百九十話
「決着ぅぅぅっっ!!! あまりにあっけない、そしてなんとも劇的な決着!!! 勝ったのは……っかすみそう25Aチームぅぅぅ!!!」
「最後はグレと弾丸という攻撃速度が勝敗を分けましたね」
「しかも馬場選手が選択したのが、あのコンテンダーというのも意外でしたね」
「ええ。でもあの場面、そうこの場面だと先手を江尻選手が取ってるんですね。グレはもう投げられた後。それより早く攻撃を届かせようとしたら他の武器では間に合わない。コンテンダーの弾速でしか間に合わないとわかっていたからこそ。ということでしょうね」
「馬場選手もToTをしっかり研究したうえで勝利をもぎ取ったと」
「ええ、アイドルとは思えない見所のある試合だったと思います」
優華の勝利の場面が、何度も何度も画面に映し出されている。託された武器で勝利するその姿は、かすみそう25を知っているなら誰もがかすみそう25らしい勝利だと思うだろう。
そうでなくとも、限られた物資の中でこれしかないと選択できた優華を讃えないわけにはいかない。
会場は総立ちとなって、皆が優華を讃える。
所詮はアイドルの大会だからと斜に構えていたFPSプレイヤーたちも、素直に優華を讃えている。
そんな祝福を受けている本人は、未だに自分が勝ったことを受け入れられてはいなかった。
確かに画面は勝利したと通知されているが、それが本当に本当なのかと疑いさえ持っている。
しかし美祢と公佳が喜びながら呆けている優華を抱き締めれば、それが現実なんだと次第に理解していく。
「……勝った……?」
「そうだよ! 勝ったんだよ!! やったね優華ちゃん!!」
「優華さん!! おめでとう!!」
まるで優華だけが頑張っていたかのようなチームメイトの喜びに、優華はとっさに訂正を行う。
「違いますよ! 美祢さんのグレがなければ途中で落ちてただろうし! 公佳さんのフォローが無ければ復帰できなかっただろうし! それに! ……っ!」
勝てたのはチーム全体の頑張りの成果だと、言葉にしようとした瞬間優華の目から涙が大量に湧き出てくる。
20年誰かと何かを成し遂げたという経験のない優華。
それを求めていたということに、今更気が付いたのだ。
今でも言えていない『仲間に入れて』や『一緒に遊ぼう』という言葉の先にあるモノ。
それを唐突に手に入れたような気がして、なんだかズルいことをしているかのような、未だにそれを口にできていない恥ずかしさもどこかで感じている。
だけど、ようやく欲しかったのもを手にできたうれしさが、どうしても先に立つ。
「よかった、っよかった。ようやくグループの、かすみそう25の役に立てて、……私がいてもいいのか、ずっと疑問だったから!」
「もう! 何言ってるの。優華さんだって『希望の二期生』なんだから」
「き、『希望の二期生』?」
「そう! 優華ちゃんも他のみんなもかすみそう25の太陽なんだから。欠けてもらっちゃ困るんだからね」
泣きじゃくる優華の頭を優しく撫でながら美祢と公佳は笑いかける。
まるで幼い少女をあやす様に。
年下の先輩2人に優しくされた優華は恥ずかしさもあり、思わず自分を下げて言葉を口にしてしまう。
「で、でも、私はみんなと一緒ができないし、年上なのに気を遣うのも下手だし……」
「大丈夫! 美紅だって最初はそんなもんだったから」
「美紅は遠慮を忘れただけとも言えるけど」
美祢も公佳も問題ないと言い切る。
優華がどんな人物でも仲間だと言ってくれる。
「っっ~~~!!!」
この2人がそんな言葉を、自分が望んでいた言葉を口にしてくれたのがうれしくなり、再び言葉も出ないほど涙を流す優華。
そこにレポーターがマイクを手にチームのブースを訪れる。
仲間との優しい時間は終了を告げる。
ここからはアイドルの時間だ。
美祢も公佳も背筋を伸ばしてレポーターと向き合っている。
優華も2人に習い背筋を伸ばす。まだ涙は流れているがそれでも2人と同じにしなければと。
認めてくれた仲間と共にいるために。
◇ ◇ ◇
はなみずき25Aチームのプレイヤーブースからレポーターとカメラが去ると、史華に改めて負けた悔しさがこみあげてくる。
「クッソ~~!! 負けたかぁ~!」
「ナイファイ! 史華さん」
「うん、ナイファイ」
そんな史華をチームメイトの二人は、健闘をたたえている。
だが史華はプレイ中を振り返り、どうしても頭を下げてしまう。
「いや、ゴメン。死体撃ちまでやったからには勝たないとダメだよね」
「まあ、でも史華さんらしくっていいんじゃないかな?」
「あ~、確かに。史華さんポイっちゃポイかな」
「えっ~! 私ってそんなに負けキャラかな!?」
ももと陽花里はそんな史華を笑うことで、気にしなくてもいいと言っている。
はなみずき25には長い対立があったが、少しずつお互いに歩み寄っているのかもしれない。
「あ、あの江尻さん!」
「ん? はい? ってるんさん!?」
「あのっ!! 前からファンだったんです! もしよかったら……一緒にゲームしませんか!?」
勝利者のインタビューも終わり、各々が控え室へと帰る途中で声をかけられた史華。
それはいつも見ているストリーマーるんからのお誘いだった。
「え!? 私でいいんですか!? 私もいつもるんさんの配信見てるんです!」
「え~! ほ、本当ですか!? あ~……いつもですか」
るんの配信は多少のお色気と大量の暴言がウケている配信だ。
るん自身もそれは自覚している。それを推しである史華に見られていたという羞恥心がこみ上げる。
だが気にした様子のない史華は、こっちのターンだとばかりに詰め寄る。
「あの、いつがいいですか!? あっ! それと連絡先もらっても?」
「あっ! 是非是非!」
こうして仕事の一つを逃した者同士の交友関係は広がっていくのだった。




