百二十一話
はなみずき25とかすみそう25の合同全国ツアーの初日は、なんとか成功と言っていい成果を残していた。ファンは大いに盛り上がり、はなみずき25とかすみそう25の両ステージは、終始歓声が鳴り止むことがなかった。
しかしながら、問題が無いわけでもなかった。
「賀來村! 大丈夫か!?」
「はぁ……はぁ……大、丈夫で、す。ふっっ、……はぁはぁ」
「わかった、もう喋らなくって良いぞ。よくやった!」
二つのステージを行き来していた美祢の負担の度合いまで正確には測り切れていなかったのだ。
もちろん、事前に考慮はしていたがスタッフも前例のない演出に見誤り、美祢への負担は予想よりも大きいものとなってしまっていた。
ただパフォーマンスをしているだけではなく、かすみそう25では会場のアオリやMCなどリーダーとしての責務もある。
それでもアイドルとして、ステージ上では見事にパフォーマンスをやりきった美祢にスタッフからも惜しみない称賛が浴びせられている。
ステージを降りた途端に、倒れこみ救護室へと運ばれる事態にはなったが疲労以外の懸念はなさそうだったのが幸いだ。
「……っ!」
そんな美祢の姿を見て、涙をためながら控え室へと走りこんでいく姿が一つ。
美紅だ。
「……美紅さん、美祢さんは?」
佐奈が様子のおかしい美紅を心配している。様子を見てくると衣装のまま運ばれる美祢の後を追った美紅が、一人で帰ってきたことも心配している。
「大丈夫みたい。……でも、悔しいね。佐奈」
「……美紅さん」
「私たちは、あの人に、何が……できるんだろう」
美紅は膝から崩れ落ちて、声を抑えることもできずに泣き出してしまう。
それを佐奈が、小さい体をいっぱいに使って覆い隠そうとしている。
いつもとは逆になったその関係も、どこか姉妹を思わせる一面だった。
そして、それを見ている他のメンバーも想いは同じだった。
一番の先輩で、リーダーで、美祢が居なければ自分達はアイドルになることさえなかった。
目標は違っても、美祢という先輩アイドルの存在がなければこのグループを語ることができない。
だからと言って、美祢一人に負担を強いていいはずがなかった。
美祢は常々言っていた。
自分達は仲間なんだと。
新しく入ってくる二期生も仲間だと、ツアーファイナルで盛り上がった中で迎え入れるのだと意気込んでいた。
なのに、自分達はあの人の、リーダーの負担になっている。
それを美祢は認めてすらくれない。
なにも叱責が欲しいわけではない。
ただ、仲間であるなら頼ってほしい。
それすら叶わないほど、自分達の力量が劣っているのだ。
あのリーダーの横に胸を張って立っていられるという、実感が欲しいのだ。
「次、頑張って……声出す」
有理香がポツリとつぶやく。それでもいつもの有理香からすれば、それなりに大きな声だ。
「そうだね。……もっとできるんだって、リーダーにもスタッフさんにもわかってもらえるようなパフォーマンスをしよう!」
まみが有理香に同調して声を上げる。
すると、自然にメンバーは輪になり今日のステージの反省会をはじめる。
あの歌の時のダンスはもっと大きく、MC中の時間の使い方など反省点は挙げれば枚挙にいとまがない。
「けど、みんな頑張ろう! この全国ツアーで成長して美祢の負担を少しでも私たちで背負えるように!!」
「はい!」
美紅の言葉にメンバー全員が強くうなずく。
メンバーの一つになり燃えていた。
リーダーの負担を目にした仲間たちは、ただ嘆くのではなく少しでも前に進む決心をしたのだ。
かすみそう25の一期生。
彼女たちをファンはのちにこう語り継ぐ。
『要の一期生』と。
華やかなアイドル業界において、目立たず、後輩にスポットライトが向いたとしても、トラブルでグループが揺らぎそうになった時でも彼女達だけは、揺るがずただ真っ直ぐにグループを支え続ける。
その姿は、美祢と共に『エンドマークの外側』を走り続けることを望んだ結果だ。
たった一輪の花を飾るカスミソウのように、彼女たちはその献身を体現して見せる。
それこそが自分達の晴れ舞台なのだと、彼女たちは言う。
彼女達かすみそう25の一期生のありようが、こうして決まった。
美紅がメンバーを見渡して吠える。
「みんなでリーダーを支えて、ファイナルまで頑張るからね!」
「はい!」
佐奈が力強い視線で、美紅を見据えてる。
「美紅さん、誓の円陣しましょう!」
「うん! いくよ!」
「はい!」
「せーの!! 純真! 幸運! 感謝! みんなに届け笑顔の花束! かすみそう25!! 満開!!! に~~!」
アイドルらしくないアイドル。だが、輝きを失うことのないカスミソウが今ようやく咲き始めるのだった。




