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ただ、おっさんが夢の中でどっかに旅立ってしまう、世間的には需要が皆無なお話  作者: 加工豚(かこうとん)
【第二章】惑星、恒星、命、輪廻、ヲヂサン、全部回転物です。
47/50

索敵・直進・時々、タンブリング




まぁ、リポ多糖に関してはそう云う事で…

他にも(メイン)が手に入れた知識は色々とあって、気になっている事等(ことなど)、検証して確かめてみたい事なんかが(いく)つも頭の中に存在しているのだが、まぁまぁ、それは差し置いてだよ、()(かく)、差し当たっての焦眉(しょうび)(きゅう)はこれだ。








【名前】  ヲヂサン

【レベル】  1

【種族】腸炎ビブリオ(非病原性(ひ・びょうげんせい))〈憑依(ひょうい)

    ガイスト(人間基(にんげんき))

    《種族ランク ロイテナント》


【性別】   男

【年齢】   44


 生命 0.000135/0.000135

 魔力 8547764379980852690847912679388364396899897303/

  8547764379980852690847912679388364396899897303


 SP 0.000034/0.000156(空腹状態)

 Str 0.000127

 Dex 0.000114

 Vit 0.000061

 Agi 0.00006

 Int 92

 Mnd 138

 Luk 72

 Cha 40



【所有スキル】


 ステータスオープン  LV-

 蛋白質の記憶(特異点) LV-

 重力魔法  (特異点) LV-(物体加圧/加熱/成形)

 並列思考  (特異点) LV-

 魔素物質化 (特異点) LV-

 ゲシュタルト思考   LV13/30

 精神攻撃耐性     LV 5/10

 精神攻撃       LV 5/10

 鑑定         LV 9/10



【種族スキル】


 ポルターガイスト   LV4/10

 憑依           LV2/10

 鞭毛操作        LV3/10

 線毛操作        LV2/10








SP 0.000034/0.000156(空腹状態)←はい、ここっ!

そう、俺は今現在(いまげんざい)()えて()ると()うそこ。

その問題こそが緊急である。


考えて見たらば、俺は実はあの、別の惑星であだこだと試行錯誤(しこうさくご)していた頃から空腹を感じて居なかったもんだったから、まぁ、細菌とはいえ、こうして一個の有機生命体(ゆうきせいめいたい)へと(ひさびさ)々に転生した(ゆえ)に、今まで幽霊みたいな存在でいて必要が無かった食事事情に関する感覚が麻痺(まひ)してしまっているのかな?

確かな理由がどうなのかは判らないが、空腹を感じて居ないにしろ、こうしてステータスが空腹状態をアピールしているのである。

このまま問題を解決しないでいることは不味(まず)い。

そして、この問題に(かん)する解決方法も、今の(サブ)には(メイン)のズル(チート)によってごく短時間の内に頭の中で知識が有機的(ゆうきてき)に結び付いており、おおよその理解が及んでいる。

頭で理解して居るのであるから、今こそ行動の時である。






……


俺は今現在(いまげんざい)妖魔(ようま)オーガの腸内を、鞭毛(べんもう)反時計回(はんとけいまわり)りに回転させて直進運動(ちょくしんうんどう)を続けている…腸炎(ちょうえん)ビブリオみたいな鞭毛(べんもう)を持っている細菌達(さいきんたち)移動手段(いどうしゅだん)は色々とあって、俺はその中でも速度が一番速いと言われている「スイミング」と言う方法で移動している。水層(すいそう)に居る腸炎ビブリオ等の鞭毛を持つ細菌達(さいきんたち)は、その鞭毛をスクリューみたいに用いて遊泳(ゆうえい)颯爽(さっそう)と移動して行くのである。


