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二十二話

「賀來村、ちょっと話が」

 美祢がソロ曲の振り付けの完成度を高めるために、自主練習をしていると、またしても立木に呼ばれる。

「お前ね、アイドルが名前呼ばれて露骨に嫌な顔をするもんじゃないぞ」

「すいません、前のこと思い出したらつい」

「そのお陰で、歌番組に呼ばれるようになったんだから、もっと喜べよ」

 立木の言葉通り、美祢はグループ以外での歌番組の収録に出演が決定していた。『エンドマークの外側』は、最初こそ何故クレジットされていない曲をグループ内の人気最下位の美祢が歌ったのかという事が注目を集めたが、歌詞の内容が挫折からの挑戦という多くの人を勇気づける内容であったこともあり、今では勇気をくれる一曲として多方面で取り上げられ、グループではなく美祢単体で番組に呼ぼうと言う話が多数ある。

 そう聞くと、大作詞家安本の大英断のように聴こえるが、本人にとっては雲の上の存在に半ば強制されて歌った曲である。しかも、今回のように呼び出されてである。


 美祢が警戒するのは当然だろう。だが、今回も美祢は選択権のない話で呼び出されていた。

「君を中心とした、新しいグループ『はなみずき』のアンダーグループ作ることになったから頑張って」

 美祢にとっては2回目の聖域での神との対面。神は前置きもなく単刀直入に決定事項だけを通告する。

「アンダーグループ・・・・・・ですか?」

「そうそう、一枚目のアルバムも出したし、新しい風を入れるために君が先ずセンターを勤めて、はなみずきの上位陣に喰らいつく新人を育て、君自身もはなみずきでのセンターを脅かすアイドルになりなさい」

 美祢は選択権がないなりになんとか条件を引き出そうと慎重に提示された言葉を整理していく。

「私は、はなみずきを脱退するんですか?」

「いや、新設グループとの兼任と、新設グループのリーダーという辞令になる」

 とりあえずはなみずきでの活動は約束された。その事に安心して兼任の負担を見落としている美祢。


「そして、君がはなみずきに専念しても大丈夫になったら、新設グループの上位陣を引き連れて凱旋という道筋だから、君だけじゃ駄目だよ? 必ず新人と共に戻ってもらう。スタッフも協力はする。だけど、グループは君の意志で引っ張ってもらうからね」

「何で私なんですか?」

 安本はキョトンとした顔で美祢を見ている。

「そんなの君が『エンドマークの外側』を歌ったからに決まってるだろ? 歌詞の意味わかってなかった?」

 何を今さらとでも言いたげな表情の安本。そうは言ってもと美祢は思う。

 創作物と現実は違う。仮にアイドルの実力がファンの人数だとしたら、美祢は花菜の数十分の一の実力でしかない。認知はされてきたが、それがいつまで続くかもわからない。

「君はできないだろうと思ってるだろうけどね」

 まるで美祢の心を読んだかのような言葉から安本はつづける。


「君は僕があの大人数から選んだアイドルだ。できないわけが無い。輝けない者をアイドルにするほど僕の眼は衰えちゃいない。それに宝石って言うのはね、原石が大きいから輝くわけじゃあない。要はどうカットするかなんだ。君が輝くには他の者よりも試練が多いだろう、しかし、絶対に輝かないわけじゃない。彼……@滴主水も君だからこそ、あの小説になった、そうは思えないかい?」

 美祢も知っている。自分のソロ曲『エンドマークの外側』は、@滴主水の小説が元になっている。

 安本と@滴主水の両名は、少なくとも美祢がアイドルとして大成すると思っているのだろう。そのためには安本が用意する試練に打ち勝たないといけない。

「わかりました。やらせてください」

 美祢の心になにかが灯った。それは何だったのか美祢自身にもわからない。

 しかし選択肢がない状態でも自分の意思でやると言える。

「それでどんな子たちなんですか? 新しいメンバーって?」

「ん? わからん。これから公募するからね」

「え?」


 後日各メディア向けに記者会見が行われた。

 はなみずき25にアンダーグループ新設をすること。そしてメンバーは一般から公募すること。

 実力、実績を積めばはなみずき25の本グループに合流も可能であること。

 そして現状決定しているメンバーは、今注目を集めつつある賀來村美祢がリーダーとして就任したということ。この4つが伝えられた。

 楽曲提供を行っている安本源次郎本人もオーディションを直々に審査する。そのチャンスは芸能界を夢見る多くの者の目に留まる。

 

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