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十九話

「立木さん! これどういうことなんですか?」

 花菜は先日もらったばかりの自分たちのアルバム、そのサンプルを手に立木に詰め寄っていた。

「どうもこうもない。大将が考えて収録したお前たちのアルバムだろ」

「じゃあ、最後のもですか?」

 立木は花菜が何を言いたいのか理解した。リストに入っていないアルバム最後の楽曲。美祢がソロで歌った、『エンドマークの外側』のことだろう。

「クレジットされてないだけで、それも大将自ら書き下ろした、お前たちに必要な楽曲だ」

「なんで美祢なんですか?」

 そう花菜にとっては余計な楽曲が入っていることが問題ではなかった。それを歌っているのが美祢だから問題だった。

 幼馴染みで親友で、自分と一緒のグループになるためにオーディションに合格までしてくれた美祢。

 今はまだ知名度は無いが、必ず自分の横に立つと言ってくれた美祢。だが、あの曲は自分と美祢を引き離すような印象が強い。それゆえ花菜は断じて受け入れることが出来なかった。


「あのな、あいつだってアイドルだ」

「? どういう意味ですか?」

「いつまでもあいつに守ってもらえると思わないことだ。話はそれだけか?」

 立木は花菜に背を向けて電話をかけはじめる。

 もう取り合わないと背中で伝えていた。

 ガンッっと何かの音が立木の耳に入る。

「高尾、それ現場で出すなよ」

「やりませんよ!!」

 全くと呆れた顔の立木が、思い出したように花菜に伝える。

「高尾! その曲隠しトラックの扱いだから、プロモーションで言わなくっていいからな」

「わかりました!」



 そうして一カ月程度の時間がたつと、はなみずき25のファーストアルバム発売の情報も解禁され、フロントメンバーの面々は各所でプロモーション活動にいそしむようになる。

 初回特典の小説に@滴主水が関わっているという情報も飛び交い、新規の@滴主水ファンと古参のはなみずき25のファンとで、なじり合いに近い情報交換がSNSや掲示板で活発なやり取りがなされている。

 そうとは知らない@滴主水こと佐川主は、本業である看護師の仕事の合間に書籍の仕事を行っている。

 そして今日主にとってうれしい情報が届いた。

「本当にありがとうございます。これからもよろしくお願いしますとお伝えください」

 本日発売の月刊少年誌に、@滴主水原作のコミカライズ作品『疾風迅雷伝』の1話が無事掲載されたのだ。

 もちろん事前に何号に掲載されるのか、そもそもどんな絵柄でコンテや構成などもチェックして、なんなら掲載号も渡されていたのだが、本当に書店に並んでいるのを見て改めて感謝の言葉を編集者を通して作画担当の漫画家へ伝えたのだ。

 抑えきれない喜びをどうすればいいのか、主は兼業作家生活を初めてから久し振りにSNSに自分の喜びを伝えたのだった。


 翌日、看護師の仕事を終えて帰路についていると佐藤からの着信に気が付き電話を取る。

「先生! やっとつながった。先生、SNSが大変なことになってますよ? 確認しましたか?」

「いえ、仕事中だったもので」

「結果から言いますと、先生のアカウント絶賛炎上中です」

「は? え~~~!!」

 世間は主の原作のコミカライズ情報など、ほぼ求めてはいなかった。どういう経緯で、はなみずき25のアルバム制作に参加したのか? それを説明もせず能天気にコミカライズの喜びだけを伝え、その後全く音さたなく、数万の説明を求める質問に全く取り合わないという姿勢が一部の人間を刺激したらしい。そこから便乗勢も合流し見事に主のアカウントは炎上となった。

「2度目かぁ」

「あ、先生のアカウントは3度目です」

「知らない情報をありがとうございます」

「ドッキリ放送後に見事に嫉妬炎上してました」

 今回は編集部経由で声明を出すことで、鎮火作業とすることになった。思わぬ形で自分の知名度を知ることになった主。所詮はしがない新人作家でしかないのだと主は改めて理解することができた。

 所詮ははなみずき25の知名度にぶら下がっているだけの作家でしかないのだと。


 そして、はなみずき25のファーストアルバム『On Your Mark』が発売されると主と美祢のおかれた環境は一変する。

 先ず急速に駆け巡った話題は、美祢のソロ曲『エンドマークの外側』だった。グループの絶対的なセンターである花菜。その幼馴染みで親友と公言していた、グループ内の人気最下位の美祢がクレジットもされていない曲で、あろうことかソロを歌い、その歌詞が花菜との決別のような意味にとれるのだからファンにかなりの動揺を与えた。

 そして、@滴主水の書いた小説。これも美祢と花菜が道を違えるような内容となっているのだから、動揺したファンは皆こう考える。

「みね吉、脱退するんじゃね?」

「花菜様とバチバチにやりあったに違いない」

「御大も最後の花道でソロ曲とかよぉ」

 などと勝手な話が勝手に進んでいく。


「だいたい主水の野郎もこんな話聞いたんなら、みね吉引き留めるとかしねーのかよ。馬鹿かよ」

 と、はなみずき25ファンになじられる主。


 そして勝手な結論に至ったファンたちは、美祢の最後の花道を笑顔で行けるよう勝手な計画をし始めるのだった。


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