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百話

「おはようございます……はぁ」

 美祢はかすみそう25の楽屋に入ってくるなり、大きなため息をこぼす。

 メイクも衣装の確認もせずに、来るなり机に顔を伏せる。

 そうかと思えば、勢いよく顔を上げ周囲を見ている。

 元気よく走り回る最年少トリオをみつけると、公佳を呼び自分の膝に座るように促す。

 チョコンと座った公佳を後から抱きしめて、公佳の長い髪に顔をうずめて深呼吸をはじめる。

 はたから見れば、言い訳のしようもなく奇行だ。

「パイセン、だいぶ疲れてますね」

「そうなんだぁ~! もう向こうの空気最悪だよぉ~!!」

 公佳の頭に顎を乗せながら、美紅と会話を始める美祢。公佳はそれが嫌なのか必死に頭を動かし美祢の顎をどかそうとする。そうはいかないと、美祢は公佳の体を強めに抱きしめる。

 脇に回った美祢の手に驚いたのか、公佳は身をよじって逃げ出してしまった。

「あ~、逃げられちゃった。……佐奈ちゃん、こっち来ない?」

 公佳が美祢に呼ばれたのを見計らって美紅の膝に無断で乗っていた佐奈に、自分の膝を叩いてアピールし始める。誰でもいいのかと、公佳がむくれている。

 佐奈は美紅にしがみついて美祢の提案を断る。そんな佐奈を美紅は撫でながら美祢の消耗具合を改めて確認する。


「向こう……はなみずき25さん、大変みたいですね」

 美紅は噂に聞き及んでいた話題を憔悴して机に突っ伏している美祢にふる。

「うん、……美紅さんも聞いたんだ。お園さんも知らん顔だし、本当に初期の空気感に戻っちゃったみたい」

「ええ~! お園先輩、そんなに怒ってるんですか? 想像できない!」

 美紅にとって園部レミという人物は、つぼみ時代の自分達に良くしてくれたイメージしかない。

 特に最年少トリオはことあるごとに慰めてもらったり、一緒になって遊んでもらっていた。

 そんな風景を見ていた美紅の中では、初代お母さんであり、初代お姉ちゃん的位置付けだった。

 そんな園部レミが、もめごとを放置するなんて意外以外の何物でもない。

「いやいや、本当! 一年目なんて1:5:11の別グループみたいだったんだから!」

 1という最小単位は、もちろん花菜が担当していた。

 一人のわがままで始まったグループのわだかまりは、最近まで鳴りを潜めていたが、初期は誰も隠そうとすらしない。まさに険悪を絵に描いたような舞台裏であった。

 そんな中レミが頭角を現したことで、スカウト組とオーディション組の中継役となりグループの亀裂を一人で繋いでいたのだった。


 美祢もアイドルという夢に向かってオーディションを受けたのだから、もちろんスカウト組の役者への夢は少しだけ理解できる。だが、アイドルを仕方なくやっていると言われてしまうとまるで自分の夢を否定されたようで。わかるとわからないが混在してしまい、美祢の胸の内はモヤモヤと曇り模様だ。

「だから、お願い! 公ちゃんでも有里香ちゃんでもいいからこっち来てぇ~!」

 美祢の叫びに危機感を感じた最年少トリオは、楽屋のすみに逃げてしまう。

「じゃあ、ヒナちゃ~ん! ここ来てぇ~!」

「わ~い、美祢さんのお膝~」

 日南子は久しぶりに美祢に甘えられると大喜びで美祢の膝にちょこんと座る。対する美祢は今度は逃げられないようにと足を絡めてから、日南子の背中まで垂れた髪の毛を自分の顔面に押し付け左右に顔を振る。

「あははは! ち、ちょっと美祢さん、く、くすぐったい! あ、ダメですってば! い、息! ふ、吹き掛けないで!!」

 身をよじることさえ封じられた日南子は、顔を紅くしながら美祢に止めるよう懇願している。


「みんな今日も元気だ……ご、ごめん!!」

 楽屋に挨拶にきた主は、美祢と日南子を認識するとその場で半回転して目を閉じる。

 主のノックに反応してドアを開けていた智里は、主の視線をなぞると、自分はなんてタイミングで扉を開けたのかと赤面しながら俯いてしまう。

「先生、ごめんなさい。あんなことになっているとは……」

「ん!? なんのこと? 僕は何もみていないから!」

 逃げられないながらに、なんとかしようと日南子が暴れた結果、日南子のシャツの裾が美祢の腕で捲られ腹部が丸出しになっている。


「ふぇ~ん! 美祢さんのバカぁ~!!」

 解放された日南子は、美紅の胸の中で美祢を非難しながら泣き出してしまう。

「もぉ~!!! パイセン! 癒されたいのはわかりますけど、少しは加減はしてくれないと!」

 美紅は日南子を慰めながら、美祢を叱責する。

「……ごめんなさい。ヒナちゃんもごめんね」

 素直に謝る美祢。美紅は美祢が必要以上に落ち込んでいるように見えた。

 美紅は主に強い視線を向けて、美祢を指し顎を上に向ける。

 美祢を屋上に連れていけ、どうせこれからいくんだろ? と無言で言ってくる。

 参ったと思いながらも、この状況を無視はできない。

「美祢さん、話聞くから一緒に行こうか?」

「……はい」

 今にも泣きそうな美祢を連れて、主は屋上へと向かう。

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