野球で云ったらそれは多分ボークです。
腸内細菌を調べないとなぁ…
引き続き
【side・駄女神&転移五人組&ウィリアム・ウォーディセン陣営隷下】
〔まぁ、おねぇ~ちゃん、何だか判んないっすけども、気負ってたもんね~、そりゃー喉も乾くっしょー。…たぁ~んと飲みなされよ、くふふっ。おっとぉー、また一口。結構、ペース良いっすよねぇ~、お替り用意しとく感じぃ~?カノジョぉー、カノジョォ~、飲んじゃうかんじぃ~?〕
「宜しければ、お代わりをお注ぎ致します、突然この様な事態となり、さぞや喉も御渇きになりましょう?」
そう云うと、女神ナタリアは少しだけ手を振るう所作をする。
四季石晴那のカップに、先程と同じ様に茶が注ぎ込まれると、ティーポットは再び
忽然と姿を消した。
《…見事に黒いのぅ。》
《ご老人があの駄女神に掛けた魔法…嘘か本当かを看破するだけでなく、対象が悪意を抱いた時は黒く見えるんすねぇ…》
《主に国内貴族の罪や、造反の疑いがある者に対して、今こうして用いている様に隠し部屋の覗き穴から覗きながらこっそりと掛けていたのじゃな、嘗ての仕事が活きた恰好じゃ。》
《ご老人の前じゃ、閻魔様の前に等しいって事でごさんすな、こりゃ、情報収集が捗りやすぜぃ。》
四季石晴那は不思議な程にそれまで騒めいていた己の心の中の波風が凪へと戻って行くのを感じていた。
自分は何を熱くなっていたのだろうか、こうして弟も異世界に対して関心を寄せていると云うのだ、姉の私がそれを傍らから補ってやれば良いのではないだろうか?
お茶を飲んで落ち着いたのか、その様な視点の切り替えが出来てきたのだ…それにしても、何か心に引っ掛かるモノが無いでは無いのだが…それが果たして何だったのか…まぁ、大事な事であれば直ぐに思い至るのが通常であるのだから、それはこの際、重要では無いのだろう、そう判断し、晴那はこう切り出す。
「私も、弟がこの様に云っているのだし、特に否やは無くなりました、折角の異世界でしょうし、学べる事も多いでしょうから…泰孫、それで良いのね?」
「やたー!おねぇちゃんの許可、出ましたっ!」
…
……
………
【side・ウィリアム・ウォーディセン】
出しゃばるタイミングでは無いな。
あの駄女神をある程度は泳がせないと、その尻尾の方向性と、その尻尾が出すエネルギーの根幹が未だ見えてこないのだから…これは謂わば『必要な犠牲』だ、スマン、俺は物語りの主人公みたいに、そんな綺麗な男ではないんだよ、社会の中で色々と見て来て、例えば同じ派遣会社の外国人と親しくなり、彼が薬物を常習している事を知っても…その彼本人を諭す事をやらなかったし、それを会社に密告などしなかったし、会社側の不正にだって目を瞑っていた事もある…あの、現在進行形で『一服盛られて』いる彼女に面識など無いしな、同じ地球の…あの見た目と、日本語を話して居ると云う事は…日本からやって来たみたいではあるが、これからどの様な関係性になるかも不明な以上は…拱手傍観の一手に尽きる。
単なる『傍観』ではなくて、拱手傍観だよな、普通の物語の主人公だったらば、このシュチュエーションはだって、正義感を発揮して当然阻止する流れだしな、まぁ、物語じゃなくて事実の世界なんてこんなものだろうさ…だとか、必死に己に言い繕っても罪悪感が半端無い、はい、認めよう、間違いなく俺は今そこそこ後ろめたい。
それに…
《アンタは悪くは無いよ、今回は彼等の存在は偽装しなきゃならないんだから。ともかく、あの惑星に潜入する前に問題は起こさない方が良いよ、出しゃばらなかったアンタの判断は正しい。…大体が『ゲルファウストとか云う宮廷魔術師やらヤスベエの存在が証人だ』とでも云ってあの駄女神を糾弾するつもり?どうやってその存在を証明するの?延いて云えばナチュラルにあの駄女神にさえ存在が認識できていない、そんな彼等の有効性を理解して居るの!?あの有効性は隠匿しておくに限るの、判る?》
無機質アナウンス女改め、口の悪いゼンデレがそう言ってくれた事が何よりも助かった心持ちだ。
