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三十四話

 アイドルカーニバルの特徴として、特筆しておかなければならないとこがひとつある。

 それは「他のアイドルの楽曲を披露しなければならない」と言うものだ。開催当初はとあるアイドルグループの始めた悪ノリだったが、意外と好評であったため運営主導となったコーナーである。

 アイドルたちもこのコーナーに力を入れるようになったため、数年前から直前にくじ引きを行い、その様子をイベントDVDの特典映像としてカメラに納めるようになったのだ。しかし、他のグループより目立とうと想えば、色々と角の立つ発言も出てしまう。それが証拠として残ってしまうのもアイドルファンからすればプロレスネタとして楽しみでもあった。


 そして今年も……。

「はい、決まりました! リリープレアーちゃん達にやってもらうのは……はなみずき25ちゃんのアルバム表題曲『On Your Mark』で~す!! どうでしょう、今の気持ちは?」

「そうですね、メンバーの中にも好きな子もいるし、出来ると思います! ただですね、はなみずきの人たちって小さくって可愛い子多いじゃないですか? 私達みたいな身長高いグループが踊ったら可愛いより、カッコいいが勝っちゃうんですよね。それが心配です」

「可愛さは流石に勝てない?」

「だって、可愛いじゃないですか? ちっちゃい子が、チマチマ~って踊ってるのって!」

 それを見ていたはなみずき25のリーダー、小山あい(こやまあい)は大いに憤慨していた。まるで自分たちがダンスが下手で、愛嬌だけで人気になったかのような言い方。しかも各グループのリーダーが座る席に戻って来る時にあいにだけ見せた笑顔。カメラに写らない角度で行われた、明らかな挑発行為だ。

「で、あいリー。私らの課題は?」


「もちろん引いてきてやったわよ! リリープレアーの『背徳の味』をね!!」

「よくやった! さすが、運には定評のあるあいリーダー。略してあいリー」

 はなみずき25のスカウト組メンバーは、馬鹿にされたことへの仕返しとばかりに気合いが入っている。

 そのなかでも……。

「ちょっと! 花菜何してるの!?」

 花菜はせっかく決まったゆるふわを、水をかぶって洗い流す。

「ふ~、……メイクさん。ごめんだけど、バキバキに編み込んでくれる!?」

 終わったばかりの花菜のメイクのやり直しに、当のメイク担当も戸惑っている。

「けど、衣装かわいい系だよ? 合わないと思うなぁ……」

「他の衣装はまとめて団子で、あいつらの曲はバッチリかっこつけてやってやらないとね」

 アイドルが他人に見せてはいけない顔で、すごんでくると慣れているスタッフも口をはさむ余地がない。

「あ、そうだ! 美~祢~!?」

「はいはい」

 花菜に呼ばれた美祢は、長い付き合いから声のトーンで花菜が何を言い出すか察した。この声のトーンは絶対無茶ぶりだ。

「あいつらの曲の時さ、美祢がセンター踊りなよ、ね?」

「いや、無理でしょ」

 他人の楽曲だとしても現状のフォーメーションがある。それを無視するのは他のメンバーが……。

「良いねそれ! 目立たないみねっちでもできるセンターのダンスってウケる」

「あの人たちみーちゃんをナメ切ってるからいい演出だよね!!」

 了承するのであった。


 普段温厚の塊の園部すら思うことがあるらしい。

 きっとライブ前のアドレナリンのせいだろう。もしくは、アイドルカーニバルの魔力のせいかもしれない。

「私は髪やってもらいながら入れとくから、みんなもダンス入れといて」

「よっし! いっちょやるかぁ~!!」

 異様な雰囲気のまま、アイドルカーニバルは始まるのだった。


「おい、マジかよ。みねっちって、こんな奴だったっけ?」

「さすが、みーちゃん。やればやり過ぎる子」

 美祢は楽屋でリリープレアーの『背徳の味』のセンターパートを踊っている。一回目は全然踊れていなかったのに、三回目でほぼ完璧に振り付けをマスターしてしまった。だが、本人は納得していない。

「存在感がやっぱり違うなぁ。手の決め方なのかな?」

 ぶつぶつと動画と鏡を往き来するさまは、最早修行僧のようだ。

 細部の細部までこだわってダンスに集中する美祢に、他のメンバーは驚いているが、合宿を共にしたつぼみのメンバーは驚いていない。


「よかった、美祢パイセンが特殊だったんだ」

 その異常性に目を合わせなかったつぼみのメンバーたちは、はなみずき25のメンバーが美祢に驚いていることに安心をする。

 現メンバーが、美祢と同等かそれ以上だったら恐ろしくてアイドルを辞めていくつぼみメンバーもいたかもしれない。

「なんか違うなぁ?」

 美祢は何度も首を傾げる。

「身長が違いすぎるからなぁ。ヒール高いのにしてみるか」

「それもだけど、メイクが可愛すぎるんじゃない?」

 思った以上の成果を出した美祢に、スカウト組オーディション組アンダーのつぼみ関係なく美祢大改造作戦が始まる。

「美祢! 表情もしっかり真似るんだよ。あの誘うようなやつ……っぷ」

 花菜も作戦に参加してきたが、長年付き添っていたせいか、あまりの美祢の変化についていけてない。


 果たしてはなみずき25のライブの行方やいかに。

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