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二百三十三話

 まみは、かすみそう25でのストッパーの役割をしている。

 それは自他ともに認める所だ。

 美紅の言いたいことはわかった。

 確かに、あの誓いを果たすのは今なのかもしれない。

 だが、二期生はそうじゃない。

 彼女たちは美祢を支えることを誓ってはいないのだから。

 なんとかこのグループで彼女たちの輝ける場所を創ろう。

 それは美祢と一期生とで同じ想いだったはず。

 美紅の言うように、美祢のいない状況で成功させてファンに納得してもらえれば、一期生は自分達の誓いを果たすという功績を得ることができる。

 だが、二期生はそうではない。

 二期生は美祢も一期生全員と共に、アイドルとして輝く場所へ行きたいと願っているはずだ。

「美紅、ちょっとおいで」

「なに?」

 だから、まみは美紅をメンバーから離れた場所に連れていき、問いただす。


「美紅、この前の握手会で何か言われた?」

「忘れた! 忘れたけど何か嫌なの!」

「絶対、言われたね」

 さっきとは違い、少し拗ねた様子を隠さない美紅。

 美紅がこんなことを言い出すのは、近々で何かを言われたからに違いないとカマをかけてみたのだが、……大正解だったようだ。

「美紅! あんたね。前から言ってるけど、美祢さん支えるだけが仕事じゃないからね?」

 そう、アイドルとして活動しているのだから、それだけでいいはずがなかった。

 自分達の誓いも大切だ。

 だがそれは、自分達の活動があってこそなのだから。

 楽曲があってこそ。ファンがいてこそ。それを飯の種にしているスタッフがいてこそ。

 どこか、視野狭窄を起こしているような美紅を正そうと、意識して強めに言葉にするまみ。

「わかってるよ」

「わかってないよ! 美祢さんは二期生支えるつもりなんだよ? 美祢さんも二期生もなんて欲張りすぎ」

 美祢は、二期生にアイドルとして輝いてもらうことを望んでいる。

 美祢を支えたいと願う美紅の気持ちもわかる。

 けれど自分達の力量を考えれば、そんなにうまくいくはずがない。

 下手をすれば、それこそ美祢が責任を感じてしまう状況を創ってしまう。

 それは美紅も本位じゃないでしょう? と。


「いいや、違うね! 二期生ごと支えられなくっちゃ、美祢を支えたことにはならないよ!」

 まみの言葉を聞いても、美紅の態度は変わることはなかった。

 それどころか、自分の力量以上を求めて何が悪いと言わんばかりだ。

「だからって、二期生にプレッシャーかけて失敗したら!? 美祢を支えるためだから仕方がないって言うの!?」

 それを苦に本来の活動に支障をきたしてしまったら、本末転倒だってなぜわかってくれないんだ。

 まみは美紅の熱につられるように、ヒートアップしていく自分を認知していた。

 だが止まらない。

 いや、止まってくれない。

 自分も美紅も。

「そうは言ってないじゃん! プレッシャーかかってるからこそ成功させようって言ってるんじゃん!!」

「だから! それの責任感じるの、美祢だけじゃないじゃん! 二期生が責任感じたらどうすんのさ!?」

 そう責任を感じるのは、美祢だけじゃないんだ。

 二期生だって感じる娘はいる。

 それに……美紅、あなたもだよ。

 

「そんなの支えるに決まってるじゃん!」

 美紅もまみの言葉に顔を赤くして応戦することを止めない。

 全部自分が背負うんだから、大丈夫だと。

 この企画の成否は自分が背負うから。

 そんな表情を見せる美紅に、まみはどうにか思い留まってと願う。

 想いとは裏腹に、言葉は熱を帯びたまま。

「どうやって!?」

「それは……」

「美祢もまともに支えられないのに、無責任なんだよ!」

 美紅がその責任を感じて、万が一アイドルを辞めてしまったとしたら?

 きっと、それが一番美祢が悲しむはずだ。

 アイドル活動を通して得た友を、アイドル活動のせいで失ってしまうことのほうが、美祢は悲しむ。

 どうして、どうしてそんなこともわかってくれないんだ。

 まみは言葉だけじゃなく、目頭にも熱を感じてしまう。

 もう決定的な言葉を口にしてしまうかもしれない。

 まみは、そんな危機感を感じながらも自分を制御できないでいた。


 そんな一瞬だ。

 不意に、まみの手が何者かに持ち上げられる抵抗感を感じた。

 視界には美紅の手も胸元まで挙げられていた。

 スパーーーン!!!

 突如響く、乾いた音。

 初めはその衝撃に、持ち上げられていた手が急激に沈む感覚だった。

 そして遅れてやってくる、激痛。

「まーもみくも熱くなりすぎ」

 有理香が両手を地面に突き刺す勢いで振り抜いているのが見えた。

 両方の手指、人差し指と中指がそろっているのも見えれば、何をされたのか理解できた。

「いぃぃぃぃぃ!!!」

「っっっった!!!!」

 理解できはしたが、まみも美紅も先ずは、痛みを声に出して逃がさなくてはいけなかった。

 そうじゃないと、いつまでも腕に痛みが住み着いてしまうような幻覚に襲われていたから。

「……ゆ、有理香!」

「な、なんで!?」

「喧嘩両成敗」

 胸を張っている有理香が指さす方向を見る。

 そこには、おびえた様子の二期生達がいた。

「怒ってばかりじゃ、誰も救えないよ」

「有理香、それ……」

「……先生の小説のセリフ!」

 ふふふと笑て見せる有理香。

「正解」

 それだけ言い残すと、二人の元から走って去っていく。

 有理香が飛び込んだのは、二期生の輪の中だった。

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