決意の光 【月夜譚No.104】
「今更、配役についてどうこう言っても始まらない」
俄に騒がしくなる教室に響いたのは、そんな声だった。決して怒鳴ってはいないし、普段の声よりは少し大きいかなという程度のものだった。だが、彼の声はよく通って皆の耳に届き、全員が一瞬にして静まり返った。
文句を言っていた者も、我関せずといった様子で窓際に逃げていた者も、その場の目は全て彼に注がれた。
彼はそれに怯えも緊張もせず、黒板の前から教室の中央に進み出る。そこに呆然と座り込む女子生徒の傍らに立ち、皆の顔を見渡した。
文化祭までは、もう残り少ない。練習の時間も限られるだろう。くじ引きで決まった姫役の彼女の演技は、練習開始当初からあまり上達せず、小学生の方がまだマシな演技をするだろうというほど酷いものだった。これから客に見せられる程度になるのかどうか、正直なところ難しいといえる。
だが先に彼が言ったように、今から配役を替えたところで良い劇になるとは思えない。ならば、彼女が目一杯努力をするしか方法がないのだ。
彼は問うように、彼女を見下ろした。最初は戸惑うような不安げな表情をしていた彼女だが、数秒もすると決意したようにじっと彼の目を見つめ返した。
その双眼には、燃えるような強い光が宿っていた。