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百八十五話

「はなみずき25のAチームの動きは、どのように見ますか?」

「そうですね、装備も所持しているアイテム数もいたってオーソドックスですね。動きはやや拙いところも見えますが、普通の中級者から上級者ですね。ただ、FB_Fuのプレイヤー名の選手は要注意ですね」

「FB_Fu選手は……江尻史華さんですね。ご存じなんですか?」

 ブーターマインはようやく美祢の奇怪な行動から抜け出し、いつも通りの状態に戻っていた。

 とても面白い事でも思い出す様に、少しだけ笑いながらゲーム内で出会った史華を思い出す。

「彼女がすごいところは、このゲームで『レレレ』しながら1マガ撃ち切っちゃうんですよね」

「え? 『レレレ撃ち』で1マガジンをですか?」

「ええ、しかもこのゲームでですよ? すごくないですか?」

 ブーターマインの言う『レレレ撃ち』とは、射撃時にキャラクターを左右に動かしながらトリガーを引くテクニックだ。通常は止まって撃つ方が集弾性や命中率が上がるため、一見意味のない行動のようにも見える。だが、対人戦である以上反撃もあるため、相手の攻撃をよけながら攻撃を加える必要が生じる。そこで生まれたのが、相手に的を絞らせないこの『レレレ撃ち』だ。

 よけながら撃つというテクニックは、ゲームによっては必須技能であることもある。


「ですが、TOTでは……」

「そうなんですよね。あまり見ないんですけど、そこに彼女のリココン あ、リコイルコントロールが混ざると恐ろしい武器になるんですよ」

 TOTは、他のゲームに比べて反動リコイルを抑える技術が少しだけシビアだとファンの間では言われている。大抵のプレイヤーでは、1マガジンを撃ち切る前にはるか上空が画面に映っているのが常識だ。

 しかし史華はそれを最小限に抑えて撃つことができる。それは史華の優れたところではあるが、必ずしも誰もが必要な技術というものではなかった。

 大抵の場合10発もあれば相手はダウンするTOT内では、史華の持つ技術は無駄に近い技術ではある。

 しかも一対一の交戦で1マガジンを撃ち切っていては、その直後の交戦でリロードしていなくては戦えないというデメリットもある。

 そこで史華が行う『レレレ撃ち』が生きてくる。

 正面の交戦でも横やりを入れられても、初段は当たるがその後被弾の少ない史華の生存率は高く、結果彼女が勝つ確率が高くなるのだ。

 史華はそんなプレイスタイルを気に入っており、プレイヤー名にも入れている。FBすなわち『全弾発射フルバレット』と。


「しかもですよ、TOTにはアレがあるじゃないですか? 登場する全武器含めて最も装弾数の多いあの武器が」

「ああ! キャリコM950a!?」

「そうなんですよ。きっと彼女は今もそれを探していると思いますよ」

 キャリコM950aは本来9㎜の拳銃弾を使用するピストルに分類される銃である。

 だが一般的なピストルと大きく違う点がある。それは装弾数。

 50発入るマガジンを使用していて、それを連射機能で吐きだすのだ。

 もちろんゲーム内でも同様の使用である。ただしリココンが特に難しいことでも有名だ。

 威力はそこまで高くはないが、検証サイトによれば理論上ゲーム内の最硬防具であるⅢアーマーを使用していても1マガジンで3人をダウンさせるダメージを与えることが可能となっている。

 今回の大会仕様で言えば、1チーム分のダメージとなる。

 そんな武器ももちろん、ゲーム内ではデメリットがある。それは有利性でもある弾数だ。ゲーム内でそれほど与ダメージの高くない拳銃弾を終盤まで持ち歩いているプレイヤーは少ない。

 要するに補充が難しくなるという問題がある。

 だが史華はそれでも装弾数が多いというその1点のみで好んで使用する傾向がある。


「本当に、いい意味で頭のおかしなプレイヤーだと思いますよ」

「なるほど。……おおっとっ!! そうこうしているうちに、はなみずき25のAチームが会敵しました!! 江尻選手が突っ込んでいく!! 後方に控えた宿木選手と今東選手がスナイパーライフルでダメージを与えていく!! そこにすかさず江尻選手が近接戦で敵を撃破ーー!! こちらも鮮やかな殲滅でしたね、ブーターさん!」

「ええ、役割をきっちり分けているから中級者の二人も臆さず攻撃に参加できていますね」

 メインとサブ両方の弾を吐きだした史華のキャラクターが、敵の持ち物を漁るより先に装填の動作をしている。ブーターマインの言うように全弾を打ち尽くした結果だった。

 そしてゆっくりと敵の持ち物を漁っていると、史華は求めていた銃に出会うのだった。

「あーーっと!! ブーターさんの予測通り! 江尻選手が手に入れてしまったぁ~! 最強で最悪の相性の銃が江尻選手の手に今渡ってしまったぁ~!!」

「いやぁ~。これは危険な組み合わせですよ! V3であっても万が一が起きる可能性が高くなりましたね!」

 自分の予言が当たっていたことに、ブーターマインは興奮気味である。

 そして大会運営の思惑が潰える可能性を口にする。

 もう純粋に面白がっているいつも通りのブーターマインに戻っているようだ。

「そして、先ほど奇妙な行動をとっていた! かすみそう25Aチームにも動きがありそうだ!!」

 同時多発的にマップ内で戦闘が繰り広げられる中、美祢たちも実質的に初の戦闘へと動いていくのだった。

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