俺は今、細菌の本能…食欲を満たす(ため)必須(ひっす)である、細菌の体表(たいひょう)に備わっているセンサー、そいつの(ささや)く感覚を(つか)んで、空腹を満たしてくれそうな方向へと鞭毛を回転させて、ひたすらに直進しているのである…方向が間違(まちが)っては()ないか、時々、円を描いて同じ場所をグルグルと回転する、tumbling(タンブリング)と言う運動を何周(なんしゅう)(おこな)って、都度(つど)、方向を再確認(さいかくにん)する事も忘れてはいない。自分が移動している方向が、間違いが無く餌のある方向へと近づいて居るのか、その再度の確認の為に、tumbling(タンブリング)を行い、餌に近い方向を(あらた)めて確認して、移動方向に誤差(ごさ)は無いのか、細菌になった今の俺にとって有害(ゆうがい)物質(ぶっしつ)や、先程戦闘(さきほどせんとう)になってしまったオーガの免疫細胞(めんえきさいぼう)みたいな敵勢力(てきせいりょく)へと近付(ちかづ)いてはいないのか、そうやってtumbling(タンブリング)をやって方向と安全を確認してから、また(えさ)のある方向へと直進(ちょくしん)する事を繰り返している…


(メイン)の細菌や細胞に関するお勉強の知識が有機的に結び付き、細菌達が餌のある方向を感じる事が出来る機能を持っている事を理解して、その感覚 ――心の中で(わず)かに何かが(ささや)いて来るみたいな感覚、脳内で(うごめ)くみたいなその感触(かんしょく)―― に気が付いてから、俺はこれが出来るようになったのである。









サルモネラ菌はアミノ酸の一種である『セリン』と言う物質に誘引(ゆういん)されて寄って行く。

サルモネラ菌はアルコールと類似性(るいじせい)が見られる『フェノール』と言う物質に対しては逃避(とうひ)する。


サルモネラ菌は、今の腸炎(ちょうえん)ビブリオに転生した俺と同じ、グラム陰性菌(いんせいきん)であるのだから、つまりは細胞壁(さいぼうへき)(うす)く、その代わりに外膜(がいまく)が存在しており、アルコール系の物質に弱い。もしも『フェノール』へと寄って行ったら「飛んで火に()る夏の虫」さながらに、殺菌されてたちまちサルモネラ菌は命数が尽きてしまうだろう。

『セリン』と言う物質は、細菌達の中でわりと重要な栄養源らしい。アミノ酸の一種であるセリンはきっと細菌達の身体(からだ)を構成する為に必須(ひっす)な物質なのであろう。多分、サルモネラ菌にとってもそうなのだと思われる。


つまり、細菌達(さいきんたち)は、(おのれ)生存(せいぞん)にとって都合(つごう)がよい物質が存在して居ると思われる方向に()かれて寄って行き、自己(じこ)の生存にとって危険な物質があると思われる方向へは忌避(きひ)する性質があるのである。


これは何故なのか?


今現在(いまげんざい)腸炎(ちょうえん)ビブリオに異世界転生(いせかいてんせい)を果たしているこの俺のカプセル状のボディーは、こうやって(なが)めてみるに、恐らくは外膜(がいまく)と思われる表面部分一面(ひょうめんぶぶんいちめん)前述(ぜんじゅつ)した(よう)に、リポ多糖(たとう)産毛(うぶげ)がみっちりと生えている。その姿は何だか、カプセル(がた)猫的(ねこてき)なぬいぐるみさながらである。その 産毛(うぶげ)/リポ多糖(たとう) は残念ながら、毒性(どくせい)が無い種類の 髪質/髪型 のリポ多糖であるから、これで宿主のオーガを今の所、打倒(だとう)する手立てにはならないのだが…

そして、そのふっかふかのリポ多糖の毛玉(けだま)の中から、もう、これは明らかにそんな産毛などと違う、ふてぶてしい位に図太(ずぶと)くて長い一本の毛が、カプセル(じょう)ボディーの(そこ)から一本、ひょろろぉ~ん、と生えている。



こいつが鞭毛(べんもう)と言う奴である。

腸炎ビブリオの俺のこの鞭毛は正確には極鞭毛(きょくべんもう)と云う呼び方をするらしい。



腸炎ビブリオとなった俺の身体の底から ひょろろぉ~ん と力強く生えているこの極鞭毛(きょくべんもう)は実は、モーターの(よう)になっていて、周囲のナトリウムイオンと俺自身(おれじしん)の体内のナトリウムイオンとの濃度勾配(のうどこうばい)を利用して電気的なエネルギーを発生させてそれを利用して回転しているのである。


