表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

292/405

二百九十二話

 お披露目ライブが終わっても、しばらくは美祢は忙しく動き回っていた。

「美祢! リハに遅れる!!」

「ちょっと待って! 美紅!」

 今日は歌番組の収録。はなみずき25とかすみそう25の歌収録があった。

 カメラワークや音響の確認。スタジオでの立ち位置確認など、忙しいリハーサルがひと段落するまで、かなりの時間を要した。

 かすみそう25の最終公演を終えた美祢と智里ではあったが、今日はかすみそう25のメンバーと一緒に収録というスケジュールに戸惑いが全く無いわけでもなかった。


「……しっかし、あの涙の公演は、なんだったんだろう?」

「私もそう思うけどさ、仕方ないでしょ。プロモーション期間なんだし」

 そう、次のシングルが決定するまで、現行曲のプロモーション活動が無くなるわけではない。

 呼んだ番組とすれば、最後になるかもしれないグループ全メンバーがそろっている画が欲しくないわけではない。

 話題、画面と考慮すれば、美祢と智里をまだ呼べるなら呼ぶに決まっていた。

 そんな大人の事情も当の本人達からすれば、不思議で仕方がない。

「だったら、卒セレすればよかったのに」

「誰かが順番間違えたんでしょ、きっと」

 いったい誰が間違えたのか? 営業だろうか? マネージャーだろうか? 

 もしくはアホな神様が展開を読み間違えたのかもしれない。

「あ~、松田さんがいればなぁ~」

 若いが敏腕なマネージャーの松田がいれば、スケジュール調整の時点で何かしらのアクションがあったのではないかと、たらればが止まらない美紅。

 それは美祢もどこかで考えてはいたが、今の松田は主のスケジュール管理でほとんどいない。

 こっちに関与できなくても、仕方がないと思う美祢。

 だが、もしも……?

「それはそれで、きっと大変だったと思うけど」

 きっと敏腕ならではの美しさを求めて、アイドル側の自分は大変な思いをしていたかもしれないと思うと、現状に救われているのかもしれないと思ってしまう。

 美祢の顔に笑顔が浮かんでしまうほど。


 久々の美祢の登場に浮かれている美紅だが、他のメンバーも同じだ。

「美祢さん!」

「ママ!」

 有理香と公佳は、美祢に飛び込んで、どうにか独占しようとお互いをけん制し合う。

 今にも暴れだしそうな二人と、それをそばで見守る佐奈。

 もう仕方がないなぁと、美祢は公佳と有理香に軽い注意をする。

 まるで幼い子供をしかる母親の様に。

「ほら、そんなにはしゃいで。怪我しても知らないから」

「……」

「ア……」

 美祢の言葉に周囲が凍り付く。

 美祢の言葉は正しい、正しいが今の状況を考えれば……。

「美祢ぇ」

 花菜の怪我を連想させ、さすがの最年少トリオも表情を暗くする。

 美紅は美祢が気が付いていない失言を咎める。

 

 ようやく言葉の意味に気が付いた美祢は、3人に慌てて取り繕おうと必死になりすぎてしまう。

「あっ! ゴメン!! 違うよ? そういう意味じゃなくって!!」

 パニックになった美祢は、どう言葉を選べばいいのか忘れてしまう。

 そんな美祢の背中に、新しい声が投げられる。

「あ、あの! 美祢さん!」

「あ、綾ちゃん! それに江梨香ちゃん!!」

 緊張したように声をかけてきたのは、二期生の佐川綾と宇井江梨香だ。

 以前はもうちょっとリラックスして話せていたのだが、リハーサルからこの調子だ。

 少しだけ寂しいと思う美祢だが、間が空けば仕方がないとも思う。

「きょ、今日は宜しくお願いします!!」

「うん、よろしくね」

 丁寧に頭を下げてくる後輩。

 自分達が去った後にセンターに入る後輩二人。

 そんな二人が、かしこまったように自分に話しかけてきた。

 まるで外様だと言うように。

 美祢の寂しさが増す。


 見かねた美紅が事情を説明しだす。

「この二人、お披露目見た後から緊張してんの」

「お披露目って、『花散る頃』の?」

 あの公演を見に来ていたのかと、美祢は驚く。

 終わった後長い時間楽屋に戻らず、主の背中で泣いていた美祢。

 あいさつに来たかすみそう25のメンバーとは行き違いとなっていたのだと、今初めて知ることとなる。

 教えてくれればいいのにと、智里を見るが智里は呆れたように美祢を見ていた。

 あ、たぶん言ったのに聞いてなかったんだと、察しのついた美祢は紅くなった顔で視線を逸らす。

「そうそう! えらく興奮してさ、4日も前から今日の収録緊張してた!」

「え~? 大丈夫?」

 いくら久し振りとは言え、そんなに緊張させるようなステージだったかと疑問はある。

「は、はい!」

 だが、実際なにかしらあったのだろう。これも聞いていたら智里がさすがに怒るかもしれない。

 どうしようかと悩む美祢に美紅が問いかける。

「で? 美祢は大丈夫なの?」

「うん、……あ!」

 何が大丈夫なのか聞かれたのかはわからないが、最近の心配事を思い出す。

「なに?」

「今日って、はなみずき25もあるから、ちょっと迷惑かけちゃうかなって」

 今日まで何回かあった披露で美祢は『花散る頃』のパフォーマンス中、感情を抑えられない自覚があった。

 お披露目ライブの時の様に異常に集中しすぎてしまうのだ。

 そのたびに、智里の乱入によって戻ってくるというのを繰り返していた。

「あ~」

「もしかしたら、テンションおかしくなってるかも……なんて」

 美紅のリアクションを見れば、これを聞かれていたというのが分かる。

 元々美紅は美祢のライブ中のテンション管理に厳しい。

 どの程度集中するかを相談するなんて言うことが、日常だった。

「はぁ~」

 自分がいなければそんなこともできないのかと言われた様な、美紅のため息。

 美祢は恐縮するしかない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