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百七十九話

「で? そのF、ぴーなんだっけ? それってどんなゲームなの?」

 立木が退室した会議室で、花菜がとぼけたような顔で質問を投げる。

 それを受け取れる人物は少ない。ほぼ全てのメンバーが花菜から顔を背ける。

「はぁ~、あんたは何も知らないのにあんな啖呵切って。いい? FPSって言うのはね――」

 会議室で史華によるゲーム講座が始まる。

 ジャンルの説明から、今回の大会で使用されるゲームの説明。

 大会のルールなどわからないものを全部史華に投げかけるメンバーたち。

 もう一人じゃさばききれないと、史華は優華をアシスタントに指名して時間をかけてゆっくりと説明を続けるのだった。

「要するに、鉄砲撃って最後まで立ってたら勝ちってことね?」

「間違ってないけど……二回目の説明は美祢に任せたからね」

「えー!! 私ですか!? もう! 面倒事は全部私に持ってくる」

「花菜の幼馴染っていう不運を恨むんやな」

 あいもキシシと笑いながら、花菜の担当を美祢に押し付けるのだった。


「ただ、問題は! この中でPC持ってる娘いるの?」

 史華の質問に、何人かは手が挙がる。

「ん、じゃあ陽花里。スペックは?」

「スペック? あのノートの……」

「ダメそうね。松田さん、練習できそうにないけど!?」

 史華は後ろに控えていた松田に、大会以前の問題だと言い放つ。

「はいはい、わかってたけどね。一応会社で注文していたのがあるのよ」

 松田が渡した注文票を流し見て、頷く史華。

 そしてもう一度松田を見る。

「じゃあ通信環境は?」

「へ? あー……それは設備の人に確認しないと……かな?」

「ねえ、松田さん!! 勝てないよ? あっちはスポンサーからオバケみたいなマシン組んでもらって、速度だけを重視した回線何本も引いてるんだから!!」

 なぜだろう、普段これほどまでに口数の多い史華を見たことが無いとメンバーは若干引いている。 

 そんなちょっとした意外なイベントが起こりつつも、ファンの関心を引く話題の芽吹きは着々と成長していくのだった。


 ◇ ◇ ◇ 


「思ってたより馴染むもんだね。……これが若さってやつか」

「いや、史華ちゃんも十分若いけど」

 仕事と学校の合間に始まったゲームの特訓。今回はゲームパッドではなくマウスとキーボードでの操作しなくてはいけない。慣れない操作に苦労し、キャラクターを歩かせることすら一苦労だったのに何人かは中級者程度には動けている。

 ただ慣れないメンバーは未だに攻撃を受けると、悲鳴を上げて両手を放してしまうのだ。

「幸いなのは、私たちは6チーム作れるってことだね。上達しない娘はキルポの足しになってもらうかなぁ……」

 真剣な表情で恐ろしいことを言う史華。それは嘘ではないだろう。

 上達しないメンバーには、慣れるためと称して同じランドマークに降下させているのだから。

 無意識に試合で同じところに降下したメンバーを無慈悲に刈り取る戦略だろう。

 すでに史華の頭の中は試合に勝つことに集中し始めていた。

「意外なのは、花菜が上手くて美祢がいまいちってところだよね」

 思わず吹き出しそうになりながら、史華と優華は美祢のディスプレイを覗き込む。

 敵とは全く違う方向に、1マガジン全弾放つというあまりにひどい光景。

 ただ何故か完全に射線の通らない遮蔽物にうまく身を隠しているのだから上達しているメンバーに数えられるだろう。


「ぎゃ! 弾が無い!!」

「美祢さん美祢さん、グレネード持ってますよ」

 弾を失いパニックになっている美祢を見かねて、優華がアドバイスを送る。

「グレネード? ……ああ、これ!? どう使うの!?」

 今度は武器の使い方がわからずパニックになる。優華は笑いを抑えながら使い方を説明する。

「なるほどね、こうか! ……えいっ!」

 初めて投げられたそれは、意外なほどいいところに落ちて敵にダメージを与えている。

 要領をつかんだのか、それからも美祢はグレネードだけで敵を撃破していく。

「えっ! うますぎません?」

「なに美祢、神グレ連発じゃん!!」

 美祢の後ろで、異様に盛り上がる史華と優華。

「これあれに似てる! バスケットのゲーム! フリースローだけのあれ!」

 興奮したように叫びだす美祢。最初の頃のキルは興奮するよなぁ~と二人は微笑ましい表情をみせる。

 ただ気になることが一つあると、優華は美祢に説明を求めた。

「あれ? 結構前に流行ったゲームなんだけどな? 知らない?」

 さっぱりわからないという優華に、タイトルを忘れた美祢はどのようなゲームかを細かく説明する。

 優華は美祢の上げた特徴を検索する。

「あ、ありました。えっと……『超絶フリースロー』?」

「あ、それそれ! 頑張ってクリアして、タイムアタックとかもやったなぁ」

 懐かしんでる美祢をよそに、優華は聞き慣れないゲームタイトルの記事を読み進める。

「バグが多くてクリアできた人は皆無のクソゲー……美祢さん、クリアしたって……」

「うん! クリアしたよ! 最終面はリングが縦横無尽に動きまくるから大変だったけど」

 再度優華は記事を読み直す。

 美祢の言っていたリングの動き、それが最大のバグでコート外から始まる最終面では羽虫程度にしか見えないらしい。美祢はそれをクリアしたと言い張る。

 嘘だと言いたくなるが、美祢のグレ精度が本当かもしれないと思わせるのだった。

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