(メイン)学習知識(がくしゅうちしき)()れば、一般的(いっぱんてき)には細胞(さいぼう)の内部は、細胞の外部(がいぶ)環境(かんきょう)と比べると、ナトリウムイオンの濃度(のうど)は低い。細胞の内部(ないぶ)は、外部の環境(かんきょう)の10分の1程度(ていど)のナトリウムイオンしか無いらしい。そんな、外部に比べて細胞の内部の低いナトリウムイオン濃度(のうど)傾斜(けいしゃ)を持つ(ゆえ)に、外部のナトリウムイオン(たち)(つね)に、細胞内部へと向かって濃度勾配(のうどこうばい)に従って侵入(しんにゅう)したがっている。


濃度勾配(のうどこうばい)に従って拡散(かくさん)して行く現象の判りやすい例はあれだよ、スポーツ飲料だとか砂糖だとか塩だとか。

上記(じょうき)の粉末を入れた容器にあとから水を入れてやって、一切掻(いっさいか)()ぜないでじっと観察していると、やがて、粉末部分から透明なモヤモヤが発生して上に向かって立ち登って行くだろう?

あれは、スポーツ飲料/砂糖/塩 の、濃度(のうど)()い/高い 部分から、濃度が (うす)い/低い 部分へと向かって、均一(きんいつ)に広がろうとする 性質/作用 だよ。

濃度勾配(のうどこうばい)均一(きんいつ)に広がろうとする力は、ある程度(ていど)は重力の力にも打ち勝って広がって行く。

まぁ、重力次第(じゅうりょくしだい)で果たしてその性質がどうなるのか、重力が強過(つよす)ぎると濃度勾配が存在する状態から濃度勾配が存在しない状態へと、つまりは均一広がってゆく、その力も弱くなるものなのか、(メイン)はそこまではお勉強していないから判らないが、少なくとも、地球上では、濃度勾配はある程度は重力の力を無視して広がっていく、それだけの力が有った筈である。

それと同じ感じで、細菌の細胞の内部へと、ナトリウムイオン達は侵入(しんにゅう)したがる性質(せいしつ)があるのだ。



腸炎(ちょうえん)ビブリオに付いている極鞭毛(きょくべんもう)のこのモーターは、そんなナトリウムイオン(たち)細胞内部(さいぼうないぶ)へと侵入したがる、均一(きんいつ)な濃度にしたがる、そんな性質をそのまんま上手く利用して、電気的なエネルギーを得て回転駆動(かいてんくどう)しているのである。


人気の家庭用ゲームソフトの発売日に、その日の数日前から並んでいる人々の、その、いざ発売当日、お店の開店時、シャッターが空くと同時に、そのゲームソフトの販売コーナー目指して全力ダッシュで駆け込む、そんな熱狂的(ねっきょうてき)なエネルギーの上前(うわまえ)をうまく跳ねてエネルギーにしているみたいなもんだろう。


(メイン)の記憶を共有(きょうゆう)している(サブ)には良く理解出来(りかいでき)る。(メイン)はゲームソフト、「竜の使命3」発売当日に買えなくて(へこ)んでいた記憶を持っている…今やっても名作で楽しいゲームだよな、あれはさ。


「竜の使命3」を買いたければ、この他のメーカーのゲームソフトも一緒にセットで販売しているから、このソフト二本抱き合せセットとして買うなら売りますよ?

的な、今の日本の常識から見てみたらば、そんな阿漕(あこぎ)に見えてしまう、商売っ気に如才(じょさい)がないお店だとか、あったじゃないか(笑)


あんな感じで、ソフトを手に入れたがっている人々の熱気を利用して、上手く別の商品を買わせて利益を得るみたいにして、それと同じような感じで、イオンの濃度勾配(のうどこうばい)に従って、細菌の細胞の内部に入って広がりたがる、そんなナトリウムイオン達のエネルギーを利用するのだ。


