終末勇者の決断
王宮から少し離れた場所に『静寂の湖』と呼ばれる場所がある。古来より王族関係者のみが入ることを許された由緒ある場所だ。
湖畔に座り水面に映る2つの月を見て、ここはやはり異世界なのだと再認識する。
「どうした?気分でも悪くなったのか?」
声に反応して後ろを振り向くと、そこには全身鉄の防具を身につけた人物が立っていた。
「騎士団長・・・」
すると、彼女は兜を外しながら、
「大丈夫、私1人だ」
端正な顔に亜麻色の長い髪。普段でも綺麗なのだが、月光に照らされてより神秘的に見えてしまう。
「ジェードか」
「そこは、『た、助けてください。命だけはご勘弁を~』じゃないの?」
クスクスと笑いながら、隣に腰をおろす。
「あれからもう5年が経ったのか・・・」
「あの日も、こんな夜だったね・・・」
「「・・・・・・」」
俺は元々この世界の人間ではない。もとの世界に未練があり、自縛霊と成りかけていたところ、神様(?)に異世界転生の機会を与えられた。
しかも転生先の世界を救った暁には、1つ願い事を叶えてくれるという。
もとの世界で人間として再び生きることも可能だ。
だからこそ、俺はこの5年間必死で生きてきた。転生先がこの湖の上空で勢いよくダイブした俺をジェードが悪人と勘違いして、首もとに剣を突きつけられたことも良い思い出だ。
そして、仲間達と共に魔王の討伐に成功して世界は無事に平和になった。
そして俺の望みも果たされる。本来であれば浮かれて今日の祝賀会でドンチャン騒ぎをするはすが・・・・・・
俺は悩んでいた。
この世界が好きになのだ。
平和になるまでは、そんなこと考えたことがなかった。
しかし・・・
美味しい料理を食べた。美しい景色を見た。魔法を使えた。友人もたくさんできた。
ここでの出来事を忘れることはできない。
「悩んでいるの?」
「・・・・・・」
答えられない。いや、答えたくない。
「ごめんなさい。分かってて聞いた」
「ジェードは悪くないよ」
「「・・・・・・」」
ふたたび沈黙が訪れる。
『ガシッ』
「あ、あのね」
突然、ジェードが俺の両腕を掴んだ。
「私は貴方とこれからも一緒にいたい」
「!?」
「今の言葉は、この国の騎士団長としての言葉でもなければ、第三王女としての言葉でもない。私の気持ち。だから、貴方の本心を聞かせて」
普段はあまり感情を表に出さない彼女が顔を真っ赤にしている。さらに瞳に涙まで溜めている。
俺は何を悩んでいるんだ。辛いのは俺だけじゃない。目の前の女の子を泣かせておいて何が勇者だ。
「・・・・・・決めたよ」
彼女の両肩に優しく手をおいて告げる。
「俺は・・・・・・」




