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百三十四話

 夢乃が卒業発表をした直後から、ネットなどでは夢乃の話題が駆け巡っている。もちろん、テレビのワイドショーも翌日からその話題で持ちきりだ。自称事情通の芸能関係者から夢乃の今後について、あることないことが提供され、それをさも真実かの様に大々的に報じられている。

 そして、次の新曲でのフォーメーション予想なども、無責任に放送される。

 それとは関係もなく、事務所側もはなみずき25のメンバーに新曲の発表までのスケジュールが告げられる。

 次の新曲は、夏発売の曲となる。そして夢乃が参加する最後の曲だと、改めて事務所からメンバーに通達がされる。

 それを聞かされたメンバーたちは、耳を疑う。

 夢乃の卒業がではない、次回作に収録される曲の多さに耳を疑う。

 表題曲1に対して、カップリング曲8。合計9曲が次回のCDには収録される。

 ただ救いなのはすべてが新曲ではなく、先日行われたツアーで披露しているユニット曲が何曲か収録されるのを聞いたとき、何人かのメンバーは、ホッと胸をなでおろした。


「表題曲のフォーメーションは、冠番組で収録するから後日になる。それとカップリングの全体曲なんだが、これは今日発表するから、間違えるなよ」

 立木は気温の高くなってきた外に、一瞬目を移す。

 事の経緯は聞いた。正直前代未聞だとも思う。

 だが、自分が大将と仰ぐ男が決めたことだ。

「こっちのセンターは、……渋谷、園部のダブルセンターとする」

 花菜がセンターを外れる。その事実に、メンバーからはどよめきが止まらない。

 先日のツアー、最終日のダブルアンコールでの奇妙な評価の行き違いがあるににせよ、花菜がセンターから外れるのは、はなみずき25結成以来初めての出来事だ。

 しかも、グループ初となるダブルセンター。

 なにより、卒業する夢乃が初のセンターを任されることにも驚いている。


 スカウト組もそんなことが起きるとは夢にも思っていなかったという、意外を表現したらそうとしかならない表情をしている。

 そんな中、夢乃だけはさも当然という顔のままだ。

 それを見た園部レミは、夢乃に信じられないものを見たような目を向ける。

 レミにはわかった。

 なぜ、レミと夢乃のダブルセンターなのか。

 それは、夢乃が直談判したのだ。よりにもよって、自分たちの統括プロデューサーで、大作詞家の安本源次郎本人に。

 自分の卒業を引き合いにして。

 だが、わからないこともあった。

 何故、安本は夢乃の要件を飲んだのか?

 情報通を自称している夢乃だが、芸能界において安本ほどの情報を有しているとは思えない。

 それなのに、安本に要求を通すことのできるようなマネがどうしてできたのか?

 もしかして……。

 レミの頭に、最悪な条件が浮かんでくる。


 解散となり、夢乃がスカウト組に初センターを祝われているところを、鬼のような形相でレミがひったくる。

 そのまま、夢乃を連れて屋上へとレミは向かう。

「ちょっと、お園~! なになに!? 痛いってば!!」

 屋上に着くと、レミは夢乃を乱暴に突き放す。

「お園~! 危ないって」

「何を条件にしたの?」

「……なにが?」

「センターを取るために、何を条件にしたの!? 安本先生と何を約束したの!?」

 レミが吼えたことに、夢乃は驚きを隠せない。

 なぜ、あの約束を知っているのか? 自分の卒業までに安本に協力するという約束を。

 自分が唯一評価された、演技というものを後輩たちに伝えるという約束を。

 だとしたら、自信満々に『伝えたいことありますから』なんて、上から言ったことも知られているのだろうか?

 夢乃は、顔を紅くするほかなかった。冷静になったら羞恥心に襲われたあの言葉。

 何の実績もないアイドルが、演技を後輩に教えてやりますよ的に言い放った言葉。


 夢乃の顔が紅くなったのを見て、レミは勘違いを加速させる。

 羞恥で紅くなったことは、正確に読み取れてはいたが、その内容までは正確性は無かった。

「夢乃……そんなことまでして、一緒にセンターやっても、私はうれしくなんかない!!」

 レミの真剣な言葉に、夢乃は少しだけ違和感を覚える。

 演技に口を出すのが、『そんなこと』なんだろうか?

「あ、あのさ。……お園? 私が何したと思ったか聞いていい?」

「そんなこと、私に言わすの?」

「ん~? 言えないことなの?」

「言えないよ! だって――」


 ◇ ◇ ◇ 


「アハハハハハ!!! お園そんな想像してたんだ、なにそれ! 昭和のドラマじゃん!!」

「だって! ……しょうがないじゃん」

「お園、……エッチ」

「っ――!!!!!」

 レミは自分の顔を隠す様に、夢乃の胸に自分の顔を押し付けて夢乃の肩付近を自分の頭ごと殴り始める。

 自分が何を考えたのか、そこから忘却したかったのだろう。

「痛い痛い痛い! お園やめてって!」

「もう知らない!!」

 レミは紅い顔のまま、屋上から逃げ出す。

 夢乃は、そんなレミの背中に声をかける。

「お園。表題じゃなけど、……約束守ったよ」

「……うん」

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