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十六話

 主と佐藤が応接室に通されると、そこにいたのは件のフィクサーではなく、はなみずき25のプロデューサー一人だった。

「どうも、良くおいで下さいました。プロデューサーの立木といいます」

 丁寧に腰を折り名刺を渡してくる立木。

「頂戴いたします。私編集部の佐藤と申します。こちらは@滴主水こと佐川主先生です」

「申し訳ありません。名刺とは無縁な職業なもので、佐川主です」

 佐藤は自分の名刺を返し、主はそのまま名刺を両手で受け取る。

「ちなみに本職のほうは何をなされているんですか?」

「一応看護師をしています」

「はぁ~、それは大変なご職業ですね。お忙しいのにお呼び立てしてしまい、大変恐縮です」

 佐藤の警戒とは裏腹に和やかな雰囲気で開合ははじまった。


「お願いしたい仕事というのは、はなみずきのアルバム制作のお手伝いをしていただけないかと、そういう話なんです」

「あの、歌詞なんて書いたこと無いんですけど」

「いえいえ、歌詞ではなくもちろん物語をお願いしたいのです」

 詳しい話を聞くと、彼女たちの1stアルバム制作にさいし元々から発表してきたシングルには一つのテーマがあった。少女たちの冒険と成長をテーマにしてきたのだが、どうせなら初回特典としてそのテーマに沿った書籍を付けたいということらしい。

「そこで、彼女たちと因縁浅からぬ先生を押す声がありまして」

 小説と聞いて胸を撫で下ろす主。そこで、あることを思い出す。


「佐藤さん、新作のプロット没でしたよね? あれ使って良いですか?」

「あ、そうですね。こっちは問題無いですけど」

 佐藤は鞄の中から、処分するために持っていたはプロットの印刷物を立木に差し出す。

「拝見させて頂きます」

 原稿を読みながら顎をさすったり、耳をいじったりと世話しない動きを見せる。

「なるほどなるほど。流れは悪くないんですが、主要キャラに一部変更をしていただけないかと」

 立木はメンバーのプロフィールを渡し、我が子を紹介するかのようにメンバーのパーソナルな部分をこと細かく補足していく。

「で、これがアルバムの表題曲のタイトルと歌詞、そのセンター候補です」

「なるほど」

「先生のプロットとは印象が違いますね」

 佐藤の言葉に主は頷く。当然花菜はなみずき25のエースだから入っていた。しかしドッキリの時に言葉を交わした印象とタレントとしての花菜は明らかに異なったイメージとなっている。

 主は資料を覗きながら机に爪を何度も叩きつける。

 佐藤も知らない主のネタ出しの姿。それはとてもじゃないが、外部の人間のいるところでやっていい姿ではなかった。しかし、立木は何も言わず主を見守っている。

 

「すいません、メンバーのどなたかにお話聞くことってできますか?」

「今はどうですかね? 確認してきますね」

 立木が席を外したところで、佐藤が主に確認することがあると話かける。

「先生、ここで書いていく気ですか?」

「ここまで来るのに結構時間かかりますから、出来ることはやっちゃいたいなぁ~っと」

 運転するわけではないが、それでもいくつかの乗り継ぎをしなくてはいけないのは堪える年齢だと言いたい主。だが、プライドが邪魔をしてそこまでは言わない。どうか察してくれと目で訴える。

 しばらくたって立木が少女を伴って帰ってくる。

 美祢だ。

 美祢はなんでここに主がいるのかといった表情で、主と立木を交互に見る。

「こんにちは、結び……賀來村さんでしたっけ?」

「あ、はい!」

 苗字で呼ばれ、若干緊張した様子で返事をする。

 

「ごめんなさい、ちょっとお聞きしたいことがあって。賀來村さんから見たメンバーの印象と言うかどんな女の子たちなのか聞きたいんだけど、いいかな?」

「……はい」

 最初は緊張を引きずった様子で話し始めた美祢だが、聞き役に徹する主と視界に入らないように気を使ってくれている立木のおかげで、2人目からはスラスラと話していく。

 この娘はいつもこんな話をしている。メンバーでの立ち位置はどこだ、など美祢の視点で全員の話を事細かに話していった。

「ありがとう。物凄く参考になりました」

「いえ……参考って?」

「こちらの先生にアルバム特典の本を書いてもらうことしたから。あ、メンバーにはまだ内緒ね」

 立木はそう言って、美祢に口止めして部屋から送り出す。

「先生、よく話聞きながらそんなにメモ出来ましたね」

 主の手元には先ほどの美祢の話を単語で区切りながらびっしりと書き込まれたメモがある。

「まあ、職業病ってやつですよ」

 苦笑しながら主はカバンからパソコンを取り出し、メモを見ながら机を爪で叩く。

「うん、そうだな」

 独り言を一つ落とすと、主はいつものように破壊を疑われるほど強くキーボードをたたき始める。


「はぁ~、いつもこんな感じですか?」

「いやぁ~、正直まだ自分も把握していない先生ですので」

 横で何やら言われているが、主はそんな言葉も聞こえないほど集中している。

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