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三百十五話

 はなみずき25の初めてのスキャンダル。そしてそれに伴う人事異動。

 慣れない体制でのアルバムの販促活動は、『花散る頃』のシングルほど好調ではなかった。

 最高記録だった『花散る頃』に比べて、前回シングルの『スタートラインは違っても』は大幅に売り上げを落としてしまっていた。

 そして新しいアルバム『雪割草を見つけて』も予約の段階からあまり好調とは言えない状況は続いている。

 そんな中でも美祢をはじめはなみずき25のメンバーは、懸命に番組行脚でアピールをしていた。しかしそもそも呼ばれる番組が少なすぎた。売り上げの数字だけを見れば、はなみずき25の終わりが始まったというファンもいる。

 そんなことは無い!

 そう必死に否定するように、メンバーが番組に爪痕を残そうと励めば励むほどその声は大きくなっていく。

 何人かのメンバーは、心が折れてしまっていた。

「そうか……もう少し、頑張ってほしかったけど……この状況じゃな」

 兵藤の前には、4人のメンバーが神妙な顔で立っている。

 小山操、中村芽以、今東陽花里、そしてリーダーの小山あい。

 彼女たちは、今回のアルバムの期間での卒業を決めた。

「今後はどうするんだ?」

「ウチは別の事務所でタレントを」

「私たちは、……普通の職業に就こうかと」

「そうか……もしよかったら、うちの事務所で……」

 マネージャーをしないか? そう言いかけて口にできない兵藤。

 3人はそんなことを望んでいないのが、わかってしまった。

「ここだと……楽しいことも、悲しいことも……思い出しちゃいますから」

「そうか、そうだな。……みんな、本当に済まない! 俺の力不足だ! もっと活躍させられたはずなのに……本当に済まない」

 兵藤は事務所の大人を代表して頭を下げる。

 本当なら、こんな所でつまずく人材ではなかった。

 もっと、もっと……輝いていくはずの人物だった。

 そう信じている。今でも信じている。

 だが、本人たちが望んでいないなら、仕方がない。

 上げられることのない兵藤の頭に、4人はゆっくりと頭を下げて部屋を後にする。


「あいリー」

「……メグ」

 部屋を出ると、香山恵が4人を待ち受けていた。

「辞めるのか?」

「この娘らは、引退。ウチはタレントとしてイチから出直しやな」

 暗い表情のあいやメンバーを恵は、ジッと観察していく。

 恵に彼女たちを責める気持ちはない。

 だがそうではないとしても、今の彼女たちに恵の視線は深く突き刺さる。

 グループが困難な状況にあるのに、自分達だけ逃げ出すような形になってしまう。

 ファンもそう思うに違いない。

 だから3人は芸能界を辞めていく。

 あいは、それでもなんとか浮かぶ瀬を探して独り歩き始める。

 

 恵は4人をかき分けて、兵藤の元へと歩いていく。

「兵藤さん!!! お願いします、私を次のリーダーに指名してください!!!」

 呆気に取られていた兵藤に、自分をリーダーにするよう直談判する恵。

「香山……だがな……」

 兵藤は言いよどむ。

 小山あいというリーダーは、正直頑張った方だと兵藤は評価していた。

 幼いメンバーや我の強いメンバー。何より高尾花菜という絶対的存在を支えながら自分の立ち回りを考えている姿は、二十歳そこそこの少女に押し付けて良いものではなかった。

 だからこそ、兵藤はリーダーという立ち位置を好ましくは見ていなかった。

 小山あいが辞めるのであれば、その後のリーダーというポディションをなくしてしまう方がいいのではと想わせるぐらい。

「大丈夫! がんばるから! ……っ私頑張るから! あいリーとかみんなが、はなみずき25にいてよかったって言えるように、私、頑張るから!!!」

 恵の頭は何度も下げられる。

 大人との話し合いなどしてこなかった恵が、今できる精一杯の懇願。

「私に美祢と花菜を支ええる口実をください!!!」

 涙を流しながら恵は叫ぶ。

 他のメンバーももちろん頑張ってはいる。

 その中でも美祢という、『泣き虫みね吉』なんてあだ名をつけられた彼女が、涙を流さず結果を出し続けている。

 花菜も復帰してくれた。

 今となっては、メンバーも理解している。

 花菜が本調子ではないことを。

 キレのないダンス。影の落ちた表情。

 それでもアイドルとして、ステージに立つ彼女の姿を恵は知っている。


 今、この二人がはなみずき25の中心にいる。

 思うように結果の出せなかった恵が、グループに貢献できるのはこの二人を支えるほかにない。

 年下で正直馬の合う方ではない。

 だけれども、彼女たちに助けられてここまで来たのだから、自分ができる最大限を返さないのは嘘だ。

 そんな大人になりたくはないと、恵は兵藤を見る。

「……」

「……はぁ、わかった。新人同士頑張ろう!」

「はい!」

 兵藤は新人のチーフとして、恵は新人のリーダーとして握手を交わす。


「メグ、あとはよろしくな?」

 兵藤と恵のやり取りを聞いていたあいは、部屋から出てきた恵に手を差し出す。

「ああ、あいリーも……あいも頑張って」

 握り返す恵の手は、少しだけ震えている。

 はなみずき25の二代目リーダー香山恵。彼女の『献身』の旅路は今始まるのだった。

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