セガ・悪魔シリーズの第二次世界大戦を扱った大きな戦略ゲームの、あの新兵器開発時のBGMが頭の中に流れています。
先程の細菌叢への突入間近から時間は少しだけ遡る…
腸炎ビブリオへと異世界転生を果たした俺と増えた仲間達との間で、以前の『オーガの免疫細胞』との交戦経験から、とある問題について、その解決手段を求める会議が、脳内で以前に開催されていた。『以前に開催』とは言ったが、スキル【タンパク質の記憶】での、意識内でのやり取りである為に、それは極鞭毛での長距離直進移動の合間に移動を続けながら開催された、実際には極々短時間の会議である。
その議題はズバリ…
小さくなった今のこの俺の身体には、まるで水飴の様に粘度が高くなって纏わり付く液体問題。これに因り、五号戦車、パンターからの砲撃は、忽ちの内にその砲撃の直進性の運動力を減衰させ、腔線の描いた砲弾の回転運動の方はその軌道を暴走させてしまい、全く狙いが定まらず、極々近距離にまで肉薄してからの攻撃でないと、敵を仕留める事が出来なかった事、その問題についての意見・対策・改善の為の、これはそんな会議である。
本来であれば、戦車はその砲撃によって、直進する軌道を描くが故に、付属の計器類を用いて標的に対して狙いを付けて、相手が遠距離での反撃手段を持ち合わせていない場合は、一方的な攻撃が可能である。それが、あの戦いでは、砲撃の軌道が暴走して、ごく短い距離でしか直進運動は維持出来ずに、グルグルとライフリングの回転を受けながらてんでバラバラな方向へと四散して行った。装甲兵力のアドバンテージの一つの要素、アウトレンジ作戦を活かせなかったのである。
これは問題であったし、本来、当初に予測・嘱望されていた戦車の戦いとは違っており、戦車を用いた意味が薄れるし、当然、優位性もぐっと低くなってしまう。せめて、計器類を用いて導き出した命中までの道筋を無難にこなせる様な直進性を維持できる攻撃方法が欲しい所である。特に差し迫った事態で無ければ問題を後回しにする事も可能では有ったが、現在は細菌叢へと突入間近であって、どうにも交戦は不回避であるのだから問題解決を優先すべき懸案となっている。これは中々に解決案が出ない可能性が有るぞ…と、眉間に皺で考えこもうとしていた所…あっさりと解決案を提案してきたのは、以前の惑星に居た頃にその魂を救出して吸収し、今現在は俺の脳内領域に存在している三人衆である。
即ち…
フェルディナント・ディ・ザイモス三世、ザイグーヌ・ファテマハト、カウス・フォン・ゲルファウスト、この三名の『旧・惑星アルヴィス組三人衆』史実の戦国時代の武将とかにも美濃三人衆だとか呼ばれていた三名組、そんなん居た気がします。トリオにすると覚えやすいよねww
「其方のその、無尽蔵な魔力を活かせば…」
「魔力を練った塊のままで砲弾にすれば良かろう」
「魔力の扱い指南ならば、このワシがおる」
まるで小学生の卒業式ん時みたいに、セリフを分割して云うその変な癖、何とかならないのかww
「これより、『魔力錬成』の講義を行うっ!魔力の錬成とは即ち、①・己の周囲に存在しておる『魔力を呼び込み』、②・それを意志とイメージの力に依って『望みの形態』にしてから、③・更にそれを『望みの結果』へと結びつけて魔法にする、その様な魔法の一連の流れの中で言えば、①『魔力呼び込み』→②『望みの形態』→③・『望みの結果』の大まかに大分する三段階の内の第二段階に該当する。また、第一段階である『魔力呼び込み』に関して言えば、我々は無尽蔵に汲み出す事が可能である夢の様な水瓶、即ち、ウィリアム・ウォーディセンと言う宿主にぶら下がって、寄生した様な状態である為に、此処から有難く好きなだけの魔力を汲み出せば問題が無い。既に分隊諸氏等は彼から魔力を汲み出す事に難無く成功しており、その魔力で以って肉体の筋力などを強化してあの岩石野球ボールの魔球投擲に用いている事から判断するに、無意識に、私からこうして正式に講義を受ける以前から魔法の使用に関して、ある程度こなせている…こなせてしまっているのである。