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二百二話

「はぁ~! っつっかれったぁ~~!!」

「美紅! 足! オジサン見たいになってる! 二期生が真似するでしょ!」

 レッスンを終えた美紅が更衣室のベンチに腰を下ろし、脚を大きく開いてベンチへと沈んでいく。

 それを見た美祢が、いつものように美紅をたしなめる。

 それに対して美紅は、さらにオジサンに見えるジェスチャーをして美祢への返答を行う。

「ごめんごめん。……でも今回はどれもハードだよね」

「ボスなりに何かイメージがあったんでしょ」

 毎度の美紅の愚痴に、いつものような返答で返す美祢。慣れたものなのか美紅の方さえ見ずに着替えをしている。

 美紅もわかっているかのように、美祢の態度に何も言わず自分のペースで話を進めていく。

「それを伝えてくれって話なんだけどね」

「んなもん、お前ぇらで考えろ! アイドルとはいえ一応は表現者なんだからよ」

 美紅の疑問に美祢は、本多のモノマネで返す。

「っっプ! あははははは!! やめてよ美祢!! むっちゃ似てるじゃん!」

「コラ! シー――……ボスに聞こえちゃうでしょ!」

 美祢の予想外の行動に、腹を抱えて笑いだす美紅。そんな美紅の反応に急に込み上げた羞恥心と、御本人にバレやしないかとの恐怖から美紅を叱るように黙らせる。

「あはは、ゴメンて。……美祢はこれから何かある?」

「んっとね? はなみずき25むこうのレッスン入ってる」

 かすみそう25で流した汗を持ち込まないように、新しいレッスン着へと袖を通しながら美紅に答える。

「そうなんだ。二期生の娘たちが美祢と食事行きたいって言ってたからさ」

「えー! 私と!? ん~……行きたいけど今度だなぁ~」

 滅多にないお誘いに、一瞬喜ぶ美祢だったが流石にはなみずき25のレッスンをサボるわけにもいかない。残念そうにうなだれる美祢に美紅は対案を示す。

「じゃあさ、新年会はスケジュール抑えていい?」

「うん!」

「OK! 松田さんに確認取っておく」

「うん、ごめんね?」

 本来ならリーダーとして、慣れない芸能生活の悩みや、グループに対する意見などを聞かなくてはいけない立場の美祢。ただまだ学生であることと、はなみずき25と兼任している忙しさを理由にリーダーらしい振る舞いをしていない。

 代わりに二期生の悩みや、時には同期の悩みを聞いているのが美紅だ。

 美祢が気にしているのを知った頃から、無理とわかっていても一応参加の是非を確認している。

 美祢も美紅の気遣いを知っているから、余計に申し訳なさが募る。

 他のメンバーだけでなく、美祢自身の負担も美紅に背負わせているから。

 残された時間で、美紅に何か返せるだろうかと悩む美祢がいる。


「いいって……」

 気にしないでという表情を見せた美紅の顔がいつもの悪戯好きの顔に代わる。

「どうせなら先生とも新年会したいなぁ」

「っ! ぃったぁぁ。……あのさ、美紅? まさか先生も誘うの?」

 突然主の名前が出たことに動揺した美祢は、肘を思い切りロッカーにぶつけてしまう。

 そして痛みにこらえながら、美祢は美紅に問いかける。

「うん、ダメ?」

 関係者なんだから当然でしょ? という表情を美紅は見せるが、美祢にとってはまるでけん制パンチを喰らったかのような衝撃を受けていた。

 美祢にとって美紅は頼りになる年上の仲間というだけではない。もしかしたら主をめぐって争うかもしれないというカン違いをしている相手でもある。

 美紅にとっては主は割と近しい異性ではあるものの、好みの範囲に入っているかと言えば全くの範囲外にいる。きわめて安全な遊び相手おもちゃなのだが。美祢がそこまで察することはできていない。

 

 なので動揺してはいるが、それを美紅に悟られまいと普通に見えなくもない表情を張り付けて、それでもなんとか妨害しようと言い訳をひねり出す。

「ダメじゃないけど……っ! 二期生緊張しちゃうから私たちだけにしない?」

「えっ? 二期生もわりと懐いてるけどな……まぁ、わかった。……本当にいいんだ?」

 本当に? 本当にいいの? 絶対? 遠慮しないでいいんだよ? と、美紅は美祢をからかうように見るが、美祢は一度否定した案を採用することができるほど大人ではなかった。

 しかも相手は美紅だ。

 色々な意味で弱みを見せるのはできない。

「……う、うん」

 元々呼んで欲しいなんて言ってないし? 私はみんなとワイワイする方が楽しいから……別に? 美紅の方こそいいのかなぁ? と、美祢の視線は少しだけ言い訳がましい視線になっている。

 美祢はそのことに気が付かないが、美紅にはお見通しだ。


「ふ~ん、そっかそっか。声かけなくっていいのかぁ」

 そう言いながら、美紅は手にしていたスマホに何かを入力していく。

「あのさ、美紅? な、何してるのかな?」

「ううん。美祢は気にしなくっていいよ? わたしが・・・・勝手にやってることだから」

「うん、あのさ。なにを勝手にしてるのか、まず教えてくれない?」

「だから気にしなくっていいってば」

 美祢は何か嫌な予感を察知して、美紅からスマホを取り上げようと動きだす。

 美紅はそうはさせまいと、スマホを抱きかかえ暴れだす。

 結局美祢がはなみずき25のレッスンに合流した時には、せっかく着替えた新しいレッスン着は汗だくになっていたのだった。

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