ロケット花火の棒外して点火した事無い?俺は有ります!
風邪で寝込んでおりました。
あと、色々とありました。
遅れてすみません。
や、やべぇぞ!
生体内に潜入している一食中毒細菌に過ぎない、腸炎ビブリオ(非病原性)に転生してしまった俺。
攻撃手段も反撃手段も防衛手段も試みられないうちに…免疫細胞に発見されて、相手の方はどうやら、此方の事を拱手傍観する気は無いらしい。
どどど、どうしようどうしよう!?
思わず、足をバタバタさせるイメージを。
そうしたら、まるで水飴みたいに重い感覚。
さっき鞭毛と線毛を動かして石川啄木の俳句じみた事をやって居た時に実は既に気が付いていたが、あの時は心の中がそれどころではなかった、今こうしてこの事実と改めて対面するに、これはあれか…人間にとっては水分は随分とサラサラしている液体と云う印象だが、蟻さんにとって実は水と云う液体はそうではなくて、ある程度の粘度を持ったモノに感じられてベタベタするみたいで、そしてそんな蟻さんなんかと比べても更に小さい腸炎ビブリオにとっては水分は、これは…重いぞこれ、水飴の中に足を突っ込んだみたいなんだよ、田んぼの中で足を取られて動けないみたいになっている。
だが、しかし…
免疫細胞とやらに此処でやられる訳にはいかねーよ!?
必死に、鞭毛を動かして足掻く。
『手』に相当する線毛の方も、プールのクロールみたいにして泳ぐことを試みる。
おっ、重い!?
稍重でも重でもない…これは不良馬場ですよ、競馬だと。
駄目だぞこれは、簡単に追いつかれるし、逃げ切れない。
まるで問題外だ。
おっ、お前ら、何か策は無いかっ!?
脳内作戦会議を急速に行う必要がある。
《なーに慌ててんだよ、親分よぉ、こんな時の為に俺達が居るんじゃねーか!》
はっ!
その声は、脳内武闘派っ!
俺の視界右側を担当している。
そ、そうか。
こいつ等が居たっけ。
《魔力の塊をそのまんまぶつけてやれば良かろう、いわば、無属性の純粋な魔力を、そのお主らの世界でやっていた『スポーツ競技』と云うの『ヤキュウ』か?わしらのシェルターブンカーの岩壁を突き破った威力じゃからの。『免疫細胞』位は容易いじゃろうて。》
ゲルファウストが助言してくれる。
そうだったな。
そう言われてみれば、全く以って、その通りだ。
嘗て訓練の為に転移した彼の惑星アルヴィス。そこでスキル【重力魔法】の試行錯誤の際に偶然に発現した【空間認識】と云う新スキル、更に、更に、その【空間認識】を発動させると脳味噌がオーバーフローするのを、負荷を低減させる目的で編み出された、俺の分身達を用いた視界個別担当制。
重力魔法で作られた球を投擲、球の回転数と球速を極めて編み出されたあの凶悪な直球ストレート。
更に、俺の呼び出したドイツ軍のパンターG戦車の砲撃…
今の俺はさながらイージス・システムを備えた空母打撃群部隊と化して居るんだっだよ。
この防備体制はちょっとやそっとでは恐らくは抜けまい…異世界故に、どの様な虚を突かれるのか、どの様な戦術が有るのかは不明だけれどもな…けれども、何を動揺する必要が有るのか!
