百八十三話
「さぁ~、大事な大事な初動です。みんな思い思いのランドマークに降りていきます。……おっと! ランドマークが被っているチームがいるぞ!? え~どこですか」
「あ、これは……はなみずき25のAチームとCチームですね」
「おおっとっ! これはどうしたことか!! アイドルカーニバルの優勝者でもある、はなみずき25! これはオーダーミスか!?」
会場の誰もが、ため息をついている。
チームが違うとはいえ、同じグループでマップの同じところに降りようとしているのだからミスだと、さすがにゲームは慣れていなかったのだと。
だがAチームを率いている史華は、冷静にチームメイトの今東陽花里と宿木ももに指示を下す。
「陽花里、もも。武器拾ったら即効向こうのチーム潰しに行くよ!」
「ふ、史華さん? 本当にやるの?」
焦る様に問いかける陽花里の耳に、冷静を通り越した極寒の史華の声が届く。
「当たり前」
「ひぃ!」
「陽花里、諦めよう。もう始まっちゃったんだから」
そう慰めるももの声は、若干高揚している。
会場の特有の熱気に当てられて、ハイになっている。
「即効潰したら乗り物使って、かすみそう25のCチームも狩りに行くから。ファームはそこですれば良いから。連射できるの持ったら突っ込むよ」
史華のプランは期間中に上達の見えなかった2つのチームを刈り取り、序盤でキルポイントという撃破時に付与されるポイントを大量取得し、そのアドバンテージを活かしながら安全に立ち回るというものだ。
楽に撃破できるチームを知っているからこその、非情な作戦。ある意味では高度なチーミングと言われかねない危うい作戦でもある。
だが1回きりの大会で、自分の知りうる情報を最大限活用した作戦だともいえる。
成功すればの話だが。
「おおっとっ!! もう一つランドマークが被っているチームがあるぞ!! こちらは……な、なんと! かすみそう25AチームとCチーム!!」
「あ~、これは、わざと被せてるのかもしれないですね」
ブーターマインは降下していくキャラクターの挙動を見て、あることに気が付く。
「ブーターさん、どういうことでしょう!?」
「おそらく、ゲームが得意じゃないメンバーを固めて得意なメンバーが撃破していくつもりなんでしょう」
「な、なななんと!! 何という冷酷な判断!! いったいこれは誰のオーダーだ!? こんなヒドイ判断を下せるアイドルがいたのか!?」
そんな実況の言葉に何故か会場は沸いている。誰も思いつかないオーダーだからこそやる意味がある。
それを理解しているからだ。
なんともゲーマーらしい判断。
ルールの中でできうる最大限のパフォーマンスを行う、ゲーマーやスポーツマン特有の思考を持つアイドルがいることに、親近感を得たために沸いている。
そして会場にいるFPSプレイヤーは思う。これは「やってる」と。
そんな会場が湧いているとは思っていない史華と同じオーダーをした優華。
「ゆ、優華ちゃん? 本当にいいの?」
「ええ、じゃないと史華ちゃんに勝てませんから」
優華は戸惑う美祢に、冷静に答える。
優華は史華の言葉を忘れてはいなかった。むしろ絶対にやってくるという信頼さえあった。
だからこそ、キルポイントで離されるわけにはいかないと判断したのだ。
「ママ、勝負は常に非情なんだよ」
「あ、『疾風迅雷伝』の3巻!」
「あたり~!」
わずかに動揺した美祢を、公佳が落ち着かせる。
「美祢さん、公佳さん。早さ勝負で行きますから。……グレも使ってくださいね」
「わかったぁ~!」
「了解!」
美祢と公佳は落ち着いた様子で応える。
ただ、美祢は内心少しだけ申し訳ない気持ちが残っている。
Cチームにいるメンバーに申し訳ないと、特にイベント参加メンバーに選ばれたことを喜んでいた美紅と恵美里に。
「さぁ~、キルポイントでははなみずき25、かすみそう25の共にAチームが先行した形。同じグループのCチームと無傷で撃破しています」
「ああ、かすみそう25は占領したランドマークを離れていきますね。そこにたぶん、はなみずき25Aチームが入ってくるんじゃないかな?」
それを聞いた野明はいぶかしんだ表情を見せる。
通常戦闘に勝ったチームは、そのランドマークにある物資、回復アイテムや武器を独占できる権利がある。なのにも関わらず、かすみそう25Aチームはゲームでの常識外の動きをし始めたのだ。
「あ~、なるほど。たぶんランドマークを被せる作戦は、はなみずき25のAチームの作戦だったんでしょう。それを察知したかすみそう25Aチームがキルポを離されるのを警戒して先にCチームを奪ったんですね」
「はぁ~! 今大会、一人撃破ごとに3ポイント付与されるキルポイント。6人撃破で18ポイントとなる所を9ポイントに抑えた好判断だと?」
「ええ。かすみそう25のオーダー選手はその上で、交戦を避けて別のところでファームするつもりですね」
「相手の作戦を妨害しつつ、自分たちもポイントを得て! しかも無駄に交戦のリスクを切って生き残りで順位の確保!! 彼女たちプロゲーマーでしたっけ?」
「いや、最近のアイドルさんは恐ろしいですね」
感心している解説と実況は、またも驚くことになるのだった。




