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百五十一話

 主がアイスを大量購入しているのと同じころ、はなみずき25のオーディション組の3人が事務所の会議室に集まっていた。

「……これ、本当にアドリブなの?」

「らしいよ。あ、見て! ちょっと遅れてる。別のカメラで今のところ見たい」

「ちょっと待ってね。……ここかな?」

 集まっていたのは、美祢と同い年の西村菜月、二つ年上の今東陽花里こんどうひかり、そして最年少の宿木ももやどりぎももの3名だった。

「もも、これってどうやってるの?」

「たぶん、美祢が指示出してるんだと思う。ほら、美祢の視線が届かないと遅れる」

 3人が見ているのは、はなみずき25とかすみそう25の合同全国ツアー最終日のかすみそう25ステージのアンコール部分。新曲『走らなきゃ見えない』を披露した場面を繰り返し見ている。

 一番年下の宿木もも。かすみそう25の最年少組よりも一つ年下ではあるが、両グループの中でもダンス巧者で有名なメンバーだ。

 そのため、ももは早いうちから二列目に選ばれ、もうすぐフロントメンバーにもなるんじゃないかと言われている勢いがあるメンバーだ。

 そんなもものダンスを支えているのが、幼いながらに鍛えられた観察眼だ。


「あ、本当だ。見て美祢の視線! 確かに指示出してるよ」

「え!? 本当なの?」

「うん、ほら、この時床見てるでしょ? これがこの娘への指示なんだと思う」

 そして今年高校を卒業したばかりの今東陽花里は、ちょっとした特別な目を持っていた。

 それは本人曰く「他人の視界が見える」というもの。解説すると他者の視線から見えている光景を、言葉で具体的に説明できるほど明確な想像ができる。

 ……ただ、それがアイドルとしての人気につながるかというと、そうでもないようで未だに2列目と3列目を行き来している。

 だが、そんな二人の言葉を信じて人気を上げてきた菜月は、美祢の躍進の秘密を探ろうと二人を呼び出したのだ。

「あの美祢が……すごい」

「美祢もすごい。けど、本当にすごいのはこの人たち」

 ももが指さしたのは、2列目にいた美紅と日南子だった。

「どういうこと?」

「美祢の視線が切れた時、この二人が両端まで指示出してる。ほら、この指とか」

「ん~? えっ!? こんなのわかんないじゃん!」

「あ、でも確かに見てるかも」

 2列目にいる最年少組の3人の視線を見て、ごくわずかに映った指で立ち位置を変えていると陽花里は言う。

 菜月は、はじめてこの二人の言葉を疑いたくなった。

 しかし、今までの経験がそれをしてはいけないと言っている。


「で? 菜月。さっきの話本当なの?」

「うん、夢乃さんが言ってたから、間違いないと思う」

 菜月が二人に話した内容、それは統括プロデューサーである安本の計画についてだ。

「この中の誰かが、はなみずき25に入ってくるらしいよ」

 そう、誰かはわからないがはなみずき25は増員されるらしいというところまで、夢乃の情報網にひっかかっていた。

「でも、気にしてもしょうがないんじゃ……? はなみずき25でこれをする機会なんて無いんだし」

 陽花里は、美祢がセンターではないからこんな曲芸みたいなことをすることはないと言う。

「だけど、この中の誰かと美祢でユニットはできるでしょ」

「まあ、……確かに」

 そうなると、美祢と後輩の誰かへの注目が集まるだろう。それが、未だにフロントを任されていない3人には脅威だった。

 順調に人気を上げて、番手を挙げている美祢。メンバーの中でも次の新曲はフロントメンバーに食い込むだろうと予想されている。因みにファンはもっと過激だ。次は美祢がセンターの曲になるに違いないと、SNSはじめネットではそんな予想が出回っている。


 そうなってしまえば、自分たちへの注目が集まる機会は減っていく。

 デビュー前に想像していたアイドル像から、また離れることとなる。

 口には出さないが、同じ様な想像をした3人は暗く口を閉ざす。

 だが、こんなことでくじけてしまうことが、一番想像から遠いと最年少のももが机を叩きながら立ち上がる。

「だったら! レッスンするしかないでしょ」

「確かに、美祢に比べれば私たちレッスンしてないからね」

「そうだね! ミーちゃんに負けてられないね!」

 陽花里が二人に同意すると、ももが薄ら笑いを浮かべて陽花里をイジりだす。

「いや、本っ当は陽花里が一番してないと駄目でしょ」

「それな」

 菜月もそれを察知して、ももと一緒になって陽花里をイジり出だす。

「もー! 二人ともヒドイよー!」

「だって、本当のことじゃん」

「ツアーで立ち位置間違えた人誰だっけ~?」

「ちょ、ちょっと! それ誰にも言わないって約束!」

「歌詞間違ったのもバレてるからね」

 まるで同年代かのようにじゃれ合いながら、会議室の片づけをして3人は去っていく。

 彼女たちもまた、美祢のようにアイドルとして足りない自分を自覚し歩み始めるのだった。

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