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三百四十九話

「いや~! まさか100万人突破するなんてな! やってみるもんだ」

「ええ、本当に。資料作成で睨まれてた日々は何だったんでしょうね?」

「細かい事なんか気にするな! 弟子として師匠の成功を喜ばんかい!!」

 主が本業だとしている@滴主水の活動には、欠かせない人物がいる。それがこの上機嫌な爺様である間宮一穴まみやいっけつ、本名を間宮寿人まみやひさと

 主にとって彼は、師匠を自任する人の話を聞こうともしない暴君的存在だった。だが主の作品に登場するキャラクターたちのアクションには欠かせない存在なのだ。

 間宮は間宮流弓術という古武術の師範を務めており、道場を構えその術理や教えを広めている。

 主にとって武術の達人といえば間宮しかおらず、その間宮流弓術の動きをもとに場面を作ってきた。

 主の作品がメディアミックスされた時、その独特な動きの詳細を求められ、その度に間宮の演武を録画し参考資料として漫画家やアニメスタッフへ動画を渡していた。

 そんなことをしていたら間宮は動画を取られることに抵抗は無くなったが、主の要請の度に動画に協力するのが面倒だと言い出した。

 そして、新しいで新しい弟子のひとりに『だったら、動画サイトで技の解説動画でも投稿しちゃえば?』などと言われたことをきっかけに、チャンネル開設。それを見た格闘技系動画投稿者に目を付けられて、あれよあれよという間に100万人の登録者を達成してしまったのだ。

 本来の目的の技の解説だけではなく、ほかの動画投稿者とのコラボやスパーリング動画なども投稿され、それが格闘技界隈にウケてしまった結果だ。


 この間宮の開設したチャンネルがウケた本当の原因は、何も技の解説やコラボが原因ではない。

 よくある古流を馬鹿にした検証動画を上げている動画投稿者と試合をして、勝ってしまったことで爆発的な人気を得たのだ。20代のイケイケな競技者を老人が手玉に取り、あろうことか相手の得意な技で一本を取り、その上煽りに煽りまくって逆上した相手を故障しない程度に小突きまくったのだ。

 あまりに大人げない老人の対応。完全に炎上すると思われた動画は、その巧みな試合運びに格闘技ファンから大絶賛を受けた。

 そんな危険なチャンネルの記念に、なんで主がいるのかといえば単に師匠と弟子だからというわけではない。

 数年前からある依頼を主が間宮にしたからだ。

 それがきっかけで間宮のチャンネル開設につながったのだから、間宮も上機嫌で主を呼びつけたわけだ。


「お前と嬢ちゃんに関わってから、本当に毎日退屈せんでいいわ! お前の依頼を受けて大正解だった。な? 政尾」

「本当に……あの時はちょっと怒ろうと思ってましたけどね」

 主が間宮に依頼した時、政尾は本当に怒っていた。

 下手をすれば、補助具無しでは歩けないほどの技を受ける羽目になっていた。

 事実、その一歩手前まで行っていたのだ。

 だが間宮が面白そうだと言い放ったお陰で、こうして主は無事でいられる。

「まあ、俺をこれ以上利用しようなんて。なんてふてえ弟子だとは思ったがな。……で? あの嬢ちゃんは?」

「たぶん、そろそろ来ると思いますけどね。ただ酒は大好きなんで」

「あんだけ良い女なんだ。お前も驕りがいがあるだろ?」

「師匠。そんなことあると思います?」

「おいおい、彼女なんだろ……?」

 間宮が確認した瞬間、主のケイタイが鳴った。

「もう下まで来てるみたいです。迎えに行ってきますね」

「お、おう」

 話を遮るような、一切続きを話させないまま主は間宮のとなりから席を外す。

 主がそんな態度を取るのは珍しい。

 もしかしたら怒らせたのでは? そんな不安そうな顔を政尾に向ける間宮。

「なんだ? あいつら、付き合ってたんじゃないのか?」

「あの様子だと、違うようですね」

「じゃあ、なんでアイツはあの嬢ちゃんにあんなに一生懸命なんだ?」

「何か、別の目的があるんじゃないでしょうか?」

 間宮と政尾は不思議そうな表情のまま、主の出ていったドアを見つめる。


「あ、いたいた」

「あっ! 先生!」

 迎えにきた主を見て、明るい表情を見せるのは……花菜だった。

 先日発売した週刊誌で、飲酒癖と報じられた花菜。そのアイドルがこうして依然と同じように主と同じ酒席に参加しに来たのだ。

「あ、沢口くんも来てくれたんだ」

「ええ、あんな報道ありましたから。今日はそうじゃないって見せないと」

「その節は、本当に申し訳ありませんでした」

 沢口の言葉に、主は素直に頭を下げる。必要なことだったとしても、迷惑をかけたことには間違いがない。一番心を痛めたのは、担当するアイドルのスキャンダルを止まられなかった沢口だろうと。

「いいえ、兵藤さんに聞きましたから」

「そう? じゃあ行こうか」

 沢口の言葉には感心がないかのように見せる主。沢口は主の行動が花菜には伝わっていないことを察した。だからそれ以上は何も言わない。

「ゴメンね、先生。私のことで何か言われた?」

「いいや、何にもなかったよ。それより師匠が待ちくたびれてるから」

「うん!」

 主と話している花菜の姿に、沢口は複雑な表情を向ける。

 沢口が入社したころから噂になっていた二人の関係。

 それは真実なのかもしれないと思うのだ。

 どんなに兵藤が否定しようが、沢口の目にはそう映ってしまう。

 二人が……恋人なのかもしれないと。

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