この様な状態に対して少しばかり反駁させて頂きたいのだが…私等の観点からしたらば、これは非常に危うい状態で有る為、かねがね諸氏等に対しては、私はこの様な講義の機会を持ちたいを思っていた次第である。基本を知らずして場当たり的な矯めつ眇めつの繰り返しは、既に判明している魔法学の事象、出来る事・出来ない事を理解せずに、その様な魔法学の再現を行っている行為に等しく、過去の幾人もの先人たちが果てない試行錯誤の繰り返しを行って艱難辛苦の時間を重ねてきた、それ等の声を聴かずにして、全く同じ試行錯誤と過誤を繰り返して居る事に等しく、私等は何の為の先達の叡智の結晶であるのか、と。フィードバックの恩恵を得る事を全く成さずして何が文明的であるのか、と。こう思う次第であるからして…」
おぉ…流石は元フェルディナンド王国の宮廷魔術師だったカウス・フォン・ゲルファウスト。マシンガンの様に講義を始めている。きっと今までこんな感じで俺達の拙い魔法について見ていて、もう何か突っ込みどころが一杯で、基本から叩き込みたくてうずうずして仕方が無かったのであろうなぁ、この勢いは。ゲートから飛び出した逃げ馬のペースで喋りのサイレンススズカ状態になっているし…あまり他馬を突き放さないでね、ハンデハンデ。
「良いかお主等、ワシは銃器やら砲弾と言うモノを今までこの戦車と言うモノから見て来て短いが濃密なる考察と研究を重ねてきたのじゃが、そもそも銃器と言うモノは、火薬を爆ぜさせて、その火薬と言う個体の状態から一気に気体の状態ににまで体積を広める、その広まった体積の元々個体だったモノが気体に広まろうとする力で以って、金属の弾丸を押し退ける力を活かして推進力を得て発射させるのじゃ、具体的には、この戦車に付いておる機銃の弾丸一個の火薬は、爆ぜると大体…お主等の社会にあって親しみのある、理解しやすい表現で例えたなら、最近はワシも良く駐屯地にてご相伴に与るのじゃが、1、5リットル大のペットボトル飲料の体積にまで広まろうとするのじゃ。どうじゃ、判り易いか?…更にこの、螺旋の溝じゃな、これは『腔線』またの名を『ライフリング』と呼ぶ弾丸に回転運動を与えておる仕組みじゃ。何の為なのか、お主等が投擲する、あの岩石野球ボールと一緒じゃ、たまにスライダー投げて失投してジャイロ回転になるじゃろ?この弾丸・砲弾の回転も、これはジャイロ回転であり、弾丸の直進運動を高めてそれを安定させる効果が有るのじゃ。ワシはかの初戦闘、即ち、『対オーガの免疫細胞戦』の時の失敗、これを小さい世界特有の液体の極めて高い粘度に対する認識の欠如故だと思っておる。で、あるからして、これに対する対応策として、幾つか考えた。魔力を光に変換して、お主等の世界の、そう、レーザー兵器みたいにすれば良いでは無いのか?いや、これは駄目だ。液体の中では光はしばしば屈折したりしてしまうしのぅ。そこで、砲弾自身が発射させられた推進力に加えて、自身で推進力を出し続ける、いわばお主等の世界の中での、ロケットの様な性質を与えればどうか…と、この様に考えておる次第じゃ。推進力だけでは駄目で、矢張り、回転運動、そちらも維持させながらが理想じゃな、そうして、魔力で編み出した物質特有の…ゲルファウストの講義にもあった、『③・更にそれを『望みの結果』へと結びつけて魔法にする』を活かせば、これはホーミング弾的な性質を持たせて、ある程度、発射後に操作が可能になるのであり、これは戦車戦術やお主等の投擲戦術の、この極小世界での粘度による攻撃兵器の直進性困難の問題に対して、一つの回答となるじゃろう。」
ドワーフのおっさん…いや、元ドワーフの王国の国王だったか。
ザイグーヌ・ファテマハト。
