表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

325/405

三百二十五話

 夜も更けた頃、主は合宿恒例の外での喫煙を楽しみ、ようやく床に就こうと帰路へ着いた。

 そしてあることに気が付く。

 今回もまた、誰かが夜更けのスタジオで時間外の自主的なレッスンを行っているようだ。

 初めてみたのは、美祢の姿。そして次はかすみそう25の二期生の野崎恵美里。

 両者とも悩みをダンスにぶつけるという同じ行動をとっていた。

 はたして今回は誰だろうと、主は興味深そうにスタジオを覗き込む。

「だから違うって! そこはこうでしょ!」

「え? こんな感じじゃない?」

「だから! こうだって!」

「敦海ちゃんも違うよ? リョウ先生の映像だと……」


「みんな……何やってるの?」

 主は思い描いていた状況とは異なる光景を見ていた。

 そこにいたのは、三期生12名全員がそろって与えられた課題のダンスを踊っている。

「あ! 先生! さてはお酒?」

「あ、いや……こっち」

 用意していた言葉ではなかったが、奇しくも彼女たちの先輩と同じ言葉を繰り返す。

「……みんなは?」

「だって! 星がコッソリ抜け駆けしようとしてたから」

 敦海に指さされた星は、少しむくれている。

 星にとってこの状況は本意ではなかったようだ。

「せっかく美祢先輩と同じことできると思ったのに……」

「美祢ちゃん?」

「先生が書いたんじゃん! 野崎先輩の紹介であったからさ、私もってと思ったのにさ」

「抜け駆け禁止!」

 星が美祢の真似をしようとしていた、しかもかすみそう25の二期生の紹介小説にあった些細なエピソードから美祢の行動を読み取ったという。

「志藤さんは、美祢ちゃんが好きなんだね」

「もちろん! 一番の推しだもん!!」

 主に満面の笑みを向ける星。

 そうか、いつの間にか美祢に憧れてオーディションを受けに来る娘ができる存在に成ったんだと、主の心に何かが舞い降りる。

 それは美祢の魅力に多くの人が気が付いた証拠だと嬉しくもあり、何故だか寂しさのようなモノも感じる。


 星の笑顔に美祢が重なるような気がした主は、思わずその頭を撫でてしまう。

「えへへ」

 嫌がる素振りもなく受け入れる星の笑顔。

 いや、やっぱりどこか違うと当たり前な結論を得て手を放す。

「っあーーー!! 星だけ褒めるのズルい!」

 今度は敦海がむくれだす。

 もういい時間だというのに、その声は昼間と同じ大きさで響き渡る。

 それに呼応したように、ほかのメンバーも主を責め始める。

「あー、依怙贔屓」

「贔屓だ贔屓だ!」

「だって、みんな先生の小説読んでないでしょ? 私は読んでるもん!」

 誇らしげに胸を張る星。

 星にとって憧れのアイドル賀來村美祢との共通点を、本当に誇らしげに言い切る。

 自分は違うんだと。

「星のは、賀來村先輩との話題作り。……動機が不純」

「こらっ! 龍美、バラすな!」

「あはは」

 まるでアイドルではないかのように騒がしい三期生の面々。

 年齢は違えども、星や敦海、龍美を中心にその明るさが伝播していく。


 そうか、こんな娘たちが彼女の仲間になるんだ。

 主は時間を忘れ、三期生達のダンスに魅入ってしまう。

「こらっ! あんた達! 何やってるのっ!?」

 楽し気な三期生の声が一瞬で止まる。

「何時だと思ってんの?」

「リョ、……リョウ先生」

「こんな時間まで起きて……@滴先生、貴方が付いていながら何やってるんですか?」

 三期生と同様に固まっていた主を見つけたリョウは、呆れたように声をかける。

「リョウさん……すみません」

「この娘たち、特に学生のメンバーだっているんですからね」

「……はい」

「生活リズムが狂ったら、預けて下さった親御さんになんて申し開きするんですか?」

「そうですよね……すみません」

 主がリョウに怒られている間に、忍び足で逃げ出そうとする三期生。

 特に年長組はより慎重に足を踏み出している。


「あんたたちも、もっと自覚が必要!」

「はいっ!!」

 もう少しで外だというところで、リョウの意識は三期生へと向けられる。

「寝不足厳禁!! アイドルなんだから美容も考えなさい!!」

「はい!」

 やはり師弟ということだろうか? リョウは本多と同じ言葉で三期生を叱る。

 だが、そこに黙ってダンスのレッスンをしていたことを怒るようなことは無い。

 はなみずき25とかすみそう25の伝統とでも言うのだろうか。メンバーが指導者のいない状況でレッスンをするのは誰にも止めることができない。

 本当ならば、花菜の一件があったからこそ止めなくてはいけないのだが、それを言ったところで止まるようなアイドルではないのだ。

 安本源次郎のアイドルであってもそうしなければ、生き残れないと本能が知っているから。

「さっ! わかったらとっととシャワー浴びて寝なさい! 明日はもっと厳しくしていくからね!?」

「え~~!!」

「え~~!! じゃない!!」

 むくれる年少組を抱えるように年長組ともども三期生達は自室へと帰っていく。

「先生も明日も早いんですからね」

「ええ、でも、もう少し起きていようかと」

「そうですか」

 リョウの目に写る主は、一瞬だけ安本のような笑顔を見せた。

 そうか、降りてきたのかとリョウはあきらめるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