二百九十二話
お披露目ライブが終わっても、しばらくは美祢は忙しく動き回っていた。
「美祢! リハに遅れる!!」
「ちょっと待って! 美紅!」
今日は歌番組の収録。はなみずき25とかすみそう25の歌収録があった。
カメラワークや音響の確認。スタジオでの立ち位置確認など、忙しいリハーサルがひと段落するまで、かなりの時間を要した。
かすみそう25の最終公演を終えた美祢と智里ではあったが、今日はかすみそう25のメンバーと一緒に収録というスケジュールに戸惑いが全く無いわけでもなかった。
「……しっかし、あの涙の公演は、なんだったんだろう?」
「私もそう思うけどさ、仕方ないでしょ。プロモーション期間なんだし」
そう、次のシングルが決定するまで、現行曲のプロモーション活動が無くなるわけではない。
呼んだ番組とすれば、最後になるかもしれないグループ全メンバーがそろっている画が欲しくないわけではない。
話題、画面と考慮すれば、美祢と智里をまだ呼べるなら呼ぶに決まっていた。
そんな大人の事情も当の本人達からすれば、不思議で仕方がない。
「だったら、卒セレすればよかったのに」
「誰かが順番間違えたんでしょ、きっと」
いったい誰が間違えたのか? 営業だろうか? マネージャーだろうか?
もしくはアホな神様が展開を読み間違えたのかもしれない。
「あ~、松田さんがいればなぁ~」
若いが敏腕なマネージャーの松田がいれば、スケジュール調整の時点で何かしらのアクションがあったのではないかと、たらればが止まらない美紅。
それは美祢もどこかで考えてはいたが、今の松田は主のスケジュール管理でほとんどいない。
こっちに関与できなくても、仕方がないと思う美祢。
だが、もしも……?
「それはそれで、きっと大変だったと思うけど」
きっと敏腕ならではの美しさを求めて、アイドル側の自分は大変な思いをしていたかもしれないと思うと、現状に救われているのかもしれないと思ってしまう。
美祢の顔に笑顔が浮かんでしまうほど。
久々の美祢の登場に浮かれている美紅だが、他のメンバーも同じだ。
「美祢さん!」
「ママ!」
有理香と公佳は、美祢に飛び込んで、どうにか独占しようとお互いをけん制し合う。
今にも暴れだしそうな二人と、それをそばで見守る佐奈。
もう仕方がないなぁと、美祢は公佳と有理香に軽い注意をする。
まるで幼い子供をしかる母親の様に。
「ほら、そんなにはしゃいで。怪我しても知らないから」
「……」
「ア……」
美祢の言葉に周囲が凍り付く。
美祢の言葉は正しい、正しいが今の状況を考えれば……。
「美祢ぇ」
花菜の怪我を連想させ、さすがの最年少トリオも表情を暗くする。
美紅は美祢が気が付いていない失言を咎める。
ようやく言葉の意味に気が付いた美祢は、3人に慌てて取り繕おうと必死になりすぎてしまう。
「あっ! ゴメン!! 違うよ? そういう意味じゃなくって!!」
パニックになった美祢は、どう言葉を選べばいいのか忘れてしまう。
そんな美祢の背中に、新しい声が投げられる。
「あ、あの! 美祢さん!」
「あ、綾ちゃん! それに江梨香ちゃん!!」
緊張したように声をかけてきたのは、二期生の佐川綾と宇井江梨香だ。
以前はもうちょっとリラックスして話せていたのだが、リハーサルからこの調子だ。
少しだけ寂しいと思う美祢だが、間が空けば仕方がないとも思う。
「きょ、今日は宜しくお願いします!!」
「うん、よろしくね」
丁寧に頭を下げてくる後輩。
自分達が去った後にセンターに入る後輩二人。
そんな二人が、かしこまったように自分に話しかけてきた。
まるで外様だと言うように。
美祢の寂しさが増す。
見かねた美紅が事情を説明しだす。
「この二人、お披露目見た後から緊張してんの」
「お披露目って、『花散る頃』の?」
あの公演を見に来ていたのかと、美祢は驚く。
終わった後長い時間楽屋に戻らず、主の背中で泣いていた美祢。
あいさつに来たかすみそう25のメンバーとは行き違いとなっていたのだと、今初めて知ることとなる。
教えてくれればいいのにと、智里を見るが智里は呆れたように美祢を見ていた。
あ、たぶん言ったのに聞いてなかったんだと、察しのついた美祢は紅くなった顔で視線を逸らす。
「そうそう! えらく興奮してさ、4日も前から今日の収録緊張してた!」
「え~? 大丈夫?」
いくら久し振りとは言え、そんなに緊張させるようなステージだったかと疑問はある。
「は、はい!」
だが、実際なにかしらあったのだろう。これも聞いていたら智里がさすがに怒るかもしれない。
どうしようかと悩む美祢に美紅が問いかける。
「で? 美祢は大丈夫なの?」
「うん、……あ!」
何が大丈夫なのか聞かれたのかはわからないが、最近の心配事を思い出す。
「なに?」
「今日って、はなみずき25もあるから、ちょっと迷惑かけちゃうかなって」
今日まで何回かあった披露で美祢は『花散る頃』のパフォーマンス中、感情を抑えられない自覚があった。
お披露目ライブの時の様に異常に集中しすぎてしまうのだ。
そのたびに、智里の乱入によって戻ってくるというのを繰り返していた。
「あ~」
「もしかしたら、テンションおかしくなってるかも……なんて」
美紅のリアクションを見れば、これを聞かれていたというのが分かる。
元々美紅は美祢のライブ中のテンション管理に厳しい。
どの程度集中するかを相談するなんて言うことが、日常だった。
「はぁ~」
自分がいなければそんなこともできないのかと言われた様な、美紅のため息。
美祢は恐縮するしかない。




