お約束みたいな白い部屋
…
……
………
未だ瞼の裏側にまで光が刺すが。
大分、光量もまともになってきた。
だけどもなぁ、迂闊な事はできねぇど。
何せ、転移魔法と云う奴だからなぁ。
転移先にどんな危険が有るかなんて、一切予測できない。
ほら、娑婆の社会でも、最近やたらとうるさいだろ?
KY、危険予測だとか云うスカシた様な新しい考え方。
日本の株が強くって、皆が夢を見ていた頃がプラザ合意とかで終焉して、長い逼塞の20年~30年を経て旧体制の扉の奥へ消えて行って…
「どうも、緩やかな不景気とやらは、終わらないらしいよ?」
って、皆がようやく実感し始めた頃から、急速に世の中に浸透してきた怪しい奴。
ISOだとかも、そうかな?
どうも、胡散臭く感じてしまうあれだよ。
どっかでこれを考え出した奴に金が流れ込んで居るんだろうなー、だとか、これを生み出して、皆が標準化で出した知恵・技術を一か所に集まった場所で、それを実に効率良く
―――蜂の巣から蜜を取り出すみたいにして―――
盗み出している気がするんだよな…って感じる、そんな胡散臭さ、そんな風に感じているのは、果たして俺だけなのだろかなぁ?
日本の最大手の自動車メーカーとか、ISOを受け付けないのは、その辺の不信感が有るんだろうなぁ、と、漠然と俺なんかは予測している。
思考が逸れた。
…そうだ、あの恒星の超新星爆発を何とか遣り過ごそうと無我夢中ん時に、眼を閉じているのに、見えたあの現象が有るじゃないか!
あれ、どうやったんだっけ?
よう、カウス・フォン・ゲルファウストよ、元宮廷魔術師の隠者じぃさん、あれ、どうやったか覚えとる?
ってか、あの視界が変わったのってお前がやったろ、多分。
おかしいと思ったんだよなー、だって眼を瞑ってても、見えるんだもん。
俺が何か新しいスキルか何かに目覚めたのかと思ったけどもさ、違うよな、良く考えてみたら何かお前の魔素の気配感じたんだよね、後んなって冷静に思い返してみるとさ。
《 お主があの大規模魔術を発動した時にのぅ…
『ヤバい、此の儘では今のワシはお主に吸収されているが故に、お主が眩しくて全然目が見えぬ、と目を瞑ったままでいると、お主と視界や五感を共有しておるワシの格好の知的関心の対象、
──太陽神の終焉の姿…それは余りにも畏れ多く、そして悼ましい出来事とは云え、それもまた世界の真理の一端…──
それを目の前にしておいて、見ることが出来ぬやも知れぬ、それをむざむざ見えぬなぞ、英知の探求たる者の許される事では無い』
と、おもうてのぅ、人間の、いや、大体の生き物が用いる、目に見える光を用いて遍く世界の物の像を結ばせて『見る』のとは、少し違う物の見え方の魔法を…つまり、わしが扶助魔法をお主に掛けてみたのじゃ。
普通に魔法が成立したの。
斯様な、お主に吸収されている状態でものぅ、問題無く作動する所を見るに、この魔法はようく出来ておる。
この様に、吸収された状態じゃと、宿主本人・術式を掛けたわし本人・分隊全員にも視界が提供されるのじゃの、新しい発見じゃったわい…術式を編み出した人間がよっぽどに優秀と見える…まぁ、わしがつくったんじゃがの!ほっほっほっほ! 》
それ、ちょい使ってみ。
のろけの部分は完全にスルーしつつ、俺は隠者じじぃに言う。
無論俺の内面でのやり取りだ。
実際には瞬き一つする前にそれらのやり取りは完了している。
直ぐに俺は目を瞑ったまま、辺りの風景を見える様になった。
この視界は便利だ。
俺が意識を向ける方向へ、自在に視点を提供出来るのだ。
今は俺の視界は俺の後方20m、高さ10m位の位置から、俺自身を客観的に見える視点に舞い上がって見ている。
其処は一面、白い世界だった。
道理で眼を閉じていても光が瞼に入って来る、と感じた訳だな。
そうやって客観的に俺を俺後方から眺めていると、何か変な女が、こうやって客観的に自分の姿を見ていると、今となっては限り無く透明に近くなっちゃったなぁ、と感じる俺の精神体の前にやって来て、手を上げて俺の顔の近くに寄せると、ぴょんぴょん飛び跳ねながらその手をブンブン振っている。
「おーい。起きてるっすかぁー?」
初対面から、何か馬鹿っぽいな、コイツ、と。
そう思わせるに充分な女だった。
他に人間が誰も居ない様だ。
一面が白い空間…
視線を地平線に向けても、一面白い故に、奥行きだとか一切判らねーぞこれ。
真冬の北海道のホワイトアウト、いや、それよりも真っ白だぞ。
別に、雪が降っている訳じゃない。
光源らしき物が見当たらないのに、一面真っ白で明るい。
この空間、どうなってんだろ?
