三百七十四話
「みんな、お疲れ様! 今日も良かったよ!!」
はなみずき25の新曲披露ライブが終わり、ステージ裏に来たメンバーたちを出迎えるスタッフたち。
必要以上に明るいのは、先ほど流した特報のせいだろうか? ただでさえフォーメーションという判断基準のわからないモノで振り回しているのに、今度は2グループで出演権をかけて争わなくていなけない。
そんな愚痴を言うメンバーなどいないというのに。
賀來村美祢の活躍を見れば、何がどう作用するかわからない。むしろチャンスの機会をこんなにも用意してくれるレーベルや事務所のスタッフには感謝しかない。
自分たちがどれほど恵まれた環境にいるのか、それは芸歴を重ねるほどわかるのだ。
仲良くなった同業者、たまはそれを知っている共演者からたくさんの実例を教えられるから。
話題作りという困難な仕事をしてくれるスタッフの存在を忘れてしまうメンバーは居ない。
これも一時期の低迷期があったからこそだろう。
メンバーは、笑顔でスタッフたちにお礼を言いながら楽屋へと進んでいく。
そして一番に楽屋に着いた宿木ももは、扉を開けた瞬間固まって動けなくなってしまう。
自分たちの楽屋に男性の姿が見えたからだ。
「もーちゃん、どうしたの? ……っえ? 青色さん? ……何でいるんですか?」
「おー!! みんな! 今回のライブも良かったよ!!」
驚いているももを訝しんだ菜月がももの肩越しに楽屋を覗き込んで驚きの声を上げる。
そんな二人に気安く声をかけたのは、冠番組『はなみずきの木の下で』のMCを務めている青色千号の二人だ。
楽屋の中をよく見れば、カメラなどの番組スタッフもしっかりといる。
いや。いるのはライブ開始前から知ってはいるのだが、なんで番組MCと共にいるのかということだ。
「うわぁ、また何かやってたんだぁ……」
後ろから現れた美祢が、瞬時に状況を理解する。
三期生は「え? 何? 何やられたって」と未だに状況を理解できていない様子だ。
しかし、一期生たちは美祢の反応で全て理解できた。
あの美祢が普通に嫌そうな声を上げるのは、これしかないから。
「おっ! 先輩メンバーは理解が早い!! そうでぇ~す! ドッキリでぇ~す!!」
片桐の小馬鹿にしたようなネタバラシ。
それに先輩メンバーは悲鳴を上げる。
ライブ前に何をやっていたかを必死に思い出そうとしている。
しかし三期生は、いったいなんで先輩たちはあんな反応なのかと、いまいち反応が鈍い。
「そう! 今日一日、密着していたカメラ。あれだけがドッキリ用のカメラではございません!」
片桐と同じように楽しそうな小向が、先輩メンバーの懸念を公表する。
まだ状況が理解できない三期生のために、片桐は一番嫌がっているメンバーに話を振る。
「さて美祢、それはどういうことでしょうか?」
「はぁ……隠しカメラが仕込まれてる。ですよね」
「正解正解! 大正解! メイク室にもケータリングスペースにも、もちろん楽屋にもありますよぉ~!!」
その片桐の言葉でようやく三期生達は状況を理解する。
遅れてきた三期生達の悲鳴に満足げにうなずくMC陣。
「さて、今日おかしなことありましたよね?」
「あっ!!」
片桐の問いかけに一番最初に反応したのは、三期生の佐介心優だ。
「心優ちゃん! 何があったかな?」
「あの、私! ケータリングスペースで」
「おお!」
「アイスの当たり引きました!」
「それじゃない! 単純におめでとう!」
「え~~」
まったく関係ないと言われてしまって残念がる心優。それを横目に同じく三期生の宝子山珠美が恐る恐る手を挙げる。
「はい! 珠美!」
「あの、確信無いんですけど……智里ちゃんが、変なお弁当食べてましたよね?」
「正解! 珠美1ポイント!」
「やったぁ~!」
「商品は何もありません」
「え~~!」
小向はフリップボードを取り出して、珠美の当てた項目の紙をはがす。
ちょうど真ん中あたりの項目だったようだ。
ということは、隠しの部分に幅からあと7個の隠し事があるらしい。
何が隠されているのか? それももちろん気にはなるのだが。
先ほど名前の出た矢作智里が、段々と立ち位置をMC陣に寄せている。
そんな智里にカメラの画角に入らない位置から美祢の視線が智里に飛んでいる。
お前、まさか……。
そんな視線が突き刺さっていた。
寄ってきた智里が肩を縮めていることに気が付いた片桐は、チラチラと智里が見ている先を確認する。
「こぉ~ら、美祢! 後輩をそんな顔で睨むんじゃない!」
片桐がそんな言葉を口にすれば、カメラは美祢の表情を撮ろうと動きだす。
カメラから隠れて睨んでいた美祢は、カメラの前でもその表情を変えない。
そして交互に撮られる智里の怯えたようなリアクション。
バラエティー的には大正解の表情と態度。
片桐はそんな二人を見て、本当に成長したと笑ってしまう。




