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百十七話

「ちょっと先生! そんなこと私たちがやります!」

「いやいや、君たちはこれからダンスレッスンでしょ? 頑張ってね、こっちもしっかりお昼作っておくから! ね! 広田くん!」

「はい!」

 去年の夏、まだつぼみだった頃のかすみそう25のメンバーと合宿していた場所に主は再び来ていた。参加しているメンバーに、見知った顔はない。

 初顔合わせではないが、会うのはオーディション以来。話すのは初めてのアイドルばかりだ。


 ここに集められたのは、かすみそう25の二期生オーディションに合格した10人の新人アイドルたち。下は13歳の中学一年生から上は二十歳と、幅広い年齢の少女たちだ。

 もうすぐ桜の咲く季節となる、なんとも過ごしやすくなった季節だ。しかし、合宿場は前回の夏を思い出させるかのような熱気が、朝から晩まで続いている。

 今、花菜たちはなみずき25はシングル発売に合わせた全国ツアーの真最中だ。もちろん、この合宿場にいるメンバーの先輩に当たる、かすみそう25の一期生たちもデビューアルバムのツアーで全国を廻っている。


 二つのグループを兼任している美祢がいるため、同じ会場を二つに分けて廻っている。同じ会場なので、移動の負担は一回ですむ。

 ただし、歌もダンスも違う二つのグループにフル出場する負担は、図り知ることはできない。

 主に出来ることは、彼女たちのもとへ新しい仲間を送り届けるお手伝いをすることだと、意気込んでいる。……本当に主がしなければいけないのは、新しいメンバーをよく観察して、特典小説へと繋げることなのだが。

 二か月後に、彼女たち二期生は先輩たちと合流し、お披露目と初披露の二期生楽曲を披露しないといけない。今はそのためにその存在をできるだけ隠しながら急ピッチで、新しいアイドルを急造してる。


 ◇ ◇ ◇ 


「よーし! これがステップの基本だから忘れるなよ」

「本多さん、お昼できましたよ」

「よし、じゃあ飯にするか。お前たち! しっかり食べろ! 苦しくっても今はしっかり食べないとお前らぐらいの体重は簡単に落ちちまうからな! 今は食べるのも仕事だ!」

「……はい」

 本多の言葉に二期生たちは力なく答える。

 元々線の細い印象の二期生たちは、この合宿中体重の維持に苦労している者が多い。

 食卓に着いた二期生たちの箸はなかなか動くことがない。

 無理に動かした身体が、食物を受け入れることができないのだ。

「本多さん、どうしましょうか?」

「あー、塩分強すぎだな。俺高血圧指摘されてるから、もうちょっと薄味で頼む」

「いえ、あの娘たちのことなんですけど」

 本多は箸を動かしながら、言葉を吐き捨てる。

「食べないなら、全部ミキサーにかけて飲ませればいい」

 そう言って、おもむろに立ち上がると調理場からミキサーを持ってきて一人分の食材をぶち込み始動させる。

「ほら、これならイケるだろう?」

 不敵な笑みを浮かべた本多に恐怖を感じた二期生達は、無理やり手を動かして目の前の料理を口に放り込んでいく。

 それはもう食事とは呼べない光景だった。


「本多さん、それ本多さんの夕食にしますね」

「お、おい! そりゃないだろう!」

「食べ物は無駄にしてはいけませんから」

 追いすがる本多に無情な宣告をして、主は調理場に戻りコーヒー色の液体の入ったコップを二期生達の前に置いていく。

「無理そうだったら残していいからね。これは結構カロリーとれるから、無理そうならこっちだけでも飲んでみて」

 主が持ってきたのは、栄養補助食品だ。通常の飲料に比べて高カロリーで栄養価も高い。

 ただ一つ難を上げるとするならば、フレーバーでも隠し切れない薬品臭さ。

 これが登場したころに比べれば、格段に味は向上してはいるのだがどうしても薬品臭さは完全には消えてくれないらしい。


 固形物が摂れないくらいに疲弊した時のことを考え、一応用意はしてみたもののやはり評判はよくはない。それでもアイドルになるんだと受けつかない固形物を薬品臭のする飲み物で流し込んでいる。

 二期生の目から生気が失われていくのが、主でも分かった。

 だが、どうすることもできない。夢に向かって歩み始めた彼女達への最初の試練なのだから。

 頑張れと心の中でエールを送りながら、主は本多の作った奇天烈汁を胃の中に流し込むのだった。


 ◇ ◇ ◇


 一方かすみそう25の一期生メンバーは、ライブの前日に大広間に集められていた。

 急きょ呼び出された、大広間には数台のカメラが設置され塾のように並べられた長テーブルが見える。

 何が起きるのかと、美祢と智里を除くメンバーは戦々恐々としている。

「お! 来たな。ほらさっさと座る。収録始めるぞ!」

「あ、あの……山賀さん? なんでここにいらっしゃるんですか? それに収録って?」

 美紅が代表として山賀に疑問をぶつける。

 そんな美紅の肩を叩きながら、さも当然のように山賀は答える。

「俺らがいるのは、ライブ見にきたから。収録は当然『かすみそうの花束を』の出張収録だ!! 坂本さん、タイトルコール!!」

「目指せ表現力向上!! かすみそう25、演技力チェ~~ック!!!!」

「わ~~~!!!」

 事前に知っていた美祢と智里は、いつも通りの賑やかしをしていた。

 そんな2人を他のメンバーは、憎らしそうな顔で睨むしかできなかった。

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