細菌の鞭毛モーターの阿漕(あこぎ)な感じ。生命はそのくらいに狡猾(こうかつ)でないと、生き延びられないのだろうなぁ。実に無駄(むだ)がなくて、(うま)いシステムを考え出したものだよな。




さて、腸炎ビブリオのカプセル(じょう)身体(からだ)底部(ていぶ)から生えているこのナトリウムイオン駆動式(くどうしき)モーターに直結している極鞭毛(きょくべんもう)は、正転(せいてん)逆転(ぎゃくてん)二種類(にしゅるい)の回転が可能である。


サルモネラ菌はアミノ酸の一種である『セリン』と言う物質に誘引(ゆういん)されて寄って行く。

サルモネラ菌はアルコールと類似性(るいじせい)が見られる『フェノール』と言う物質には逃避(とうひ)する。



この、サルモネラ菌の現象は、どうやって起こっているのだろうか?



この極鞭毛(きょくべんもう)モーターには、制御回路装置(せいぎょかいろそうち)的な部品が(つな)がっているのである。

そして、この極鞭毛は、一見(いっけん)すると ひょろーん と間抜(まぬ)けに生えているだけに見えるのであるが、よくよく注意深く観察して見てみれば、螺旋状(らせんじょう)(ゆる)渦巻(うずま)きながら生えていて、この螺旋方向(らせんほうこう)と同じ方向へ 左巻(ひだりま)きに/反時計回(はんとけいまわ)り方向に 鞭毛モーターが回転する時には細菌達はプロペラで進む船舶(せんぱく)(ごと)くに、スムーズに直進(ちょくしん)する事が出来る。

逆に、極鞭毛モーターが鞭毛の元来自然(がんらいしぜん)に緩く渦巻いている螺旋の向きと 反対方向に/右巻(みぎま)きに 回転する時には、極鞭毛の回転は不安定に揺らぎ、それによっておこる推進(すいしん)方向はtumble(タンブル)と言われる出鱈目(でたらめ)な運動となり、細菌達は同じ場所にてクルクル周回(しゅうかい)を繰り返す運動を行うのである。


理解し(づら)かったのならば、緩くコイル状に渦巻(うずま)いている(ひも)を垂らして、時計回り、反時計回りにそれぞれ、回転させて観察して見ると理解が速いだろう。コイル状の(ひも)(えが)いている螺旋方向(らせんほうこう)と同じ側に回転させると紐はスムーズに回転して、それとは逆に回転させると、(ひも)は大きく(あば)れて、不安定な回転にならないだろうかな?この、紐が暴れて不安定になる挙動(きょどう)の動きの事をtumble(タンブル)というのである。




さて、もう一度、云ってみようか。

サルモネラ菌はアミノ酸の一種である『セリン』と言う物質に誘引(ゆういん)されて寄って行く。

サルモネラ菌はアルコールと類似性(るいじせい)が見られる『フェノール』と言う物質には逃避(とうひ)する。

これは、何故(なぜ)なのだろうか?




これは、細菌達の鞭毛モーターに繋がっている制御回路装置(せいぎょかいろそうち)的な部品が、正転・逆転のスイッチ的なものを切り替えて、正転させたり、逆転させたりしている為に可能な事なのである。

だから、鞭毛を備えている今の俺みたいな細菌達(さいきんたち)はその切り替えに従って、直進したり、グルグルと回転運動をしたりするのである。


細菌達(さいきんたち)が、(おのれ)生存条件(せいぞんじょうけん)有利(ゆうり)になる、栄養が含まれている方向へ移動して行くのは、その細菌達の現在進んでいる進行方向が栄養豊富な方向と一致して居れば鞭毛の螺旋方向と同じ回転方向、(すなわ)ち、スムーズなる直進運動を惹起(じゃっき)させる回転方向に鞭毛モーターが回転し、かつ、その制御回路が、その直進運動を長く継続させる切り替えを行っており、逆に、栄養豊富な場所から遠ざかる、または、細菌達にとって都合が悪い有害な物質…殺菌されてしまうリスクが有りそうな物質に近づいて居る時には直進運動は長く続かずに、鞭毛モーターは、鞭毛が自然に描いている螺旋方向とは反対向きになる回転運動を行って、tumble(タンブル)させて、一旦(いったん)細菌(さいきん)をその場にグルグルと無意味(むいみ)周回(しゅうかい)をさせて、方向転換させた後に、安全な方向へと直進させる。制御回路装置(せいぎょかいろそうち)的な部品は、その様な役割を果たしているのである。


