百五十二話
アカペラちゃんねるの収録が終わり、、少し経つと動画投稿サイトは異例の盛り上がりを見せていた。
予告されていた投稿時刻よりも早く上げられた、かすみそう25の9分30秒の動画。
それはSNSでも瞬く間に拡散されていくのだった。
ただメトロノームがあるだけで、かすみそう25のメンバーが完璧なパフォーマンスをしている動画を見た誰もが速く誰かと共有したいと行動する。
初めてかすみそう25を見たという感想に、これがかすみそう25なんだと得意げなレスがいくつも付き、ファンが我が事のように喜ぶ。
中でも新人の佐川綾への注目度は高い。
まだデビューして2か月しか経っていない新人アイドルが、先輩たちよりも印象的に動画に登場している。
まるで今後のかすみそう25の中心となるのは、この娘なんだというような印象さえ受ける。
一期生や賀來村美祢を推しているファンは、さぞかし面白くないだろうと煽る性根の曲がったコメントも見られた。
しかし、かすみそう25のファンの反応はそうではなかった。
そうだ! と、かすみそう25の今後は二期生が担っていくんだと。
一期生が創り支えている舞台の上で輝く二期生を、一緒に応援しようじゃないかと、熱くコメントを返すのだった。
かすみそう25の既存のファンは、一期生のライブでのパフォーマンスを知っている。
自分たちがカメラに映らなくとも、影に徹してでも二期生達をファンに届けることを選んだ一期生の選択をファンは支持していた。
だから、彼女たちを応援する自分たちも二期生を応援する人を少しでも増やしていきたいと願うのだった。
要の一期生を支えるファンもまた、グループにとって要なのかもしれない。
さて、注目を浴びるようになったかすみそう25の新曲『走らなきゃ見えない』。
それを世に届けるために、メンバー、スタッフが一丸となって制作の真っただ中にいた。
「この衣装可愛くない?」
「っだよね!? あ~あ、アカペラちゃんねるに間に合えばよかったのに」
二期生は初めての舞台衣装に盛り上がっていた。
初めてアイドルとしてステージに立つのとは違う、そろいの衣装という特別感。
ようやく自分たちもアイドルとして動きだすんだという、高揚感に包まれていた。
「わかるなぁ。私たちは専用衣装なんて、かすみそう25になってからだったもんなぁ」
「いやいや、まだ私たちも二年目だからね? もうちょっと感動してあげないと」
「つぼみの時は私たち、はなみずき25さんの衣装の色違いだったんだよねぇ」
「ま、まあ、確かに。……いやいや、でも衣装あっただけでも良しとしないと!」
はしゃぐ二期生を見て懐かしむように、まみが珍しい愚痴をこぼしている。
本来の抑え役が、率先して愚痴っているため本来は静観役の智里が抑え役に回っている。
それを聞くでもなく聞いてしまった、二期生達の声がだんだんと小さくなっていく。
「ほら! まみさん、後輩に気を遣わせないで!」
「でも、まみの言うこともわかるわぁ~! はじめは専用の曲すらなかったもん」
「美紅さんまで……。ヒナ! あんた副リーダーでしょ! この二人止めてよ」
年上二人は、感慨深そうにはじめた愚痴大会を止めようとしない。
さすがの智里も一人では無理だと判断して、副リーダーである日南子に権限発動を要請する。
「出番が5分とかもありましたよねぇ~。それでもすっごく緊張したっけ」
「あ~! 最初の定期公演でね。あったねぇ~」
本来制止する役目の日南子も合流して、3対1の構図になってしまった。
智里は申し訳なさそうに、二期生を見るしかできなかった。
「まー、みく、ひー。こうはいいじめちゃダメ」
有理香がそういうと、丸めた紙でまみ、美紅、日南子の順番で叩いていく。
公佳はそれを面白い遊びだとでも言うように、即座に有理香の後に続く。
「わっ! ご、ごめんって」
「ぎゃっ! 私だけ強くない!?」
「ひゃん! うぅ……ユリたん。ヒドイぃ」
佐奈も混ざりたかったのか、丸めた紙を手にしていたが美紅が振り向いてしまったため、紙を後ろ手に隠している。
「三人娘ナイス! よくやった」
智里は参加できなかった佐奈も含めて、全員を褒め称える。
そして、問題児三人を見据えながら少しだけ強い口調で叱りつける。
「言いたいことはわかるけど、後輩のテンション落す先輩がどこにいますか!?」
智里の言葉に、バツの悪そうな表情を浮かべるだけの三人。まだ反省しないのかと、智里は言葉を繋げる。
「これから全員参加のMV撮影なんですよ!? はなみずき25のスケジュール終わりの美祢さんがこれ見てどう思うんですかね?」
「……ごめん、言い過ぎた」
「……、……」
「ごめんなさい」
まみと日南子は、智里の言葉に素直に謝る。
スケジュール調整が未だにタイトな美祢に迷惑をかける可能性を示唆されたら、二人は謝るしかできない。
だが、美紅は唇を尖らせたまま口を開かない。
「美紅さん!」
そこに全てを見ていた美祢がようやく止めに入る。
「智里、ありがとう。でもそれくらいにしてあげて。……美紅も、ね?」
「美祢さん! ……まあ、もういいです」
「……」
美紅はただ黙ってうなずいていた。




