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百四十七話

「さすが、先生。変なこと考えさせたらホント一流」

 美祢はアカペラちゃんねるの件と主が考えた立木への対応策をメンバーに伝える。

 その第一声が、美紅の言葉だった。

 かすみそう25でも反応が分かれる。

 一期生でも最年少トリオは楽しそうだとはしゃいでいるが、それ以外は日南子でさえ美祢の提案、いや、主の提案に呆れている。二期生は無理だと表情に出してしまっている。

「そんなぁ……」

「美祢、さすがに無理あると思うよ。無音で歌唱もダンスもなんて」

 そう、主が提案したのは、無音でのパフォーマンスだ。ただの歌唱ではなく、アイドルとしての歌唱だ。そこにはもちろんダンスも含まれる。

「無理かなぁ?」

「だって、やっぱりカウントがズレるよ? ねえ、智里いい?」

「はい」

 智里は立ち上がると、美紅の隣に立つ。

「じゃあ、いつもの速度でね。1・2・さん、はい!」

 誰もカウントを取らず、二人のダンスが始まる。踊るのは、かすみそう25のファーストシングル『走らなきゃ見えない』だ。

 少しずつ美紅と智里のダンスがずれていく。そして、智里の方が明らかに速く終わってしまう。

「ほらね?」

「頭の中で歌ってみたけど、やっぱりズレるよ」

 まみは踊りはしなかったようだが、頭の中で歌唱していたようだ。

 それでも顕著なズレは生じたと告げる。

「せめてカウントだけでもわかればできるんだろうけど」

 美紅は美祢の提案を少しだけ受け入れる。だが、全体的には否定的だ。

 そんな美紅の言葉に、二期生の中から恐る恐るといった様子で手が挙がる。


「あ、あの、そのチャンネル……好きなんでよく見てるんですけど、……確かメトロノーム持ち込んでた人がいた気がします」

 その二期生は雨知ななあまちなな18歳の高校3年生だ。人見知りが激しく、未だに一期生と盛んな交流はないが、有理香を膝にのせていたことを美祢は覚えていた。

「え!? 本当なの? ななちゃん」

「あ、は、はい! 確か男性のボーカリストだったはずです」

「みんな! 手分けして探しましょう!」

 ななの言葉を受けて、日南子が音頭を取り各自の携帯で動画を探していく。

 無理だとは言っても、やはり面白いと思っていたのだ。心だけは最年少カルテットな日南子だった。


「あ! ありました! 確かにメトロノーム使ってます!!」

 二期生の城島沙耶きじまさやの声に反応して、全員が沙耶の携帯画面を確認する。

 そしてタイトルを確認すると、自分の携帯へと戻っていく。

「本当だ、完全に使ってますね」

「でも、美祢。コメント見てよ、結構叩かれてるよ?」

 そう、無音での歌唱を謳っているチャンネルでわずかでも音が鳴っていることを責め立てるコメントはある。だが、それだけで見事な歌唱を披露したボーカリストを褒め称えるコメントも確かにある。


「けどさ、リーダーが言ったのはダンスもでしょ? だったら難しさぐらいわかってもらえないかな?」

「まみの言うこともわかる。けど、手放しで褒める人ってどれくらいいるかな?」

 まみが乗り気になれば、智里が慎重論に転じる。

「でも、できたら面白いと思います」

 ななが智里に反論し始めると、一期・二期入り乱れての賛成反対の議論が広がっていく。

 だが、誰もできないとは言わなかった。

 そうなれば、美祢の心は決る。

 パンパンと手を鳴らし、みんなの議論を止めて自分に注目させる。

「できないことないなら、やって大人に決めてもらおう!」

「はい!」

 美祢の表情からは絶対の自信が見える。

 だから、メンバーは反論なく賛同するのだった。


 ◇ ◇ ◇ 


 かすみそう25が決意してから10日ほどたったある日、主が原稿を片手に事務所を訪れると、立木が苦笑いを浮かべて近寄ってくる。

「あ~! @滴先生。……やってくれましたね」

 一瞬何のことかわからなかった主に、立木は自分の携帯に入っていた動画を見せる。

 そこには安本たちの前で、無音の中踊っているかすみそう25の姿が映っていた。

「あー! 本当にやったんですね、あの娘たち」

「やってくれましたよ。聞きましたよ、先生が入れ知恵したって」

「いや、出来たら面白いんじゃないって程度で言っただけなんですけどね。まさか本当にやるとは……」

「しかも、自分の作詞の曲まで歌わせるとは。プロモーション上手いですね」

 ……何を言われた? 主の表情がそう言っていた。

 立木もあれ? 違うの? という表情に変わっていく。

 聞こえてはいたが、どうしても確認しなくてはと主は、震える唇で立木に問いかける。

「立木さん? ……『スタートライン』も歌うんですか? アカペラで?」

 力なく頷きながら、立木は何とか言葉を発する。

「……はい、匡成と……佐川が二人で」

「歌収録って……まだ、ですよね?」

「ええ、……大将も面白いから……やって見せろって」

 次第に青くなっていく立木の顔色。それを見た主は嫌な予感を感じて徐々に後退している。

「ちなみに……それの収録っていつですか?」

「今日……ですね」

 立木と主は、一緒になって走り出す。

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