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百九十五話

 ある日、マネージャーの松田はあることに気が付く。担当しているかすみそう25のあるメンバーの様子がおかしいことに。

 ダンスレッスンや歌唱レッスンなどは、いたっていつも通りなのだが、冠番組の『かすみそうの花束を』で何故かから回ったり、らしくもないドジをしてみたりと様子がおかしいメンバーがいる。

 その中でも特に@滴主水の前での宇井江梨香の様子がおかしいのだ。

 先々週も先週も今週さえも。

 これは何かがあったに違いない。

 そう確信した松田は、ある場所に主を呼び出すのだった。


「何ですか松田さん。……何です? この部屋。……まるで取調室みたいな雰囲気ですけど……」

「取調室ですか……ええ、そうですね! 取調です! 先生っ!! うちの宇井に、何手ぇ出してんですかっ!!?」

 何も分からず入室した主に向かって、まるで刑事ドラマさながらに恫喝する松田。この部屋の設定が昭和なら灰皿を投げつけられた挙げ句に、額を壁にしこたま打ち付けられる位の剣幕だ。

「……。っ!!?? 知りませんよ! 僕は無実だっ!!」

 一瞬、何を言われたのかが正常に判断出来なかった主は、ようやく松田の言葉の意味を理解するとまるで自分の罪を隠そうとする犯人のように、必死に否定をする。

 その姿が、松田を確信させる。

 やはり、この男が宇井に何かをしたのだと。


「さあっ!! 言いなさい! 先々週の収録付近で、あの娘に何をしたんだっ!!」

「せ、先々週? 僕は何も……っ! ぼ、僕は本当に何もしていないっ! 本当だっ!!」

「心当たりがあるみたいじゃないかっ! さぁ! 正直に話してみろっ!」

「し、知らない! これ以上は弁護士を通してくれっ!」

「……いいのか? 弁護士なんか呼んで? 今なら大事にしないでやることも出来るかもしれないぞ?」

「……グっ! じ、実は――」

 松田の尋問に耐えかねた主は、唯一の心当たりについては話し始める。エリカに対して壁ドンしたことを。


「け、刑事さんっ! ほ、本当にそんなつもりじゃ無かったんです! ちょっと、そう、ホンのちょっとだけ、いつもの仕返しをしたつもりだったんですっ! ま、まさか、あんなことになるなんてっ!」

「誰が刑事さんですか。何時まで続けるんですか。……それにしても困ったことをしてくれた。……はぁ~」

 確かにかすみそう25のメンバーたち、主に埼木美紅なのだが、彼女たちの@滴主水イジリは少しづつエスカレート気味になっているのも事実。

 それを抑止しようと動いた主だけを一方的に責めるのも酷だとは松田でさえ思う。

 だが抑止の仕方は問題だ。

 恋愛の機微から遠ざけることが正義としておきながら、@滴主水を近くに置くことで多少なりとも男性の目線を意識させてきたは安本源次郎の采配。

 今日までなんのスキャンダルにならなかったのは、ひとえに@滴主水の心遣いという名のヘタレ力のお陰だと松田は理解していた。

 メンバーの過度なイジリも上手にいなし、男性側からの積極的なスキンシップもなく、恋愛感情を持たれ辛い上手い距離感を維持してこれたのは@滴主水だからこそだろう。

 それ故に、@滴主水から初めて行われた積極的なスキンシップを見たメンバーは、彼が男なんだと改めて認識したはずだ。それが顕著に出たのが宇井江梨香なのだろう。

 そうなると適度な距離にいたメンバーと@滴主水のバランスが崩れたと言えるのではないか?

 自分だけで判断するのが難しくなったと、松田は頭を悩ます。

 もちろん、話はかすみそう25だけではない。はなみずき25にも波及する可能性が十分にある。


「あぁ~、……先生。残念ですけど、私の負える範疇を大きく超えていると判断するしかありません。上司に報告することになります」

「……そうなりますか。いえ、そうですよね。申し訳ありませんでした」

 苦悩の表情の松田にそれ以上ふざけることもできずに、居住まいを正して頭を下げる主。

 もしかするとこれ以上彼女たちのそばにはいられないと思いつつも、それが本来の立場なんだと自分に言い聞かせる主がいた。しかしそう考えながらもなんであんなに子供のような返しをしてしまったんだと、そのせいでもう彼女たちをこうも近くでは見られなくなるんだという後悔をどこかで感じていた。

 そしてそんな主を俯瞰する主はまだまだ大人には程遠いと自分を嘆くのだった。


 翌日、主が安本の元を訪れる。

 作詞作業での手助けを気にするなと言われたが、手伝ってもらっておいて何もなしでは人としてどうかと思い手土産を持ってきたのだ。

 それと昨日の沙汰を安本直々に裁いてもらおうと。

「わざわざいいのに……ん? 昨日の? ……ああ! 後々大変になるだろうけど、今後も彼女たちのことよろしくね」

 忙しいのか、それだけ言われると早々に退出するよう告げられ主は作詞部屋を出る。

 あんなに松田の頭を悩ませた事案が不問になったことが信じられず、直ぐに立木に確認するがやはり何も咎めはしないと言われてしまう。

 何故だ?

 監視までつけて警戒している人物が、ついに牙を見せたというのに。

 安本の真意がまるで見えないと、主は頭を悩ませるしかなかった。

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