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三百二十話

 花菜がステージを降りてしばらく、ファンは美祢の魅せた花菜に酔っていて気が付いていない。

 そしてその余韻が消えていくと、ざわめきが起こりだす。

 さっきまで居た花菜の姿が、煙のように消えている。

 いったいどこからいなかったというのか?

 ファンの待ち望んだ、本当の『花散る頃』。あれは幻だったのか?

 あまりの衝撃に、ステージにいるべきもう一人の姿が無い事にも気が付いていない。

 会場が混乱している中、照明が落ちメインモニターに智里のインタビュー映像が映し出される。

「え? そうですね、かすみそう25の時は後輩ともよく遊んでいましたね。同期の年下も可愛いですけど、後輩だと、もう! 本当にかわいいんですよね」

 インタビューの内容は、どうやらかすみそう25時代の後輩との思い出のようだ。

 はなみずき25の一番の後輩の智里が、なんで後輩の話をしているのか? 混乱のさなかにあるファンたちには皆目見当もつかない。

「だから、後輩は、新しいメンバーは大歓迎です!!」

 笑顔でインタビューに答えていた智里の顔が、カメラを正面からとらえる。

 カメラを指さして、まるでそこに新しいメンバーがいるかのような智里の顔。

 そして大きなテロップで、新メンバー募集の告知が初めて世間へと発信された。

 あまりに突然の告知。

 ステージが明るくなり、ファンがメンバーの顔を見れるようになるとメンバーは笑顔で歓声をマイクに乗せる。

 ようやくさっきの映像の意味が分かったのか、会場がまた揺れた。

 花菜の復帰したツアーの最終日。夢乃が参加した久しぶりのライブ。今日を最後にはなみずき25でのパフォーマンスを終えるメンバーがいるライブで、新メンバー募集の告知がされると誰が予想できただろうか?

 メインモニターには、未だに募集の告知が書かれている。


 それを見た美祢は、少しの違和感を覚えた。

 運営スタッフからは、新メンバーを募集することは聞いていた。

 今もその通り告知が流れている。

 先ほど映像に登場していた智里は、メインモニターを見たまま呆然としている。

「はいっ! ということでね。みんな? 驚いた?」

 ここからは新しいリーダーの仕事だと、張り切って恵が仕切りだす。

「私たちはなみずき25も新しいメンバーのオーディションをすることになりました!!!」

 三度会場が揺れる。

 オーディションをするということは、新しいアイドルが誕生するということ。

 新しいメンバーが入れば、イメージが変わるかもしれないと、期待する感情がステージにぶつけられる。

二期生・・・オーディションを開催します!!! みなさん! 私たちの新しい仲間になってください!!!」

 恵はメインモニターに書かれている文言を大きな声で叫ぶ。

 そう、確かにメインモニターには二期生募集の文字がある。


 会場も卒業するメンバーも、現役を続けるメンバーも笑顔でオーディション開催を喜んでいる。

 美祢も新しい仲間を想えば、感情が踊りそうになる。

 しかし、美祢の眼には智里が映っていた。

 智里は、まだメインモニターに釘付けだ。

 二期生募集の文字に。

「智里! 後輩ができるんだぞ! どんな気持ち?」

 恵が告知映像の主役に話を振る。

「……」

 智里はマイクに乗っている恵の声にも気が付かないように、ただただモニターを見ている。

 会場に背を向けたまま。

「智里? 智里!」

「は、はいっ!」

 ようやく恵の声に気が付いた智里は、どうにか客席のほうに顔を向ける。

 だが、誰も気が付いてはいないが智里の眼にファンの姿は映っていなかった。

 動揺した表情を取り繕い、笑顔らしき表情を見せた智里。

「後輩はどんな娘がいい?」

「そうですね。……どんな性格でもいいのではなみずき25が大好きな娘たちが良いですね!」

 なんとなく無難そうな答えに逃げた智里。


「智里、大丈夫?」

 美祢は智里の表情がどうしても気になり、マイクを外して智里に声をかける。

「大丈夫、大丈夫です。本当に……大丈夫……ですから」

 智里もマイクを外して、美祢に答える。

 その声は少しだけ涙の色がついている。

「……智里」

「恵さん! 新リーダーの初仕事ですよ! 明るい話題なんですから明るい曲いきましょう!!」

「お、おう! じゃあ、とびきり明るいこの曲いくよ!! 『On Your Mark』!!!!」

 美祢の心配する声をなかったことにするように、智里はMCの段取りを無視して新リーダーの恵に曲の呼び込みをさせる。


 本来センターの花菜が不在のまま、当初の予定通り懐かしいセットリストが始まる。

 代理センターの美祢からは、本来の美祢の位置にいる智里の表情が良く見えない。

 笑っているようにも見える。

 だが、智里の身体から発せられる空気は、本来の智里が持つアイドルの空気ではない。

 何故だか美祢は、デビュー当時の自分を智里の重ねてみてしまうのだった。

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