…ありがとうな、ゼンデレ。
《グっ…んなっ!か、勘違い、しないでよね、これはあくまでも(以下略…》
…
……
………
【side・駄女神&転移五人組&ウィリアム・ウォーディセン陣営隷下】
「それでは、あなた様方に於きまして、お勧めする転移・転生コースとしましては…『転生勇者コース』と『通常転移コース』この二つが有りますわ。」
《さて、ヤスベエ、ワシ等が元々おった惑星様の現身である…未だ名前も本人が名乗っておらぬからして、杳と知れぬのじゃが…恐らくはワシ等が嘗ておったあの世界の名前…『アルヴィス様』ではないかと思うのじゃが…あの方が私に先程教えてくれた魔術を発動してみよう、書式にどの様な目的の術式が組み込まれておるかが判る魔法じゃ。いやいや…今となっては悼ましくもお隠れとなられた太陽神フレイア様の魔導回路の英知にも瞠目を覚えたがの、この女神様のこの魔法術式も…うーむ、ワシの様な非才の者が例える事は憚られる思いなのじゃがなぁ、高度かつ、無駄が無く洗練されておる。》
《いよいよ、あれを発動なさるんでやすねっ、合点承知でさぁ、またあっしは…今度はあの書式にですかぃ?》
《説明の手間が省けて結構な事じゃ、ワシが合図したタイミングで…やるのじゃっ!あれを!超奇行・エキセントリック眼球接吻をっ!》
《…ご老人、アンタ、もしかしてあっしの事、弄んでませんかねぇ。。。》
「此方がその、『転生勇者コース』と『通常転移コース』の詳細について書かれております、小冊子となります、皆さま方に於きましては、色々と考えを纏まるお時間が必要かと思われますから、取り敢えずはこれをお読み下さっていて下さい…私その間、小用を済ます為に席を立つ事をお許しください…それでは。」
女神ナタリアは、彼女と転移してきた五人組が今現在対面しているカウンターの下に付いている引き出しから小冊子を取り出して転移組五人に配り終えた後に、そう云うと優雅に静々と席を立ち、転移魔法で召喚されてきた五人組の中の一人、三ノ宮貭典にしか認知する事が出来ない存在…霊体であるヲヂサンこと、ウィリアム・ウォーディセンの元へと移動して行くのである…
時間が少しだけ巻き戻されるのではあるが、女神ナタリアが転移してきた五人の元から、再びヲヂサンことウィリアム・ウォーディセンの元へ向かう直前の安田安兵衛とカウス・フォン・ゲルファウストの偵察二人組の視点。
《今じゃ、ヤスベエ、あの駄女神がかの小冊子をあの五人に配る前、あの小冊子が重なっておる今こそチャンスじゃ、行け…『解析!』》
《あっ!痛い、痛たたたた、紙に眼球から水分を吸われるイメージしちゃうと、身体が無いにも関わらずそんな感覚が在る様な、無い様な…》
《良し、成功じゃなっ!》
《早速、ワシは術式的な制約・トラップ・その他の何らかの術式を解析しよう、お主は…判っておるの?》
《へぇ、あっしは書式自体に詐欺の手口が無いかを調べやすぜぇ、ご老人!》
…
……
………
【side・ウィリアム・ウォーディセン・駄女神】
《えげつないねー、あの駄女神、パンフレットには隠蔽魔法、『転生者認定書式Ⅰ型』には何らかのエグイ制約の術式…そして有無を言わさずに躊躇無く薬まで盛る…恐らくはこれから行く惑星『コルネリアス』自身の現身がアイツ、『ナタリア』でね、間違いないみたいよね…程度が知れると云うか…あんな女神が管理している惑星って…確実に碌なもんじゃ無いと思うから、アタシもせいぜいあらゆる布石を怠らないようにしておくから、アンタはそのハゲ直感レーダーが鈍らない様に、精々その頭皮のテカテカを拭って置きなさいよね、ってか、逆?その頭皮の汚らしいベタベタがセンサーになって鋭く直感が働いているの、それは?そのベタベタにトリモチみたいに気になる情報の真偽の程がトラップみたいにくっ付いて来るの?どう云う方式?》
