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四十七話

「あの二人が主軸?」

「ああ、上田もセンターの暴走を間近で見ていてくれたおかげで、メンバーの異変に敏感なんだ。それを埼木にアイコンタクトで教えて、うまいことブラインドしてつまずいたメンバーフォローする動きを見せるんだよ、レッスン中なのにな。あれが客を意識しての動きなら……ちょっと面白いだろ?」

 はじめは本多も偶然かと気には留めなかったのだが、レッスンを繰り返すたびに似たような動きを見せる二人。そして極めつけは二人の動きから他のメンバーも異変に気が付き、無理のないような立ち位置へと微調整をしていた。

 あくまでセンターとフロントに違和感が出ない程度だが、後ろは後ろでグループを盛り立てるためにその役割を全うしようと必死になっている。

 その中心が日南子と美紅なのだ。

 美祢がその完成度でセンターとして役割を全うし、つぼみを盛り立てようと動いている背中へちゃんと援護射撃ができている。


 アイドルとしての自分たちよりも、グループアイドルとしてのつぼみを盛り立てようと動く。

「あの性根は貴重だからな。育てようとして育つモノでもない」

「う~ん、園部の負担は減らないね~」

「それは賀來村が、上に行きゃ勝手に崩れるんじゃねーか? 下からの突き上げが強烈なら」

 安本は諦めたように、ソファーに深く沈む。

「それじゃ、つぼみを別グループにするために増員でもするかね」

「あー、……そりゃもうちっと後のほうがいいな。埼木は大丈夫だが、上田は今のつぼみってグループへの依存が高いから。せめてデビューしてからなら大丈夫だろうが、今だと辞める可能性もなぁ」

 年上の美紅に比べ、日南子の精神はまだまだ15歳の年相応だ。ようやく役割を見つけたにもかかわらず、それが無駄になるとなれば、簡単に折れる可能性のほうが高いと本多は判断した。

 本多は彼女たちをもうちょっと長くしっかりと育てるつもりのようだが、激動の時代に劇的なアイドルを目の前で失った安本はそう判断はしない。

 守るときはきっちり、しっかりと守る。

 しかしチャンスへの試練には一切手を抜かない。それに打ち勝てないなら、高橋恵美子の欠片を持つに値しない。それが安本のアイドルへの真摯な向き合い方だ。


「それに……」

 本多は安本という男を熟知している。今ここで本多が言葉を尽くそうが、自分の考えた計画を遅くすることはない。だから、本多は攻め方を変える。

「賀來村が上に行くにはまだ時間がかかる」

 元の計画である賀來村美祢への育成が、十分ではないと本多は安本に告げる。

 はなみずき25をより大きくするためには、賀來村美祢の台頭はどうあっても外せない。そのためのつぼみであり、つぼみが潰れる可能性を推してでもやり遂げる必要性が安本の中にはある。

 だが当の美祢が花開く前に、つぼみを摘花する意味はない。

「あとどれくらい必要だ?」

 安本の表情が、途端に面白くないものを見せられた時のように曇る。

「そうだな、最短で半年は」

「ふぅー。じゃあ彼には、@滴主水にはあとで仕事を追加発注しないとね」

「ん? つぼみのほうもあのあんちゃんか?」

「ああ、彼女たちも懐いてる、それに本当に彼が福をもたらすのか知りたいじゃないか」


 安本は伸びをして、席を立つ。

「彼には僕が借り一つってことで、あとで我がままを聞いてあげることとしよう」

「わるいね、大先生の手を煩わせて」

「何、いいよ。どのみち必要な投資になるだろうからね」

 安本は本多のほうを見て、溜息を吐きだしながら歩きだす。

「それに、ただで聞いてあげるわけじゃない。検証も含めて必要なことだ」

「さすが、我らがフィクサー様」

「僕はその呼び方嫌いだよ?」

「知ってるさ」

 本多は安本を笑いながら席を立つ。

「新しいアイドルの誕生は近いな」

 本多には確信があった。個々の魅力だけではなくグループ全員でファンを魅了するアイドルとなることを。いつか誰も見たことがない大輪が、彼女たちの下に花開くと。


 ◇ ◇ ◇


「はい、3巻の原稿確かにいただきました。それと先生にご相談なんですけど」

「はい?」

 主ようやく上がった原稿に胸を撫で下ろしながら、冷めたコーヒーで口を潤していると、佐藤が神妙な顔で相談を持っていた。

「あの、漫画部の方からの相談が来ていて、先生の以前の作品を原作として使いたいって話なんですけど」

「あ、ありがたいです! ……でも、どれですか?」

 主が小説投稿サイトに投稿したのは、全部で10作品。中にはシリーズ化したものもあり、全部がそのまま使えるとは主でさえ思っていなかった。

「えーと、ああ、先生の『魔法創世神話』シリーズですね」

「アレですか? 自分で言うのもなんですけど、漫画に向いてないと思うんですけど。古いし今風とはかけ離れてますよね?」

 『魔法創世神話』シリーズ。主の書いた作品では、初期に位置する作品群で、『ゼロから始める魔法体系』『誰がために鐘は鳴るが、俺のためには鳴らないらしい』『遥か空の下、踊れ魔法陣』の3作品がそれにあたる。

 異世界を舞台に魔法がどのように出来たかというのが題材のもので、それぞれ魔力変換、詠唱魔法、魔法陣というファンタジーの定番魔法の発祥考察と武術の融合がコンセプトになっている。

「どうやら興味を持った漫画家がいたようで」

「変った人もいるんですね」

 自分で書いておきながら、興味を持った他者を変わり者扱いする主。

「詳しくは、漫画部の方で」

この話で名前の出た小説タイトルは、ゼロから始める魔法体系は拙作イチから始める魔法体系をタイトルを変え使っています。よろしければ読んでやってください。

「誰がために~」と「遥か空の下~」は今後連載予定のタイトルとなっています。

特に「誰がために~」はすでに50話近く書き溜めておりますので、今作連載終了後に始めようと思います。その時は宜しくお願いしたいと今のうちから言っておきたいと思います。

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