何時の間にか、脳内に存在しているドイツ装甲部隊の駐屯地に連日、足繁く通い詰めて、兵器に関しての講義を行えるまでになっている。更に高い粘度のこの小さな世界独特な問題であった初戦闘での失敗に対する回答まで見い出していた。
「我が王国の宮廷魔術師であったゲルファウストには及ばぬが、我も魔術に関しては様々な見聞があってな、我が他民族と謁見したおりに彼等から魔術に関する所見を見聞したり、実際に実演して貰った事が、我がたいく…ごほん、王の責でいた間の、その…少なからぬ慰めになっていたのだ。故に、ゲルファウストとはまた違った観点からの、この我の講義が其方らの魔術に対する回答の何等かの一助となる事を祈ろう。さて、そんな我が見聞した事を照らし合わせて見るに、魔法とは矢張りイメージが重要で、そのイメージに、より具体性を伴う知識が根幹に根付いている場合に於いては、その魔法の発動時に、威力・効果・結果などが…恐らくはこれは足し算ではなく、掛け算的に目まぐるしくその成果を結実させる効果がある様に思う、其方らの元々存在していたあの世界は…その意味でその様な根幹の知識が…『カガク』などと言う学問や、それを可視化し易くする為の、映像文化の発展もあり、イメージとして取り込み易く、潤沢にその滋養豊かな土壌を既に持ち合わせており、故に其方らは自然とその恵みを吸収して育ち、既にそのイメージの苗は力強く地に根を張り巡らせておる。一から開墾して森を切り開き、木の切り株を処分し、石を篩い分けて新しく田畑を作る必要が無い。この事は其方らの大いなる利点である。その豊かなる実りを約束されている魔術畑に、さて、それでは我々の世界の魔術の知識が加われば…その結果は自ずと見えて来るであろう、かく云うこの我も、其方らの世界の学問を少しばかり齧っただけで、魔法を試した際に、劇的なる進化を見出したのであり、それについて、我は新しい発見をした思いがあり、今、非常に関心を深めている次第であるのだ。」
今まで控えめであった、フェルディナント・ディ・ザイモス三世。国王と言う仕事が…退屈だったのだろうなぁ。本音がついつい出かかっていた。咳で誤魔化していたけれども。彼もまた、何だか話し始める。魔法にはその根幹の具体的な知識がイメージをより高める傾向を、様々な民族の魔法を見聞して肌で感じていたのだと云う…
スキル【蛋白質の記憶】でのやり取りは、実際には一瞬なのであるが、こういう風に、実に短い短時間でこの様な濃密な出来事が起こっており、それは俺を介した奴の最近思っている思考と、何だか重ねて思ってしまう。いま奴は、彼等三人の講義を聴きながら、こんな事を漠然と考えていて、その思考の流れが俺にも流入してきている。
『この高度なる情報の共有化の秘密は、果たしてスキル、【蛋白質の記憶】だけの効果であるのだろうかなぁ?』
『異世界転生して、小さな微生物になって、それで時間の流れ方が、濃密になったのではないだろうかなぁ?』
『きっと大きな物体は、小さな物体から眺めたら、スローモーションに見えてしまう。』
『科学を扱ったサイトにて、ネズミや蠅だとか、小さな生き物からは、人間の動きはまるでスローモーションみたいにして見えているらしい。』
『神経細胞を伝う距離の短さなのか、或いは電流の送り出す信号の速さが、そうさせているのだろうかなぁ?』
『まるで、それぞれ、過ごしている時間自体が違うみたいに。』
『例えば人間が1秒間に50枚のフィルムの連続を認識して見ている、例えばそんな世界で生きているとしたら…』
『鼠にはその倍の、つまり1秒間に100枚のフィルムの連続を同じ時間の間に認識出来て見ている、そんな世界で生きているのかも知れなくて。』
『もしも全く同じ時間の流れの中でそれを見ているのだとしたらば…』
『きっと人間の50枚の認識の世界は鼠には2倍の100枚の認識の世界なのだから、2分の1の速度に、鼠には人間の動きがスローに見えていて…』
