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百二十二話

 一会場二日公演のツアーを6箇所。賀來村美祢が出演する時間の調整が、急務のスタッフたち。

 かすみそう25のステージでは、時間が持たないと判断しかけたが7人のメンバーが直談判したこともあり、はなみずき25とかすみそう25のステージで、合計30分の休憩時間を確保することができた。

 果たしてそれが、美祢の負担をどの程度軽減できたのかは定かではない。

 しかし、最初の会場二日目はアンコール終了後も美祢は自分の足で控え室まで帰ってくることができた。

「美紅、智里、まみ、ヒナちゃん。佐奈ちゃん、有理香ちゃん、公ちゃん。本当にありがとう」

 控室に戻ると、美祢はかすみそう25のメンバーに頭を下げた。

 最初こそ、この人の負担を背負えたと喜んで見せたメンバーだったが、美祢がはなみずき25のメンバーには改めてお礼を口にすることがなかったのを見て、再び自分達の無力さに唇を噛みしめることになった。


 はなみずき25のメンバーに対してお礼を言わないのは、はなみずき25のメンバーならできて当然の変更なのだと、急な変更が負担になったのは自分達だけなのだと言われたも同然だった。

 信頼が違う。

 たった2年の年数でも、美祢ははなみずき25のメンバーを自分と対等か上に置いている。かすみそう25のメンバーはまだまだ頼りがいのない後輩だと無意識に認識されている。

 当然のことなのに、それがやはり悔しい。

 美祢にそんな態度をとらせてしまう自分達が、美祢を支えるところまで行けない実力が悔しい。

 美祢の抱える葛藤と同じ葛藤を胸にする、かすみそう25のメンバーはやはりどこか似ているのかもしれない。

 将来において美祢の慰めとなれるのは、もしかしたらかすみそう25のメンバーなのかもしれない。

 だが、現時点において支えられているのはメンバーの方だと認めるしかなかった。


 美祢を除くかすみそう25のメンバーは、ツアーの間や学校、取材などのあらゆる仕事の間を縫って、これまでの公演とツアーの反省会を行うことにした。

 どんな些細なことでも話合い、フォーメーションの確認だけではなく、メイクに慣れるため自分達で肌が荒れるまで修正し、立木に怒られることもあった。怒られるならと、大人たちを巻き込んで自分達のレベルアップに大幅な時間を割いていく。

 そうした悔しさが原動力の行為であっても、自力を蓄えるには必要なこともある。

 少しでも早く、美祢が頼るようなアイドルとなるべく取材などの仕事の合間に秘密の特訓をしていくのだった。


 美祢は美祢ではなみずき25の上位メンバーに追い付くために研鑽を怠らない。

 学校の合間を縫ってダンスや歌唱のレッスンをぎゅうぎゅうに詰め込んでいる。

 最初はスタッフに止められることもあったが、止められたら止められたで一人で走りに出てしまうこともあるため、何時しか監視下のレッスンの方が安全だと止められなくなる。


 美祢はかすみそう25のメンバーが努力しているのを知っていた。何が原動力なのかは知らないが、彼女たちの行動が嬉しく自分も頑張らねばと動いていた。


 ◇ ◇ ◇


 美祢たちかすみそう25の一期生が、自分のレベルアップに励んでいる頃。二期生にも火が着いていた。

 終わったばかりの全国ツアー初日と二日目の映像をみせられためだ。

 圧巻のパフォーマンスを魅せるセンターの美祢と、それに喰らいつきながらも笑顔を絶やさない美紅たち一期生。

 自分達にもそれを求められているのだと、二期生達は今まで以上にレッスンに励んでいる。

 しかし、基礎が固まっていない二期生達は意気込みとは裏腹に上手く行かいレッスンに焦っていた。

 

 深夜レッスン場の明かりを見つけた主は、懐かしい想いをしながらレッスン場を覗く。

 そこにいたのは二期生最年長の野崎英美里(のざきえみり)だった。彼女は必死の形相で基本のステップを踏み続けている。

 主は去年見た美祢を思い出す。あの頃の彼女が主の中のイメージの中心にいる。

 ついつい、お節介なのは理解しながらも英美里に声をかけずにはいられなかった。

「え? まだやってるの?」

 あの時の美祢と同じ言葉を英美里にかける。

「@滴先生。……お酒ですか?」

「ううん、こっち」

 主はあの時と同じように、口に2本の指をそわせる。

「本当にお好きなんですね、おタバコ」

「ップ!」

「なにか!?」

 どこかで聞いたような言葉に、思わず吹き出してしまう主を恵美里は睨む。

 主は慌てて手を振り、そうではないと言い訳をはじめる。

「いや、違うんだよ! 前に……美祢ちゃんにも同じこと言われてね」

「賀來村先輩ですか?」

「うん、そうそう。恵美里さんが美祢ちゃんみたいなことして、言うことまで同じなんだって思ったら、ついね」

「賀來村先輩……みたいなこと? って、先生。また名前で呼ぶ」

 何のことかと恵美里が首をかしげる。首をかしげながらも慣れない名前呼びの違和感だけは見逃さない。

「名前は、かすみそう25のメンバーはそう呼ぶことになっちゃったから諦めて。……話しを戻すとね、夜中にダンスしてたよ、美祢ちゃんも」

「っ賀來村先輩もですか!?」

 主は首肯して、言葉を繋げる。

「前の合宿でね。難しそうな顔して踊ってたよ。……君みたいにね」

 


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