化の話は届いていた。

 そんな大事な時期に、こんな炎上の仕方をしてしまえばアニメ化はできるわけが無い。

 なのに、原作者も原作の担当編集者もそれほど慌てている様子が無い。

「あ、あの! 大丈夫なんでしょうか?」

「ああ、大丈夫なんですよ。こっちには証拠がありますし」

 そういって佐藤がピザ時計廻りに見せたのはとある機械だった。

「ボイスレコーダー……ですか?」

「そうなんですよ、お見合いの前に一応のためって渡されたんですけど。まさか本当に必要になるとは……」

 主は苦笑いを浮かべている。

「受けるつもりがないからって、あれは言いすぎですよ先生。そりゃこうなりますって」

「いや、だって黙ってはいられないじゃないですか!」

 佐藤の指摘に心外だと、今度は一転眉をひそめる。

「あ、あの! まったく話がわからないんですけど!!」

 大人しそうな見た目のピザ時計廻りが出した、大音量に周囲の人間は一様に動きを止める。

「@滴先生! 佐藤さん! 説明してください!」

「は、はい。えっと……、僕から……で、いいですかね?」


 主は昨日のお見合いの経緯と結末を丁寧に、それはそれは言葉を選びながら細かく、出来るだけ詳細に説明をしていく。

 そして件のボイスレコーダーの中身をその場にいる全員で確認する。

「おー、途中までは先生じゃないぐらいうまく行ってるじゃないですか。最後の落差はちょっとしたサイコ野郎ですけど」

 佐藤は感心していた。お膳立てされているとはいえ、一応まともにエスコート出来ているように思えた。音声を聞く限りはだが。

「佐藤さんの中で僕がどういう設定なのか、詳しく聞く必要がありそうですね」

 佐藤と主、周りの編集部の面々は、安心したのか口々に冗談を言い始める。

 炎上の火種になった発言が、一切主は発していなかったからだ。すなわち相手は頭に上った血のせいで、無いことないことを発信しているのだ。この証拠音声で、何もかも終わる。アニメ化も無事ということだ。


「……てい」

「え?」

 ピザ時計廻りほ、隣にいた主にも聞こえない声でなにかを呟く。主からは伏せられたピザ時計廻りの表情は見えない。

 何故か佐藤は椅子ごと、少しだけ距離をとり始める。

「最低!!!!」

 直後、ピザ時計廻りは周囲に人など存在していないと言わんばかりの声量で叫ぶ。

 驚いた主ではあったが、即座にピザ時計廻りをなだめにかかる。

「まあまあピザ先生。相手のことは弁護士に任せましょう! こっちの勝ちは揺るがないんですし、そんなに先生が怒ることでも無いですよ」

 その言葉にピザ時計廻りは、主わ睨み付ける。

 まるで、般若か何かのような表情をしている。

「いえ、これには怒っています私! あと、最低なのは、@滴主水先生。貴方です!」

 その言葉と共に、ピザ時計廻りの指が突きつけられる。

 いったい何故そんなことを言われなくてはいけないのか? 主はピザ時計廻りの圧力に押されたたらを踏んで二歩下がる。

 

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