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三百五十話

「おおーーー! 嬢ちゃん! 忙しいのに悪いな!」

「良いんだって。師匠にはお世話になってるし! お祝いくらいさせてよ!!」

 主は花菜と間宮がじゃれ合う姿をみて、自分の選択が間違っていなかったことを再確認する。

 主だけでは見れなかった。美祢だけでも見れなかった。あの頃を思い出す笑顔。

「見てみて……じゃぁ~~~ん!! 登録者数100万人おめでとう!!」

「プレゼントか!? いやぁ~……本当にいいのか?」

「良いって良いって! あ、はい。政尾さんにも!」

「わ、私にもですか!? あぁ~恐縮です。高尾さんから贈り物をもらえるなんて……」

 まるで表彰でもされているように、政尾は恭しく一礼をしながら花菜の贈り物を受け取る。

 そんな政尾の態度に、花菜のホホが膨れる。

「もぉ!! また言ってる! この場では私は政尾さんの妹弟子なんですから」

「アハハ! 無理言ってやるな! 妻と娘にズルいズルいって責められて大変らしいからな」

「お義父さんがあきらにバラしたせいですからね」

 孫の可愛さに負けて、自分が芸能人にあっていることをばらしてからというモノ。共に行動している義理の息子は家庭内で度々非難を浴びるようになっていた。

 特に娘の政尾晶が、はなみずき25の大ファンで花菜を推している。だからこそ、ファンでも知らない花菜の姿を知っている父親を責めるのだ。ズルいと。


「あ~……でな? 嬢ちゃんには申し訳ないんだが……何枚かいいかな?」

 先ほどまで義理の息子を笑っていた間宮が、神妙な顔をして花菜にケイタイを向ける。

「ああっ! 写真? いいよ。キレイに撮ってね」

「お、おう……佐川、頼んでいいか?」

「うわぁ、完全におじいちゃんじゃないですか。さすがにそれはちょっと……」

「お前もおじいちゃんになればわかる! だから頼む!!」

「はいはい……花菜ちゃん、いくよ」

「はーい」

 そして花菜の撮影が始まった。

 居酒屋の座敷という場違い感満載の花菜の撮影。

 グラビアやモデル仕事で培った撮られる技術をいかんなく発揮し、主もそれに合わせて何度もシャッターを押していく。

 あまりに手慣れた空気で間宮と政尾は呆然としながら視ているしかなかった。


「ん~~。これでしょ、これ、これも。それと……」

 一通り撮影が終わると、花菜は主からケイタイを受け取り自分が映っている写真を選別していく。

「花菜ちゃん。そろそろ乾杯」

「はいはい、ちょっと待ってね。私はこれでいいかな。沢口さんチェックよろ」

「はぁ~。本当はダメなんですからね」

「いいじゃんいいじゃん! お祝いなんだし!」

「はいはい。わかりました。……まあ、大丈夫でしょう」

「すまないな。嬢ちゃん」

 ザっと確認した沢口からケイタイを受け取った間宮は、改めて花菜に礼を言う。

「いいのいいの! 御礼は私がしたいくらいなんだし」

 どこまでも勝手で独裁的、それでいて誰からも好かれるような明るい笑顔。

 主の、美祢と主が待ち望んでいた花菜の姿がそこに帰ってきていた。

「やっとね。踊れたんだ……初めて踊れたの」

 政尾と間宮には何のことかわからなかった。沢口も本質はわかっていない。

 主だけがその言葉の意味を理解していた。

 長く花菜を苦しめていた、とある楽曲のダンス。

 今の花菜の現状と美祢の現状を創り上げてしまった、はなみずき25の魔曲。


「本多さん、なんだって?」

「みんなにお礼が言いたいって」

 花菜の顔が笑っていた。心底嬉しそうに。

 主はこの5年間を思い出す。暇があれば花菜を誘い出して、気晴らしだと言って食事などに連れ出した。

 だが花菜の顔に笑顔が戻ることは無かった。

 しかし今日の花菜の笑顔を見れば、すべてが報われた。

「そっか……良かった」

 主は考え方を変えた。花菜が笑えなかった原因を考え、それを取り除くこと。

 だから、花菜を間宮に紹介した。

 自分の技術だけでは、今の花菜の望みをかなえられないかもしれないと。

 自分の知識だけでは、花菜の望む場所には届かないかもしれないと。

 そして、固辞していた印可状を受ける代わりに花菜に教えを授けて欲しいと願った。


 忙しい本多ともコンタクトを取り、間宮と本多を引き合わせもした。

 何度も断られ、渋った老人たちに何度も頭を下げた。

 それもこれも……この花菜の笑顔を取り戻すため。

 主はようやく場を整えるところまでこぎつけた。

 引き受けたくもなかった仕事と引き換えにした甲斐もあったようだ。

「何ホッとしてんだよ。……あれか? 師匠の技術を疑ってたのか?」

「そんな訳ないじゃないですか。信用してますよ」

「ふふふ。まあ、この嬢ちゃんは天才だからな。俺様の次に!」

「はいはい。……師匠?」

「あんだ?」

「花菜ちゃんに余計な技術教えてませんよね?」

 ふと、主は間宮の言葉にひっかった。

 間宮が花菜を天才だと言うのは、何となくわかる。

 少なくとも才能が無いと言われた自分よりは才能の塊だろう。

 しかし、なんで自らとの序列なんかを口に出したのか?

 間宮は武道以外、孫のことにしか興味が薄い。そんな間宮が花菜を気に入っている節が見える。

 何故だ?

 主の問いかけに間宮の視線が泳ぎだす。

「ひ、必要なことだよ。……まあ、その延長もついでに……教えたけど」

 主の視線に間宮が白状し始めた。

「ああ、『拍子抜け』だっけ? 先生が考えた技」

「師匠……」

「いやぁ、だってな……」

「意外だったぁ。先生があんなに危ない技考えてたなんて」

 危ない技? 花菜の言う『拍子抜け』が猫のことなら、ただ後ろに投げ出すだけの技のはず?

 主の間宮をみる視線が厳しくなる。

「と、ちょっとな。アレンジ加えて打撃技にしちゃった」

 主の圧力に耐えられなかった間宮は、舌を出しながらおどけだす。

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