百三十話
はなみずき25とかすみそう25の合同全国ツアー最終日。
ライブも終盤になり、かすみそう25のステージでは、二期生のお披露目も無事に済ますことができていた。多くのファンが新しいアイドルたちに目を奪われ、口伝えで新規のファンたちを呼んでくることだろう。
それほどにまぶしい、未来に希望をもたらす存在だと、ファンと共に一期生でさえ思うのだった。
そして美祢と一期生は、自分達の新しい仲間をもっと存分にファンに見てもらうために、ある画策をする。
言葉ではなく、美祢のMC中にアイコンタクトで。
それを受け取った美祢は、MCでファンを煽る。
「それじゃみんな!! 新しいかすみそう25を、もっと知りたいよね!??」
湧きあがるファンに足りないと、もっともっとと熱狂を求める。
それに応える様に、ファンは会場を揺らす程の声を上げる。
「じゃあ! 新曲いくよ! 『走らなきゃ見えない』!!」
美祢がセンターを務める、かすみそう25初の恋愛をテーマにした楽曲。
遠くで想ってるだけじゃ、大好きな人の大好きな表情は見えない。だから、いっぱい走って大好きな人に想いをぶつけて、もっといろんな表情が見たいと叫ぶ少女の歌。
内気な少女の心に秘めた想いが、爆発して暴走していく様を描いた楽曲。
軽快なメロディーと、暴走を止められない主人公の少女の心の移り変わりが描かれた歌詞は、かすみそう25のメンバーの歌声が乗ることで、必死さの中にコミカルさも見え、歌っているメンバーも聞いている観客も次第に笑顔になっていく。
そしてAメロ終わりで、美祢が突如スイッチを入れる。
何時かのアイドルカーニバルの時の様に、センターとして観客の視線を総取りしてしまう。
しかしそれは、会場の大きさもあり会場全体までは及ばない。
だが、雰囲気の変わった美祢を追うものがいた。
会場のモニターでメンバーを映すために設置されたカメラだ。
複数台置かれたカメラが、一斉に美祢を映そうとレンズを向ける。
しかし、そのレンズが美祢の方を向いたときには、もうそこに美祢の姿は無かった。
3列目を踊っているはずの二期生が、会場の大きなモニターに映しだされる。
ついさっき覚えたフリを間違わないようにと、先輩たちについて行かないとと必死になりながらも、笑顔を忘れてはいけないという美祢の言葉を思い出すたびに、二期生たちはぎこちない笑顔を客席に向けていた。
その表情が歌詞とマッチし、頑張って好きな人に何とか笑顔を向けようとする、健気な少女を演出していた。
そして、一期生達も美祢に続くように、自分がカメラに抜かれるタイミングで二期生を引き上げる。
フリ中のわずかな美祢の視線を感じとり、絶妙な位置をキープし続ける一期生。
そこまで来ると、ファンたちも異変に気が付く。
ステージ上での存在感は、先輩である美祢たち一期生のほうが格段に大きい。
しかしモニターに映るのは、二期生ばかり。
そんなことが可能なのかと、アリーナ席のファンは驚愕してしまう。
だが、それは現実に起こっている。
美祢とツアーを共にした、一期生の急成長ぶりにただただ舌を巻く。
そしてファンは、一期生の想いを受け取り大きな声で応える。
頑張れ二期生。一期生がすぐそばにいるぞと、一期生がすぐそばで君たちの頑張りを一番見てるんだから大丈夫だと。
そのファンの声を聴いて、涙ぐむ二期生達。
二期生たちは、オーディションに合格した時から不安があった。
賀來村美祢という存在、そしてつぼみと呼ばれた先輩たち。それが、かすみそう25の始り。
それを応援してきたファンに、自分達は受け入れてもらえるのだろうかと。
長く辛かった合宿を終えてもぬぐえない不安。
それが、ようやく晴れたのだ。泣きながら、震える声で歌い続ける二期生の10人。
すれ違いながら、先輩に大丈夫だよと触れられた手に声を詰まらせるメンバーもいる。
歌詞が終わり、曲も終わりが見えてくると泣き顔の二期生達と取り囲むように一期生が集まる。
ほら、あっちを見るんだよと指をさしながら、カメラに顔を向けさせる。
一緒に手を振るんだよと、最年少トリオも先輩らしさを見せる。
笑顔の一期生と囲まれた二期生は、まるで主人公の心の中を表現しているようにも見える。
泣き出してしまいそうになりながらも、必死に笑顔を見せるそんな一人の少女の様だった。
後日ミュージックビデオを任された監督は、大胆にもこのライブ映像をそのまま使い公開した。
監督は、音楽雑誌のインタビューでかすみそう25の一期生に対してこんな言葉を残す。
「正直、二期生からあれ以上の表情を引き出せる気がしなかった。あれこそが、たった今走り出すことを決めた少女の顔そのものだ。映像の作り手として、アレを引き出したかすみそう25の一期生に嫉妬してしまう」
そんな言葉を一期生への賞賛の言葉としていた。
「みんなーーー!!! 今日は本当に、ありがとう!!!」
美祢たちは客席に手を振りながら、ステージを降りていく。
二期生をファンが迎え入れた。そんな、かすみそう25の全国ツアーは終幕を迎える。
美祢は、急ぎはなみずき25のステージへと向かっていた。
もう間もなく、はなみずき25のツアーファイナルのダブルアンコール。
両グループに所属している美祢は、ツアーの終幕に参加しないとならない。
この全国ツアーで、最も過酷なタイムスケジュールをこなしたのは、間違いなく美祢だった。
……だが、ファンから最も注目を集めたのは、そんな美祢ではなかった。
それは残念なことに、はなみずき25のセンターとして君臨する花菜でもなかった。




