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六十三話

「まったく! アイドル二人が男のことで喧嘩して、情けない!」

 美祢と花菜、二人の共通の友人武藤ユミむとうゆみ。ユミは二人の頭部に振り下ろした両手を自身の胸の前で組む。

 二人にとって嫌いなポーズだ。まるでユミが胸を強調しているかのように見えるから。

 美祢はもちろん、花菜もユミに勝てない部分。今の心情では見ているだけで不愉快な気分にさせられる。

 二人はまるで申し合わせたように、ユミの組んでいる腕を引きはがす。

「真似しないでよ」

「そっちこそ。……まあ、美祢が見てるの辛いだろうと思って、優しさだったんだけどねー」

「大きければえらいってものでもないでしょ。バランスが大事なの。この出尻でっちり!」

 花菜は自分の臀部をさすり、美祢を睨む。

「だから! 番組でのネタ、プライベートで使わないでよ!」

「なによ!」

「だから! やめなさいって!!」

 再び二人の頭部にユミの平手が振り下ろされる。そしてまたユミの胸部が強調される。今度は振り払われないようにブレザーの袖をガッチリと握られている。


「まったく! アイドル二人が! 一人の男を取り合うなんて夢のないことしないでよね」

「……取り合ってなんか」

「……いないもん」

 再度アイドルを強調され、放たれた言葉に二人の勢いがなくなる。

 それを見てユミはため息をついて、ようやく本題に移れるといった表情をする。

「あのね、別に私はアイドルだろうが恋愛してもいいとは思ってるよ? けどさ、世間はそうじゃないの知ってるっしょ? 花菜!」

「……なに」

 ユミは未だに立ち上がらない花菜に視線を合わせる。

「本当に好きなら、その人に窮屈な思いはさせちゃダメ。付き合っても大丈夫な環境づくりをしないと。絶対長続きしないし、自分のこと以外で嫌われたらいやでしょ?」

「……」

 今度は立ち上がり、ユミは美祢の方を見る。

「ミー君、誰かはわからないけど、その先生? が好きなら他人任せにしない。あと、ミー君がその人どう見えてるかわからないけど、自分の感覚でその人を語っちゃダメ。その人がどう思うかはその人しだいでしょ?」

「……」

 二人はユミの言葉に唇を尖らせる。


 ユミが二人に出会ったのは中学2年の頃。やけに目を引く二人組だった。

 片やその容姿で校内の男子の目を引き、片やその朗らかな性格で男子の注目を集めるマドンナ的な存在だった。偶然クラス替えで二人と同じクラスになってから、ど言うわけか高校も同じクラスで過ごしている。

 近くで接してみれば、二人はどこにでもいる女子だったし、男女の垣根などないようにふるまう二人がうらやましいと思うことすらある。きっと二人の周りにはもっと多くの友人であふれているはずだった。

 何より、色とりどりの恋の物語が二人にはあったはずだ。

 しかし中学生の内に二人は、芸能界へと飛び込んでいき世間からも注目される存在になった。

 中学の修学旅行は不参加だし、高校の行事もまともに参加できていない。 

 もっと二人と過ごした思い出があったはず、忘れられないイベントが二人とあったはず。

 だが、二人はそれ以上の何かのために必死な毎日を送っている。だからこそ、たかが恋愛でその日々が汚されるのはどうしても納得がいかない。

 だって、恋愛は人が日々を過ごすうえで当たり前にやってくる、日常なのだから。

 学校での思い出を取り上げられ、その上日常であるはずの恋愛の機微すら感じることを許されないのは、呼吸を許されないのと変わらないとユミは思う。

 

 それにしてもとユミは思う。この友人二人を争わせるほどの人物がどのような人物なのか、ユミは少しだけ興味をそそられる。

「ちなみに、その先生ってどんな感じの人なの? 紹介してほしいなぁ~」

「ダメに決まってるでしょ」

「ユミちゃんは、特にダメ」

 まったくこの二人はよく似ている。さっき不貞腐れた顔も、今の拒絶のしぐさも姉妹なのかと思ってしまう。

 ユミは思わず吹き出してしまう。

「クッ、ブハッ! ちょっと、シンクロ芸やめてよ~!」

 二人は今度は怒った顔で、ユミに言い返す。

「ちょっと! ユミまで、番組ネタはやめてってば!」

「ユミちゃん! そういうイジリは花菜だけにしてよ」

「はあ!?」

「なに!?」

 向かい合って、またも言い合いが始まりそうな雰囲気が漂う。しかし、先ほどのように殺気立ってはいない。


 ユミは想う。世の中にはなんと罪づくりな男がいるのだと。一人は誰に問うでもなくトップアイドルの花菜、もう一人は最近注目の遅咲きのアイドル、人呼んで泣き虫みね吉こと賀來村美祢。

 この幼馴染みで親友で、まるで姉妹かのような二人にこれ程強烈な恋心を抱かせるとは。

 きっと産まれながらに全てを手にしている完璧な男……いや、この二人が選ぶのなら、何処にでもいるような優しさだけが取り柄と言った風貌かもしれない。

 そう想うと、ユミの好奇心は止まらない。

「ねー、やっぱ紹介して」

「やですー」

「仕方ない、美祢!」

「あ、こら! 二人とも待て~!」

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