この操作の為に、細胞は周囲の物質を探る為の、いわばセンサーの役割を果たしているタンパク質があって、そいつが、周囲に存在している、「食糧になる物質」やら「ヤバい物質」やら「別の細菌勢力(さいきんせいりょく)との距離」などを常に探っているのだ。

そのセンサーの情報を頼りに、細菌達は今日も目まぐるしく、直進とtumble(タンブル)周回迷走(しゅうかいめいそう)を繰り返して、(おのれ)の生存にとって有利となり、危険な物質が無い方向へと鞭毛を()にして、センサータンパク質からの情報を船乗りの星座(せいざ)のように利用して、鞭毛での航海を続けている…



生体の免疫機能(めんえききのう)…その生物にとっての異物、侵入者を発見して、対策を練ったり攻撃を加えたりする多細胞生物(たさいぼうせいぶつ)が持っている白血球細胞(はっけっきゅうさいぼう)好中球(こうちゅうきゅう)、その表面には受容体(じゅようたい) タンパク質/センサー を装備しており、細菌達が(おのれ)の仲間を作り出す時に、ほぼこの部分はこのアミノ酸配列の構造から開始する事がセオリーと言う、いわば、「細菌らしい共通した作り・構造をしている」その部分の タンパク質/細菌達の気配 構造(こうぞう)パターンを把握(はあく)しており、その構造が漂って居れば、ごくごく低濃度(ていのうど)でも感知(かんち)可能な、 高性能の受容体/細菌独特のタンパク質パターンを関知するセンサー を装備しており、白血球細胞(はっけっきゅうさいぼう)好中球(こうちゅうきゅう)なんかは、この細菌達(さいきんたち)の気配 細菌由来のペプチド/タンパク質の構造パターンである拡散性ペプチド のその 濃度/細菌達の手がかり が好中球自身(こうちゅうきゅうじしん)の身体の両端(りょうはじ)(わず)かに1%ばかり 濃い気配/薄い気配 でも感知して、その方向を割り出して 標的/やっつけるべき侵入者の細菌達 に向かって移動する事が可能なのである。

恐るべき、免疫(めんえき)の仕組みであろう。







まぁ、白血球細胞(はっけっきゅうさいぼう)好中球(こうちゅうきゅう)前述(ぜんじゅつ)した通り俺みたいな 細菌/侵入者 の気配を探るセンサータンパク質を装備しているが、逆に、細菌の方だって負けては居なくて、(おのれ)の生存に有利になるような環境(かんきょう)へと向かい、不利となる環境へは近寄らない為の目的で、そんな物質達(ぶっしつたち)(おおよそ)どの方向に存在しているのかを感知可能(かんちかのう)なセンサータンパク質を装備していると言う次第であるよな。


恐らくは、前に妖魔(ようま)・オーガの免疫細胞(めんえきさいぼう)と突然に遭遇して戦闘になった(さい)に鞭毛が変に迷走(めいそう)してしまったのは、この俺の意識が混乱の極致(きょくち)にあり、しかも、まだ(メイン)が細菌に関する知識を身に付けておらず、それ故に(サブ)にも知識が有機的(ゆうきてき)にフードバックされておらず、()ってみれば中途半端(ちゅうとはんぱ)な知識で()って行動していて、だから鞭毛で動く事は可能であったが、tumbling(タンブリング)し続けていたのだと思われる。


こうやって、(メイン)のお勉強が(こう)(そう)して知識が有機的になった時に、意識的に直進したり、tumbling(タンブリング)をしてみたり、そうやって自身の行動を制御出来る様になったのであろう。これは、(ひとえ)(メイン)功績(こうせき)なのだと思う。まぁ、助かったよ、ご苦労である!