俺は一人だ。
だが、俺は一人ではないんだ。
みんな、有難うな。
非常に助かったわ。
「今から俺達は…俺はこの異世界の中で、妖魔の体内の中で、生存権を確立する為の闘争を行う!お前ら、力を貸してくれ!」
この発言は儀式的なものだ。
この世界で生きて行く為に、俺を害せんとする相手は、免疫にしろ、他の種類の細菌にしろ、或いはウイルスにしろ、人間や魔獣、妖魔にしろ、俺はこれと闘争する事を皆に宣言した。
異世界に転生して、最初の宣言だ。
これは俺の覚悟の周知徹底だ。
必要が無い事なのかも知れないが、俺にはそれが必要に思えたのだ。
さぁ、開戦だ。
俺はこれから異世界での初めての闘争を開始するんだ。
《視界正面…免疫細胞、数、一体。交戦意志有りと判断、1時方向から、ほぼ直線で接近中。装甲部隊、パンツァー・カイルの先端、6両で良い、奴に照準開始。相手の装甲の強さが不明だ。右方3両は榴弾42、左方3両は徹甲弾39/42装填…近いんだから一発で片付けろっ!》
《右視界、特に脅威と思われる接近は無い。》
《左視界☆右視界と概ね同じよ☆》
《後方視界…脅威は無いよ~。》
《次元間の存在がにわざわざ妖魔の体内に居る細菌に関心を持つとは思わないが、慢心は常に人間たちを…(略 》
「正面、余り派手にやるなよ、細菌の世界の事は判らんが、悪目立ちはしたくない。」
《…ってもなぁ、戦車の砲弾だから、そこそこ派手だよ!?》
〖1号車、目標捕捉〗
〖2号車、目標捕捉〗
〖3号車、目標捕捉〗
〖4号車、目標捕捉〗
〖5号者、目標捕捉〗
〖6号車、目標捕捉〗
《斉射っ!》
ズドドドドドン!
斉射して間も無く…右方3両が打った榴弾42がみるみると射速を落として目標に届く前に…爆散した!?
左方3両が発射した徹甲弾39/42装填の方は、同じ様にみるみるとその射速を落とし、直進性に対する抵抗――水飴の様な体液――が強い為か、直進運動にみるみるとブレーキがかかってしまった様に減速、回転運動で保っていた砲弾の軸がブレ出し、途端に直進性を保っていた砲弾はあらぬ方向へと暴れる様にして四散していった。
そ、そうか、この周囲を覆っている液体の粘度だ。
失念していた。
理解して居た様で、理解し切って居なかった。
この特殊な状態――ミクロの世界――での、液体の粘度とミクロの戦車が撃ち出す砲弾の運動への影響…細菌に転生したこの俺は、今や『水飴の中』に存在しているカプセルみたいな形の細胞壁を持った一細菌の、一個体に過ぎないのだ。
今目の前で起こった、これと似た様な現象を見た事が有る。
俺の眼を通して見た目視の体験…それは戦争映画が好きな奴がニコニコしながら、或る日買って来たとあるDVD。
ノルマンディーに上陸した部隊が、とある上等兵を連れ戻すお話の中の冒頭のシーンだ。
ノルマンディー上陸の為の激戦の最中、敵は陣地から濃密な密度の機関銃射撃を行い、上陸を企図する米兵を歓迎し、その機関銃の弾丸が、海の水によって銃の弾丸の運動エネルギーを吸収し、みるみる直進する運動エネルギーと、野球で言えばスライダー・ジャイロボール方向に回転する回転エネルギーが失われて行き、直線運動が曲線を描くほどに減速してやがて海の底に弾丸自身の金属の自重によって海の底へと墜落していく不思議な光景だった。
無音のまま、米兵たちが機関銃の弾丸によって貫かれて行き、痙攣したみたいな動きをした後、無音のまま斃れて行くのだ。
印象に残っていたシーンである。
人間には水はサラサラに、蟻には水はベタベタした物に…
そして今のこの状態は、そんな蟻と比べてもずっと小さな一細菌個体、腸炎ビブリオ(非病原性)で、そんなちいちゃな身にとっては、この妖魔、オーガの体内の水やら体液やらは、水飴の如くの強い抵抗感が有るのだ。
《大丈夫だって、あの映画でも、弾丸の射速が損なわれない範囲だと、水中で歩兵がハチの巣にされていたじゃないか、俺もついつい失念していたけれどもさ、今の射撃で、直進する射程は大体は把握したから、次は当たるよ。まぁ、見とけよ…ってか、先ずはこの環境で満足に移動出来るように、その鞭毛と線毛を使いこなす方策を考えといてくれよ、漠然とでも良いからさぁ。》
全面視界担当の俺がそうは言っているのだが…
コイツ、詰めが甘いからな。
現実世界の労働社会の中でも、結構なポカやっていたぞっ!
極端なんだよな、自分が興味のある知識と、社会やら組織やらに求められるが故に仕方が無く身に付ける知識との格差が。
自分を騙し切れないんだ。
興味が無い事は興味が無い、嫌なもんは嫌だ。
その気持ちを騙し切れないのが俺なんだ。
まぁ、でも、そんな俺が自信満々な態度の時は興味がある知識の場合だから大丈夫かな?
