二百九十五話
はなみずき25の新曲『花散る頃』は、美祢たちの奮闘もあり歴代トップセールスを記録した。
その月の売り上げ2位、妹グループのかすみそう25の新曲『道は違うけど心はあなたとともに』も奮戦したが、はなみずき25には届かずわずか1万枚の差であったが姉の面目を保つことができていた。
プロモーション活動も歌番組はほぼ一周し、バラエティー番組での宣伝に勤しむメンバーたち。
今日の美祢のスケジュールは、久しぶりに園部レミと一緒の現場だ。
学校を早退し、現場に入る美祢の耳に嬉しい知らせが入ってきた。
はなみずき25の美容番長にして、雑誌専属モデルとして活躍するレミが、写真集を発売することになったという。
はなみずき25のセンター経験者、オーディション組で最も早くフロントに食い込み、今なお人気の衰えを知らないお姉さんメンバー。今も夢乃とのデュエット曲『逢い別れ』もファン人気の高い曲で、ライブでそれを一人で披露し続けるレミに涙するファンも多い。
そんなレミが写真集を発売するのだから話題にもなるだろう。何より花菜のいない、はなみずき25にとって明るいニュース。
楽屋にレミが待っているを知っている美祢は、楽屋に飛び込むと同時にレミにお祝いの言葉をかけるのだった。
「お園さん! 聞いたよ、写真集おめでとう!」
「あ、美祢。……うん、ありがとう」
喜んでいると思っていた、レミの表情が優れない。
今日だけではない、最近レミの元気な姿をみない。
いったいどうしたんだろう?
心なしか髪の艶にも陰りが見えるような気がする。
「どうしたの? 最近元気ないけど?」
「うん、ちょっと風邪気味かな?」
美祢が心配そうな顔を向けると、レミは慌てて表情を作り直して取り繕う。
風邪だというなら、そこまで心配することも無いだろうけど……。
それでも美祢はレミへの心配を拭いきれない。
だが、レミの反応を見た美祢も慌てて振舞いを変える。
「え~、気を付けてよ。大切なお仕事の前なんだから」
「……うん、そうだね!」
美祢の過剰な反応。それは年の割に幼い表情が垣間見えた。
出会った頃の美祢を思い出すレミ。
美祢と同じように、レミも出会った頃の笑顔を意識する。
レミの表情の中に、どこか悲し気なものを感じた美祢はまた表情を暗くしてしまう。
「ねえ、お園さん。本当に大丈夫?」
「大丈夫! あ、こっちも聞いたよ? 運動系の番組に呼ばれたんだって?」
レミは明るい表情のまま、話を変える。
話題は美祢の得意とする運動系の番組出演について。
この現場の様に新曲を宣伝するための出演なのだが、少しゲーム的な演出が入るらしい。
けれど、メンバーにそれを心配する者はいない。
バラエティー番組に慣れてきた美祢にとって、運動がメインの番組なら何の問題もないとさえ思っている。
それは本人も同じだ。
「うん! まあ深夜も深夜なんだけどね」
「けど、一人で出演るの初めてでしょ?」
美祢は時間帯を残念に思う一方、単独で番組に呼ばれたことをひそかに喜んでいた。
思えばデビュー当初は、大人数で呼ばれ何もできずに悔し涙を流したことしかなかった。
でも最近は映画にも呼ばれ、その関係でバラエティー番組も何度か出演できた。
そして今回は、自分だけでグループを宣伝しなくてはいけない。
そんなプレッシャーもどこか楽しくに感じるのだ。
「そうだね、花菜の代わりなんだから頑張らないと!」
未だに復帰の時期などの情報は、メンバーにも入ってこない。
花菜という存在の大きさをメンバーは痛感していた。
それと同時に花菜のいない危機感は、グループをまとめるのにも一役買っていた。
その中でも美祢の存在はグループにとって大きな割合を占めていた。
欠けたWセンターを守る幼なじみの親友メンバー。そしてそこにたどり着くまでの美祢の経歴。
それに目を付けないメディアがいないはずがない。
特集が組まれ各メディアに美祢の名前が載ると、美祢の笑顔に様々なドラマを感じるものだ。
そして美祢を入り口に、メンバーの奮闘さえもまるでドラマの1シーンのように扱われていく。
そのお陰もあり、事務所サイドにも目立った批判は聞かれない。
そんな時期だからこそ、レミは美祢を心配してしまう。
人々の期待は美祢の更なる奮闘を求める。その期待に応えたいと願ってしまうのが今の美祢だ。
彼女の親友の様に、笑顔で後に続く者をけん引するその姿。
レミは美祢の姿に花菜を重ねてしまう。
「気負って怪我しないでね」
「大丈夫! 昔から身体だけは丈夫な方だし!」
知り合ったばかりの美祢の笑顔は、本当にこうだっただろうか?
自分の記憶さえ、レミは疑ってしまう。
花菜と重なる美祢のこの笑顔。それがどうしても不安にさせる。
それは何かの予兆なのか? それとも自身の不安が反映されているからなのか?
レミはとうとう笑顔を保てなくなってしまった。
「それでも、……お願いだから、気を付けてね」
「うん、わかった!」
美祢はそれでも笑顔のまま答える。