さて、そうやってスイミング移動を繰り返す事がしばらく続き、細菌になった俺が装備している 餌の場所/敵の場所 感知センサーに、敵との接触がいよいよと近い気配が伝わって来る。敵との戦闘は()けられない(よう)である。俺が(みずか)ら選んだ選択である。

と、云うのも、多くの(えさ)の気配が存在している場所に、同時に多くの敵勢力も存在している様子(ようす)である、と、(くだん)のセンサータンパク質が情報を伝えてきており、どうやら他に付近(ふきん)にこの発見した場所の他には有力なる餌場(えさば)が存在していないらしいのだ。だからそこの敵勢力(てきせいりょく)駆逐(くちく)して餌にありつく事を己自身(おのれじしん)で選択した次第である。 


本来、普通の細菌であったらば、その 行動/選択 はしないのかも知れない。いや、「しない」のではなくて、「出来ない」のかも知れない。

と言うのも、敵勢力(てきせいりょく)が近いとセンサータンパク質が感知した時点で、その細菌の直進運動はセンサータンパク質から更に繋がっている制御系(せいぎょけい)タンパク質の働きに()って制御(せいぎょ)されて、tumbling(タンブリング)を起こしてから、方向転換して戦闘を避ける行動を示すのかも知れないのだから。


つまり、細菌にとってそんな高度な判断である、闘争か逃走か的な、その様な行動の為の思考は存在しておらず、ただ単に、前述(ぜんじゅつ)したみたいな、単純な電子制御的な一連の仕組みしか無いのかも知れない。単純に仕組みに従っており、今の俺が下したみたいな判断、その様な知性を持ち合わせては居ないのかも知れない。


腸炎ビブリオに異世界転生を果たした俺は、その選択をどうやら(おのれ)の意志で選ぶことが可能であり、(すなわ)ち、自ら危険に近寄るのか、そうでなく逃走するのか、 闘争(とうそう)/逃走(とうそう) の選択(せんたく)(みずか)(くだ)す事が可能である(よう)であり、それは幸いな事であろうと思う。


自らの行動を、自らが選択出来ない。

それはとても不幸な事の様に思うからである。


(サブ)(メイン)から独立を果たす前に存在していた世界 ――地球の人間社会―― でも常識やら立場や(しがらみ)やら(なん)かで本来、(おのれ)が選択したかったであろう道を、自身(じしん)の意思の望むままには選択出来ない、そんな目には見えない障壁(しょうへき)(よう)なモノが存在していたが、こうやって異世界での転生を果たし、高度な人間社会の中にではなくて、全くの野性的な環境に置かれてしまい、ましてや、単なる一個体(いちこたい)の細菌に過ぎない存在となってしまっている、そんな今の(サブ)は今、その(よう)(ことわり)(しがらみ)とは距離を(へだ)ててしまっている格好(かっこう)であって、(メイン)が人間社会の中で雁字搦(がんじから)めになってしまって感じていた窮屈(きゅうくつ)さ、それとはかけ離れてしまっているのだ。


今現在(いまげんざい)(サブ)(メイン)が求めていた、その様な(しがらみ)なんかとは無縁な


 ――出鱈目(でたらめ)なる自由―― 


それを手にしているのかも知れないと思っている。

その事に対して、何だか無性に(よろこ)ばしく感じられていた。


センサータンパク質からの情報


 ――(ひろ)い上げた細菌達の放出している産生物(さんせいぶつ)やらタンパク質の断片(死体)から(おおよ)そは推測出来(すいそくでき)る―― 


総合(そうごう)して判断するに、どうやら其処(そこ)には細菌達にとっては豊富な栄養に満ちており…それ故に、腸内細菌の勢力である、「善玉菌」と「悪玉菌」達の前戦地域(ぜんせんちいき)であるようなのだ。


乳酸菌が産生(さんせい)する生成物質(せいせいぶっしつ)である「乳酸(にゅうさん)」、病原性を持つタイプの リポ多糖/産毛(うぶげ) を生やしていると予測される、具体的に種類は不明だが、グラム陰性菌(いんせいきん)の 断片/死体 そして、乳酸菌の 断片/死体…

間違い無く、これは戦闘の気配である…



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