カウス・フォン・ゲルファウストと安田安兵衛二人の偵察組からのやり取りから流れ込んできた諸情報で判明した…善照レこと、惑星アルヴィスの現身であるらしい、惑星と同じ名前のアルヴィス…ものすごぉーく、頼りになる反面、俺を何かと言葉でディスって来やがるこの女め…まぁ、あの三人、フェルディナント・ディ・ザイモス三世、カウス・フォン・ゲルファウスト、ザイグーヌ・ファテマハトをスキル【蛋白質の記憶】にて己の内面に取り込んだ際にその情報も当然流れ込んで来たのではあるのだが、何にしろ本人の確認を得て居なかった為に今までは断定し切れていなかった部分…当然、あの惑星をも取り込んでいる俺であるから、アルヴィス自身の情報も流れ込んで居る訳なのだが、『名前の無い者』の側に彼女本体が居るらしくて、全てが流れ込んで来ると云う訳では無いのである。
んで、先程、
《お前、アルヴィスなんて名前があんのか?》
《『様』を付け加えなさいこのアブラムシ!》
と云う会話を経て、コイツの名前は『アルヴィス』と云う事でどうやら間違いは無さそうだ、と、一応の確定を試みたのだったが…先程、そんなアルヴィスが云っていた様に『コイツ…何か胡散臭い』と彼女も俺も思っている、もう一人の惑星の現身らしい駄女神ことナタリアの行動と彼女が持っている書式に仕組まれている魔術の解析、転移してきた五人との会話のやり取り等で情報を集めている、その、もう少しで情報が揃うかなぁ…と云うタイミングで、駄女神ナタリアが、踵を返して此方へとやって来たのである…
「じゃー、このダーツを…」
駄女神ナタリアが、虚空から投矢を取り出すと、彼女はそれを俺に手渡してくる…
「あすこに向かってぇー…」
俺と彼女が対面している白いカウンターと白い座席…それだけではない、全てがぼんやりと明るい白に覆われた世界の中で、彼女が軽く手を振る所作を行うと不意にそれは出現したのである。
「投擲すると良いっすよぉ~。」
何て云うのだろうなぁ…
突然虚空から超でかいモニターが出現したのである。
それは円盤状で回転している…
「あの円内に当ててくださいっすぅー…因みに、あの円内から外れた場合、一番悲惨な転生になるから、気合入れて下さいっすぅ~!」
」
いきなりな展開だな…おい。
覚悟、決めるしかねぇのか…
「あくしてくださいよぉ~、予定詰まってんすよぉ~。」
その時、もう一人の惑星の現身であり、こちらは味方陣営であり、口は悪いが頼れる参謀であるアルヴィスが…
《よし、今よ、エグイ術式に穴を開けてやったから…そのダーツを投げなさい!早くっ!》
突然の決断を迫られた!
おい、安兵衛急いで戻って来いっ!
ゲルファウストは…意識だけを飛ばしたから大丈夫だな。
大丈夫かな、俺、プレッシャーに極端に弱いんだよなぁ…
えーい、儘よ!
俺は手渡された投矢を手にそれをぶん投げた!
やべぇ、最後の瞬間に指に引っ掛かった…
動揺してしまい、派手にすっ転んでしまった!
いててててててて…
投げたダーツは…
モニターの回転している円盤にすら届かずに…
地面に突き刺さった…
ヤバいぞ…あの駄女神が云っていた「一番悲惨な転生」の語句が頭を過る…俺、やっちゃいましたな…これは…
あの駄女神がどっから取り出したのか、笛を取り出して吹いた、あの学校とかの体育の授業とかで良くあるタイプの奴だ…これ…この笛って…異世界でも有るの?
「ピィーーーーーーーーーーっ!」
何かあの駄女神が途端に日本のお笑い軍団のガダルカナル…何とか云う人に見えてきた…ってか、そんな悠長な事は言って居られないのだがなぁ…
「はぁーい、しゅぅーーーーりょぉーーーー!」
と言い放ち…
「何か、適当な『微生物』へ転生ーーー!」
と言葉を続けて…
俺の意識が暗転して行くのだが…
《ちょ…アンタ、微生物なんてなにチョイスしてくれてんのよっ!アタシがアンタの内面に存在している時にそんなもん選んでんなぁ~~~この、はげえぇえぇえぇえぇ~~~~~~!》
ゼンデレ女ことアルヴィスが発狂せんばかりの怒号を上げているのを最後に、俺の意識は完璧に途絶して行った…




