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百七十八話

 その日、はなみずき25とかすみそう25の全メンバーが事務所の会議室に集められていた。

 時期的に新曲の話でもないだろうに、なぜ集められたのかと全メンバーの頭の中に疑問符が浮かんでいた。

 そんな会議室に難しい表情の立木が入室する。

 なぜだか、空気が重くなるのを花菜を含めた全員が感じている。

「みんな、呼び出してすまなかったな。とある企画が挙がってきてな、全員の意見を聞きたいんだ」

 いつもなら安本の指示の元、企画の内容など当の本人には知らされず了承する立木たち運営サイドがわざわざ自分たちに意見を求める案件とはいったい?

 全メンバーに緊張が走る。

 そして立木の手から企画書が配られると、全メンバーから声が漏れる。

「え?」

「これ……これに悩んでたんですか?」

「ああ、ただ参加すればいいってものじゃない。アウェーに飛び込むわけだからな」

「う~ん……」

 美祢達が手にした企画書には、でかでかと『アイドルグループ対抗! ゲーム大会の開催の要請』と書かれている。

「えっと、……何が問題なんですか?」

 何度も企画書に目を通すが、アイドルであるメンバーたちには立木たち運営が悩む理由が見つからない。


 企画書に書かれているのは、昨今注目を浴びるゲームスポーツ、eスポーツのPRするために協力をしてもらいたいというものだった。

 そのためにアイドルグループを複数募り、大会として中継・配信するらしい。

 言い方は悪いが、よくある賑やかしの大会と言えなくもない。

 何を悩む必要があるのだろうか? 当のアイドルたちは何回読んでもわからない。

「実はな、主催にアイドルカーニバルの運営が絡んでるんだ」

「ああ、私たちはなみずき25が三連覇して次点がかすみそう25って完封勝利した?」

 リーダーのあいが思い出したように手を打つ。それに大きく頷いて立木は肯定してみせる。

「ああ、今年も開催されたが夢乃の卒業の陰に隠れて、あんまり話題性も無く三連覇したあのアイドルカーニバルの主催だ」

「なんか立木さんとあいリーの言い方、……おかしくない?」

「花菜、気にしたら負けだよ」

 何かに気が付いた花菜を、何かを察した美祢が止める。

 それとなく聞いていた周りのメンバーは、よくぞ止めたと美祢を誉める。

 そこを膨らませたら、この話は進まずアイドルカーニバルの話を延々としないといけないと皆が察していた。……どうか察してほしい。


「わかっていないようだからちゃんと説明するとだな、この大会は完全にアウェーだ。すなわちお前たち2グループは添え物として呼ばれている」

 今あるアイドルグループの中でも、それなりに知名度のあるはなみずき25とかすみそう25。

 それを差し置いて、大会側が主役と推すグループがあると立木は熱を込めて説明する。

 それを聞いてもいまいちピンと来ていないメンバーたち。

「で? 結局その主役さんは誰ですか?」

 しびれを切らしたあいが、立木に結論を言えと迫る。

「この大会の主役は、『V3』という3人組のガールズユニットなんだ」

 メンバーはさらに疑問符を増やす。『V3』なるグループに一切心当たりがない。

 だが一部のメンバー、江尻史華は何か思い当たるものがあるかのように手を上げる。

「あの、……それって『るん』さんってストリーマーさんが組んでるやつですか?」

「江尻、よく知ってたな。正しくはストリーマー兼コスプレイヤーだ」

 V3とは、コスプレイヤー『るん』率いるコスプレアイドルグループである。

 そして所属する3名ともにゲーム配信をしているストリーマーでもある。

 生配信時の同接は、3人合わせて100万人という人気ぶりだ。

 その3人がユニットを組んだこともあり、配信界隈では異様な盛り上がりを見せている。


「あー、つまりはゲームで私らをぶっ潰して、自分たちのプロモーションに使おうって腹やな?」

「おそらくそうじゃないかって意見で俺たちは見てる」

「私たちを、噛ませ犬にしようってことですか?」

「端的に言えばそうだ」

 誰かの口元からギリギリとアイドルらしからぬ音が響いている。

「で? ゲームの内容は何ですの?」

「えっとだな……エフ――」

「FPS。ファースト・パーソン・シューティング……ですよね?」

 史華が確信をもって立木に確認する。

「ああ、そうらしい」

 内容を聞いてもピンと来ていないメンバーが多いなか、馬場優華は俯き顔を両手で覆い隠している。

 それもそのはず、一般的に認知度はそれほど高くはない。だが、確実にその競技人口を増やし始めている、今やゲームと言ったらFPSと答えるゲーマーの方が多いだろう。

 そのゲームの配信を毎日のようにしているV3の面々、はなみずき25とかすみそう25では練度に差がありすぎる。受けないほうがいい、逃げるべきだと声を上げたくなる優華。

 だが、はなみずき25のメンバーはそう思ってはいなかった。


「立木さん、やろう!! 受けてよそれ。面白いじゃん、そのなんたらが私たちに負けたらどんな顔するのか見てみたい」

 花菜の好戦的な言葉に、全員が頷いている。全員が、美祢さえも頷いている。

「そう言うと思ったから迷ってたんだよ。……出るからには絶対に負けない!! いいな!」

「はい!!」

 はなみずき25のメンバーは、きれいに声をそろえて返事をしている。

 それを聞いて、立木は会議室から出ていく。

 立木の顔は、懐かしいモノを見たとほころんでいた。

 アイドルカーニバルに初出場した時も同じように闘志を燃やしていたなと。

 あの時とは違い一人欠けてはいるが、あの時と変わらないモノも確かにあると。

 だから期待してしまう。

 あの時と同じような番狂わせを見せてもらえるんじゃないかと。

 そんな立木は見えていなかった、不安そうな優華の顔を。

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