『つまりは鼠の認識する世界は人間の速さの世界の2倍の速度で認識出来ているのかも知れなくて…』
『蠅が300枚の認識の世界なのだとしたらば、それはきっと人間の認識の速度の6倍で、蠅には人間の動きは6分の1の超スローモーションな世界に見えているのだとしたら…』
『逆に、大きく考えて見ようか…』
『実際には秒速数千キロの速度で動く惑星同士の衝突だとかを、別の場所から人間がもしも眺めていたとしたらば、それは実にゆっくりとぶつかって行く様に見えるに違いない。』
『人間がそんな恒星系を遠くから観察できたなら、実際は秒速数千キロメートルで恒星の周囲を周回している、そんな惑星達は、まるで止まって仕舞っているみたいにして見えているに違い無いのじゃないかなぁ?』
『またまた、今度は逆に、極小の世界に視線を巡らせて見ようか。』
『一つの恒星系に集まって回転している惑星達は、まるで、一個の原子の周りを回っている電子みたいに見える。』
『原子と電子の、まるで恒星と惑星の関係みたいなあれを、もしも人間が見られたならば、それは果たしてどうだろうかな?』
『きっと、電子の動きは、早すぎて見えないに違いない。』
『電子一個一個を、『点』として具体的にその時点の時間の流れの中で、何処に存在しているのかを、ピンポイントで認識する事が出来ずに、電子が原子の周りを目まぐるしい速度にて回転している軌道の、その一連の数珠繋がりみたいな、『線』としてしか見えないだろう。』
『回転している扇風機の、あの羽根と羽根の隙間に指を差し入れる事が不可能であるみたいにして。頭の中の理屈では、扇風機の羽根と羽根の間には隙間が存在している事を理解しているが、実際に視界に納めた際には、それは連続した存在としてのみ、認識出来ている。』
『電子と言う物体が存在している点ではなくて、電子が自在に動き回っている残像の連続としての、線に見えている、その様にしか視界的には認識出来ぬに違いあるまい。』
『そんな風に、人間には大きな宇宙の世界では遅く見えて、逆に小さな原子の世界では早すぎて認識出来ないのかも知れない。』
『でも、極大の世界と、極小の世界は、なんだか似た様に見えてしまう。』
『きっとこの世はフラクタルの連続なんだろうな。』
『極小の世界に、極大の世界を重ねて思って見てしまう。』
『惑星や恒星が相互作用で互いに回ったり、星々がぶつかったり、アレなんかは原子を巡る電子の動きや、ぶつかるのは原子と原子との核融合に思えてしまう。』
『どうも、その様に思えて仕方が無いんだ。』
『大きさは認識の粗さに繋がるのかも知れない。』
『大きな生き物が高次の存在だなんて、そう考えると、どうにもそんな一般的な常識に対しての疑問が芽生えてしまうんだ…』
『あっ!!』
『ヤバい、今講義何処まで進んでんだろ?』
『完全に逸した。』
奴は、実際の社会生活で奴が屡々陥る、ふと気になった事に考えを巡らせて、説明を聞き逃すと云う、何かそんないつも通りの安定の馬鹿をやらかしていた様子であった…
…
……
………
分隊達が岩石野球ボールでは無くて、俺の無尽蔵なる魔力を引き出して魔力の塊にして、投擲後にも自身で推進力と回転力が持続する様にしてぶん投げた弾丸は、見事に直進して、そうやってオーガの腸壁細胞に着弾して、爆ぜたのである。
同じ様にして、奴の指揮する熟練のドイツ装甲兵達がパンターGから発射させた、俺の魔力から練りだした弾丸も、発射後に推進力と回転力を維持し続けてオーガの腸壁細胞に着弾して風穴を開けたのであった。
ある程度着弾が逸れて仕舞いそうな状況を想定してわざと若干逸らせた弾丸も、ホーミング機能が作動して、あの第二次世界大戦時代のドイツ空軍のハインケルHe111に搭載されたフリッツXの如くに危うげなく、問題も無く、仮想の目標である腸壁の突起へと命中。
新兵器、魔力砲弾開発成功!
問題も解決して、いよいよと決戦の機運は高まっていた。




