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百八十九話

「ゴメン! 倒された!」

「ママ! 今起こすね!」

「公佳先輩! 今はまだっ!」

 美祢たちかすみそう25Aチームは、絶賛交戦中だ。建物への接近中に発見され、建物を囲む塀から先へと進むことができない状況で攻撃を受けてしまった。

 美祢を復帰させようとした公佳は無防備な姿を敵に晒すこととなり、公佳も攻撃を受けてしまう。

 美祢と公佳は、敵の銃弾によりダウン状態。交戦可能なのは優華だけとかなりのピンチだ。

 確実に撃破しようと前へと詰めてくる敵を視認し、優華は2人を置いて壁に沿って移動していく。

 優華の記憶では、壁の切れ目が近くにあったはずだと足音を殺して動く。

 そして見つけた壁の切れ目から壁の内側に入り込み、高い壁を乗り越えようとしている敵に銃撃をはじめる。

「っ~~!! 落とせなかったぁ~!」

 優華の銃撃は相手に確実なダメージを与えながらも、あと一歩ドットを残してしまう。

「優華さん! 私とママのところ! グレ投げて!」

「えっ! でもっ!!」

「優華ちゃん! 投げて!! 早くっ!!」

「はいっ!!」

 優華は壁の向こうにある仲間のネームに向かってグレネードを投げ込む。

 ToTでは、特別な設定をしない限り仲間の攻撃もダメージを受ける。フレンドリーファイアが有効になっている。

 ダウン状態の美祢と公佳にグレネードのダメージが当たれば、キル状態となり行動不能となる。

 それを理解しているのは、優華だけではない。美祢も公佳も理解できている。

 すなわち、あとは任せたと二人は言っているのだ。


 敵のキルと一緒に美祢と公佳のキルを告げる通知が流れる。

「ごめんなさい! 私が仕留めきれなかったから!」

「気にしないで、私と公ちゃんの物資も持って行ってね」

「後4人だよ! がんばって!」

「は、はい!」

 優華は3人分の物資を漁りながら、最終局面で必要になりそうなものを選別していく。

 回復アイテムも銃弾も、グレネードすら潤沢にある。

 いったい何が必要だろうかと、必死に頭を回転させる優華。

 キルログを見る限り史華が残っているのは確実。

 見落としさえなければ、はなみずき25Aチームは3人とも健在。

 生存数は優華を入れて5人と表示されている。

 だとするなら、1対1対3と圧倒的に史華率いるはなみずき25Aチームが有利だ。

 勝てる可能性は低いと言わざるを得ない。

 

 勝てないだろうとあきらめかけた目で、モニターから目を放し隣を見れば美祢と公佳が必死にモニターに手を合わせて祈る様に応援している。

 優華がモニターから目を離していることに気が付きもしないで。

 優華が勝てると信じている。

 そんな逆転劇を信じているのは、会場の中でもこの2人だけだろう。

「~~~っ!! よしっ!! 美祢さん、これ貰っていきますね!」

「もう何でも持って行って! がんばれ優華ちゃん!!」

 優華はバッグを棄てて、最小限の物資だけ持って走り出す。

 そしてマップから最終のパルス収縮を予想して、完全に隠れられる場所へと滑り込んでいく。

 見られていない自信はあった。だがそれを見られている可能性は十分ある。

 優華の心臓がうるさいほど早く鼓動している。

 数秒待って銃弾が飛んでこないのを確認すると、その場で伏せる姿勢へと移行してチャンスを待つ。

 ただジッと。

 

 マップが最小まで収縮すると同時に激しい銃声が優華の耳に届く。

 交戦している音だ。

 その音がやむと、キルログには陽花里ともも、そして交戦相手のログが流れていく。

「史華ちゃんと1v1か。……やってやる!」

 史華の実力は嫌というほどわかっている。その性格からこうして潜んでいる相手には最大限の警戒をしていることも読める。

 今頃伏せたままゆっくりと移動して索敵していることだろう。

 大丈夫。これは史華にさえ教えたことのない隠れるのには最適な低木なんだから。

 そうそう見つかるわけはない。

 優華は史華が音を立てる時まで限られた視界で史華を探す。

 お互いがパルスに飲み込まれるその瞬間まで、この場所を動かないと優華は覚悟を決めるのだった。

 そんな優華の覚悟を知ってか知らずか、優華の耳に史華の声が入る。

「優華、大人しく負けてくれないかな? 十分頑張ったでしょ? 2位でもあんたの名前は十分知れ渡ったって」

 史華の揺さぶりだ。

「あんたも勝てるとは思ってないっしょ? 出てきなって」

 オープンVCから聞こえる史華の声は少しも焦りを感じていないようだ。

 絶対に自分が勝てると疑っていない声。

 

 実力的には確かに史華のほうが強い。知識だって史華のほうがこのゲームを知っている。

 だけど、優華にだって負けられない理由はある。

 共に戦った2人が、今も自分が勝つと信じて祈っているんだから。

「美祢のおまけにしてはよくやったって」

「私は美祢さんのおまけなんかじゃない!」

「え~、でもアイドルしている自分に違和感感じてるんでしょ? はなみずき25に打ち解けられないんでしょ?」

 ついつい返事をしてしまった優華の潜んでいる位置が史華にバレる。

 それを気づかせないように、史華は言葉を続ける。武器を構えながら。

「それでも! ……私はみんなと一緒にアイドルがしたい!!」

 優華の返答と同時に史華が攻撃を仕掛ける。

 史華の選んだのはグレネード。位置がわかったとはいえ念を入れて広範囲に効果のある武器を選択した。絶対の自信のあるキャリコではなく。

 優華はグレネードのピンが抜ける音を聞いて、しゃがみ状態になり声から検討を付けた場所に銃弾を発射する。

 優華の選んだ武器は、美祢から受け取ったコンテンダー。

 攻撃をしのぎ切れない時の切り札として選択し持っていたモノだった。

 そして決着を告げる演出が全プレイヤーの画面に映し出される。

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