二十四話
「どうだろうか、みんなの感想を聞かせて欲しい」
オーディションのステージ審査を終えて、審査員とスタッフは会議室に集められた。
もちろん主もいるが、なぜかメンバーの美祢も同席している。
「ではまず、ダンスの評価からお願いします」
進行役の言葉を受けて本多が立ち上がる。
(え、立つんだ)
注目を集めることに躊躇する主だが、はなみずき25は深夜とはいえ冠番組を持っている。当然ながらアンダーグループのオーディションも撮影されていることに何故か主は気が付いていない。
「ステップやらの基礎はできてると思うぜ、まあ、こりゃ世代だと考えれば当たり前なんだろうがな。ただどいつもステップに集中しすぎて他がおろそかになってるな、賀來村同様鍛えるのに苦労するとは思う」
本多は評価に特別影響がないと言い放つ。
「まあ、そういうことなら歌のほうも言ってしまうが、歌も同じだね。皆うまいがカラオケとしてはかな。ただマイクに音をぶつけられるのが何人かいたからピックアップしておいたよ」
安本の言葉で少しは絞れたが、それでもまだ3桁の候補者が残っている。
「では、キャラクター面で@滴主水先生。お願いします」
「は、はい!」
緊張から若干声を上ずらせて立ち上がる。
「え~っと、どの方も素晴らしいと思います」
と、感想にもならない言葉を発した主に厳しい視線が飛ぶ。
「……はあ、え~っとですね。安本先生のピックアップの中ですとこの子とこの子、この子は姿とキャラクターがあってないような気がします。なんて言うんですかね、取り繕いすぎているようなやり過ぎ感ですかね。最後に裏切り展開があるならいいですけど、グループの成長物語だと異物すぎますね」
もうヤケだと、資料に書き込んだ所感をそのまま読み上げる主。完全に自分の書く小説の登場人物として評価でしかなかった。
「……で、最後に安本先生の候補の中からは外れるんですが、この子とこの子はキャラクターとしては扱いやすいように思いましたね。『矢作智里』さんは、燃えるような闘志を秘めているように感じましたね。賀來村さんどころか高尾さんをもなぎ倒してトップに立ってやるみたいな野心が見え隠れしているのがいいかなと。あと『上田日南子』さん、この子は声は出てなかったですけど、緊張するあの場所で周りを良く見てるなって感じましたね。きっと良いフォロー役になってくれるんじゃないかなっと思いました・・・・・・あ、以上です」
気が付けば周囲の目など気にしないで、候補者全員に物語のどんな役をやらせるかという妄想を延々としゃべり続けていた主。
(やってしまったぁ)
うつむいて赤面する主に安本は感心したような笑みを向ける。
「安ちゃん、本気で引き込むなら早い方が良いかもな」
本多が小声で安本に話しかける。
「いやいや、もう少し外で鍛えてもらってからでも良いんじゃないかと思えてきたよ」
実は会議前に極秘で安本と本多はカメラ前でオーディションの所感を話し合っていた。その時早々と合格とした二名の候補者がいた。矢作智里と上田日南子の二人。
密かに合格させておいて後日、本発表の時のサプライズとする予定があった。実にテレビ的な演出をするためにあえて黙っていた合格者を的確に導きだした主に2人は驚きを隠せないでいた。
元々主が呼ばれたのは、今から結成するはなみずき25のアンダーグループの物語を書かせてみようというのが目的だった。しかしその目がみた人物像はベテランの安本と本多の評価と一緒であった。
主の挙げた3人は、安本の中でも適当な理由を付けて落すことが決まっていた。要するに候補者の水増しをして、さもオーディションの審査が難航しているように見せる、そのためだけに用意していたダミーであった。それすらも見抜かれているという驚きが安本だけが味わったある種の恐怖だった。
後日オーディションの様子が放送されると、主の批評はそれなりの尺が取られていた。
その様子にファンたちは大いに憤慨する。部外者の@滴主水がオーディションの審査、しかも安本の挙げた候補に駄目だしをするという風にも見える編集がされていたからだ。オーディションであるからには不合格者が出るのはもちろんなのだが、ファンに馴染みのある大御所を押しのけて朗々と批評する姿はファンの怒りを買うことになった。もちろん主の@滴主水名義のSNSは5回目の大炎上をした。
しかも@滴主水が一番に落とした(ように見えた)3人が別の事務所からデビューが決まり、注目を集めチャートにいきなりランクインする。それ見たことかと、6度目の炎上した矢先、事件が起きた。
デビュー間もない3人組が3人ともアイドルとして不適切な画像を週刊誌に掲載され、デビュー曲だけを残しグループ自体が消失する。
それ以降@滴主水は、はなみずき25の守護神としてファンの間で畏敬の念を込めて『一流人物鑑定士』と呼ばれるようになるが、それはまだ先の話である。




