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三十七話

 美祢がアイドルとして有名になりかけているその時、主もアイドルカーニバルの会場に来ていた。

 もちろん取材の名目で、はなみずき25のステージを観に行く予定ではあったが途中聞き覚えのある楽曲が他のアイドルのステージから聞こえてきて足を止めていた。

 そのステージでパフォーマンスをしていたのは、リリープレアーだった。もちろん聞こえてきたのはコーナー用の『On Your Mark』だ。

 よく知るその楽曲をなぜ他のアイドルがやっているのか、主は良く知らなかったがなんとなく気に止めてしまった。

 よく頑張ってはいるが、レッスン不足なのだろう。所々主でも分かるミスが目につく。

 何よりセンターが、その長身のためかミスがよく目立つ。

 それでも会場は沸いているのだから、それが正解なのだろう。しかし、主の目に映るセンターはそうではないようだ。


 最初は本物の男性かと思わせるほど、凛々しく伸びていた背中が次第に丸くなりその顔も次第に女性のそれに変わっていくように主には見えた。

「先生、メインステージもっと先ですよ?」

 佐藤に声をかけられ、笑顔のままステージから目を離す。

「どうしたんですか? 怖いぐらい笑ってるじゃないですか」

「ちょっと可愛い人を見つけたもので」

「あ、良いんですかそんなこと言って? はなみずき25の子たちに言っちゃいますよ?」

「え? それは勘弁してもらえませんか?」

「だったら、早く彼女たちのステージに行きましょうよ。間に合わなくっても知りませんよ?」


 そうして主がメインステージに付いたときには、美祢のソロ曲が流れていた。

 美祢を見た主は、いつも通りと顔をほころばせていた。

 そのステージで数十分前に何が起きたのか、主は知らないまま。

 主がステージに間に合わなかったのはつぼみを含めた、はなみずき25のメンバーたちにすぐにバレる。

 主がスタッフにあいさつし、好意で楽屋に案内され、佐藤と共に差し入れを行い感想を求められる。その一連の流れでいとも簡単にバレたのだった。

 出演者であるはなみずき25のメンバーでさえ、理解に追い付かない事件と言っていい出来事を知らないのだからバレるのは当たり前の出来事だった。

 比較的仲のいいつぼみのメンバーにも白い目を向けられ、理由を問い詰められる。

 佐藤の懸念が本当になり、とてもじゃないが他のアイドルを見ていたとは言えない雰囲気となる。

 そこに救いの手がさし伸ばされる。

「はなみずき25の皆さ~ん! ステージに御願いします!!」

 それは次の出演者の準備のため、会場でのトークコーナーに呼ばれた声だった。

 内心助かったと胸をなでおろす主に、埼木美紅は言い放つ。


「さっきの答え聞くまで帰っちゃダメですからね! 佐藤さん絶対帰さないでくださいよ!」

「はいは~い。大丈夫、この先生ね、このあと何も予定無いの確認済みだから」

「裏切りましたね、佐藤さん!」

「すみませんね。我が社は彼女たちにもお世話になってるんで」

 こうして佐藤と二人、いや、一応対応してくれるスタッフもいるので3人だけが楽屋にとり残されることになる。

 さすがに孤独と慣れ親しんだ男、佐川主でもこの状況でそのまま帰ることは憚られた。

 スタッフもゆっくりしてくれと、飲み物を差し出す。

 帰るに帰れないまま、飲み物に口を付けると緊張からか不意に尿意を感じる。

「ちょっとトイレ行ってきますね」

「そういって帰っちゃダメですからね」

「帰れませんよ」

 肩を落としながら主はトイレでの用を済ませる。

 

 楽屋への帰り、壁にうなだれている高身長の何かを見つける主。

 悲しいことに覗こうとしなくとも、主の身長ではその顔を容易に確認できてしまった。

「あ、さっきの可愛い人」

 さっき見かけた顔に思わず口をついて出てしまった言葉。

「へ? 誰?」

 その高身長の顔は凛々しさを失い、年齢通りの可愛い顔をのぞかせていた。

 しかも目には涙も浮かんでいる。

 もうだれの目にも可愛いとしか言いようのない女の子がいた。

「あ、さっき君たちのステージ見させてもらって、ミスに動揺する姿がかわいいって話してたんで、つい」

 女性、特に仕事場以外での女性に免疫がない主は、しどろもどろで水城晴海の視線から発せられた疑問へ答えていた。

「可愛い? 僕が?」

「あ、うん。そうですね、可愛かった……ですね」

「はじめて……言われた」

「ああ、そうですよね。じゃ、じゃあこれで」

「あ、あの!」


 ◇ ◇ ◇


「で? 私たちの楽屋に他の女連れ込んで何してるんです?」

 花菜が主の襟を絞り上げ、悲しそうな表情で美祢は花菜から目をそらしている主を見て、何故か美紅も主に詰め寄っている。

 その4人とテーブルをはさんで向こう側に、何故かモジモジとしたいつもとは違う乙女になった水城晴海が座っていた。

「まるで浮気現場を押さえられたダメな男みたいですね、先生」

「不倫はダメですよ、先生」

「4股とか、サイッテーやん! ップフハ!!」

 佐藤と園部、小山あいはそんな状況を楽しんでいるかのような表情を見せ、しきりに煽る。

 他のメンバーは香山恵を抑えるのにライブで酷使した体に鞭を打っていた。

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