多分、あれだろ。
一応、幼い頃から野球やって、エアーガンでサバゲーもやって居たし、陸自時代に射撃も得意だったからな、コイツ。
射撃だとか、物体が直進するラインを測る事、そのラインに標的を乗せる事…無意識にこなせるセンスはあるんだろうな。
《将来、僕、自衛隊に入って小銃撃ってたみたいだよね。エアーガンじゃなくて本物撃てるんだ~、楽しみだなぁ~!今も長打打つ時やキャッチャーん時はボールが止まって見えるからね。大丈夫だよ。きっと、射撃だとか、目標に当てるのは慣れてるし、それにこっちは未だ総攻撃じゃない、本気じゃないんだからね~。余裕が有るんだよ。》
不動の5番打者、後方視界担当の野球少年時代の俺分隊がごちる。
《正面が万が一にでも圧力に負けて崩れたら俺達も一応、カバー出来る範囲だ。安心して背中を預けろ。一応、魔力を捏ねた野球ボール大の球は構えてっから。構成員達にも、『投擲』は訓練させている、俺の他に、構成員達が20人以上、魔力捏ねたボールを構えてんだ、あの元宮廷魔術師だったか?ゲルファウストのじぃさんに教えて貰って、短い時間だが訓練をしていたんだ。まぁ大船に乗った気分で構えてろよ、大将。》
右側視界の武闘派の俺分隊が続いた。
《ま・か・せ・て☆アタシたちも20人以上、魔力ボール構えてるんだからっ!野球チームでも作っちゃおうかしらっ☆》
左側視界担当、オカマな俺分隊。
…任せたら何されるか怖い。
《助けが必要な時に助ける、これは素晴らしい人間の知恵だ、しかしながら、『助けが必要だ』と各々が判断するラインがこの際は過剰であったり、はたまた遅きに…(略 》
…引き籠りキャラの俺分隊。
君は次元の監視員だ。
手を抜くなよ。
任せた。
そちらの戦闘は一瞬だけ、任せよう。
俺達間での時間経過、意識のやり取りは一瞬だ。
並列作業をしても問題は無い筈だ。
その為のスキル【並列思考】(特異点)なんだからな。
強力なる攻撃手段を有していたとしても、移動や回避に困難な現状は、座礁してしまった戦艦さながらだ。恐らくこれから迫りくる敵勢力…他の細菌、特に乳酸を持っている善玉菌、他のウィルス、免疫細胞…これらを相手取るに、先ずは動ける事は必須だろう。
攻撃が強力でも動けない戦艦は爆撃・雷撃の格好の的である。
腸内の細菌の総数、人間ならおよそ100兆個、恐らくは巨躯の妖魔、オーガだともっと多いに違いない。
…この世界の腸内細菌の密度が元の世界のそれと等しいかどうかは判らないのだが…そこに更にプラス無数のウィルス、プラス、無数の免疫細胞…全部防ぎ切れるかっつーの!
一刻も早く、機動力を得なければヤバいんだよ。
動けなきゃエバン・エマール要塞みたいなもんだ。
俺は。
無機質アナウンス女改め、かつて存在した惑星アルヴィスの現身、女神アルヴィス。
惑星アルヴィスの人間族フェルディナント王国国王、フェルディナント・ディ・ザイモス三世。
同、ドワーフ王国国王、ザイグーヌ・ファテマハト。
同、フェルディナント王国元宮廷魔術師、カウス・フォン・ゲルファウスト。
そして、惑星アルヴィスを照らしていた3つの月達…
このメンバーで、対策会議を行おう。
鞭毛と線毛について、色々と意見を聞きながら試して見よう。
この水飴状態の粘度の高い液体の中で、この鞭毛と線毛を効果的に使う方法を。
ん!?
攻撃を担当する前面視界の俺、奴から一瞬にして断片的な閃きの思考が流れ込んで来る。それは僅かな意識の流れだが…
《アルキメデスのスクリュー》
《推進力は低い…》
《そこで…》
《鞭毛をしならせる…》
そうか!!
それだ。
ちょっと試して見よう。
アルキメデスのネジ。
液体を汲み出すポンプみたいな役割を果たす奴。
効率は低かったみたいだけれどもな。
あれ、もしも個体のネジじゃなくて、形が変わるしなやかなネジの性質があったとしたらどうだろうか?
鞭毛をネジみたいな螺旋形に…なった。
粘度が高い液体と云う事は、水泳の時に感じた水の抵抗、あれよりもずっと強い抵抗が働いている世界だ。
だから、ある程度粘度の強いその液体を『蹴り出す』力は当然、抵抗と同じくらいには強くなる筈。
鞭毛をしなる鞭の如く、回転させつつ、液体に絡ませる面積を増やす…ぐ、ぐぅっ!
重いぞこれは。
泥に船の櫂を突っ込んで漕いでいるみたいだぞ。
あれみたいだぞこれは…競輪選手の走り始めだわ。
だが、奴の身体つきは…山と海が近く、特に山際が近かった故に、小・中学時代は坂道を通っていて、しかも、冬の雪の中、山際にあった鉱山の廃墟に冒険に出掛けたりしていて、何と云うか、『下半身マッチョ』なのだよな、環境によって、鍛え抜かれたんだよ。
もしも奴が飛び降り自殺したとしたら、人間は大抵の場合は、頭が重い故に頭から落ちる、なんて言われているが、奴の場合、間違いなく下半身から落ちるだろう、と思える位に。
そして、俺の能力値は、基本的には奴の数値が踏襲されている。
標準的な人間の能力値が、レベル1の時には平均オール100だと、鑑定が教えてくれていた。
そして俺のStr値、筋力は、127だった。
がっしり体型で、筋肉は多かった方だ…筋肉馬鹿。
今はそのStr値127も、百万分の1になってしまっているのだが。
目覚めよ、俺の往年の筋力よっ!
あの、自転車で毎日毎日、上り坂を登ったパワーを思い出せっ!
俺は走力は人並みだったが…自転車は鬼だったじゃないかっ!
芝は普通、ダートは鬼脚。
俺は、クロフネだっ!
俺は…ブロードアピールだっ!
何駅か隔てた友人宅から帰宅する時に、スポーツタイプのアルミフレーム自転車に乗って帰宅タイム最短を更新しようとした時のあれだ、タイムアタックの時のテンションを思い出せ!
強かった液体の抵抗も、自転車の最大ギア比みたいな重さも、力を加え続けて漕ぎ続ければ加速に替わるんだ。
よし、軽くなってきたぞっ!
俺の鞭毛よっ!
回れ回れ!
しなやかに回れ回れ!
ようし、まだまだ余裕が有るぞ、軽くなってきた、さぁもっと加速すっぞ!
行くぞ、俺の久々の本気漕ぎ!
う…うぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉ~っ!
《ちょ、おま…捕捉出来ね~から、止まれ!》
全面視界担当の奴の静止を呼びかける声で我に返った。
夢中の余り、意識を下半身に向けたまま、推進力だけで全身した結果として…
俺のカプセル状の身体は、まるで羽根が無く方向が安定しない迷走したミサイルみたいにグネグネと紆余曲折して、今まさに俺を攻撃しようと接近していた免疫細胞に突貫突入しかかっていたのだ。
《ちっ!全車両、斉射!》
ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドォ~ンっ!
此処まで接近してしまえば、砲弾の命中率やら、液体の抵抗の強さも無意味である。
オーガの免疫細胞は、哀れ、跡形もなく爆散していたのであった。
《アンタ、ちょっと正座ね。》
鞭毛と線毛操作の相談相手の為に集まって貰っていたメンバーの内の一人、ではなくて、一柱の女神アルヴィスが、腕を組んだままで俺にそう宣言した。
同じ様な目的で集まって貰った人間の王族・ドワーフの王族・宮廷魔術師の3人衆は言葉も無く茫然と立ちすくんである。
当たり前であろう、さぁ、これから問題を話し合いやら実験によって解決しよう、と集まった矢先に、俺が機動に関して、まだ課題が残るとは言え、その当初の目的だった問題をあっさりと解決してしまっているのだから…
その茫然としている三人衆の横には星ぃーず達。
はしゃぎ回り駆け回っている無邪気な星ぃーず3人。
彼等、彼女らの前面に立った女神アルヴィスが、半目で此方を睨んでいるのである。
…はい。
さぁーせん。