『名前の無い者』の居た空間も不思議だったがな…
此処も相当なもんだぞ。
…
……
………
「~そんでぇー、あぁーしがこの惑星をたんとぉーする、女神っていうわけっすよ。」
「あ、これ、職員証っす。」
自称女神、こいつはそう言って胸にかけられたカードを見せてきた。
青い紐で首からぶら下げている。
ナニコノヒト…
日本にも良く居そうな、このまま街中歩いてそうな、いわゆる所の…
市役所とかで働いてて、でも若くて意識高い系の女が取り敢えず職場の煩い上司とかも居るし、仕方が無く無難な線に妥協入れた感じの服装である。
そんな恰好で「女神」とかいきなり自称されてもさ、説得力がねーし、あとその、自分を指す一人称が、「あぁーし」だとか、頭悪いでしょ、あれか、ギャル崩れかっ!ギャル崩れなのか貴様ぁー。
…
……
………
自称、「女神」を憚りなく僭称するその女は、やがて、俺をデスクのある場所へと誘導し、向かい側に座ると俺を転生者と認定する書式にサインを求めた。
白いデスクに、白い紙きれ…
目に染みるなぁ。
うっかりすると、紙だか机だか、その境界すら怪しくなってくる。
あの隠者の掛けてくれた魔法の視界を解いたのは不味かったかなー。
見ずらいわ、この世界。
俺がその「転生者認定書式Ⅰ型」と書かれただけの、残りは膨大なる白紙の海の紙切れにサインし終えた瞬間、その膨大な白紙に俺の諸情報が浮かび出した。
おー。
何か凄いなこれ。
今や俺についての情報がみっちりと書かれているその「転生者認定書式Ⅰ型」だが、俺が異世界へ赴いた経緯とかが、何か実際の俺の体験と違っていて、
──ブラックホールに落ちました、はい。──
その部分は「土木作業中にダンプに跳ねられた」となっているし、異世界へ来てからの情報については一切書かれて居なかった。
何故だろうなぁ?
《これから『名前の無い者』に依頼された仕事をこなすなら、当然その辺は隠して置いた方が良いに決まってるじゃない、あんた、馬鹿なの?先方に訝しがられない範囲で、私が改竄しておいた。》
無機質から有機物へと変わった惑星おんな…
そいつが不意に、頭の中に出てきた。
そうだな、確かにそうだ。
そこは話を合わせて置こう。
ありがとうな、お前、使えるじゃねーか!
《な…かっ、勘違い、しないでよねっ!》
《別にお前の為じゃねーしっ!》
《『名前の無い者』ちゃんの為だしっ!》
ツンデレ?
いや、違うな。
「善行に対する照れ」
『善照れ』
とでも名付けよう。
新しい言葉が必要だ。
ゼンデレ女…
…
……
………
やがて、自称女神、そいつは転移カウンセラー的な立場からのアドバイスみたいな感じで話し始めて、「初めての転移」等と云う小冊子を此方に手渡しつつ…
「それでぇー、えぇーと、何だったかな…うん。」
名前が思い出せないらしい。
「ディっちさぁー、あんたは、あぁーし的にぃー…」
ウォーディセンだから、ディっちねー。
「かんきょーじゅんかんてんせぇーこぉーすだっけか?」
首を傾げている。
バカっぽい癖に何か可愛らしい。
環境循環転生コース???
何その転生システム。
「ってかさー、『善行』も、『悪行』もさ、あんたのばあぃ、一切ふめいなんだよねぇー、こっちとしてもさぁー、そんな人間に、ボーナスだとか無理なわけじゃん?環境循環転生コース一択っしょ。」
ん?
そうか。
確かに、あの書式には、俺の善行だとか、悪行だとかが一切書かれていなかった。
これはあれか?
俺が本体の分身体って言う、特殊な例だからかな?
しかし、環境循環転生コースねぇ…どんなシステムなんだろ?
「詳しくは、そのパンフみといてよ。あぁーしぃ、他の客来たみたいだからこれでぇー。」
そう言って自称女神が視線を向けた先には…
いつの間にやら五人の男女が居て、この状況が理解出来ない、とばかりに、辺りを見回したり、お互いを見合ったりしていた。
そんな中、なんだか冷静に此方を見ている奴も居て、…あれは俺を見てるのかな、何か学生服を来た男子高生かなぁ?ボサボサのやや収まりの悪い髪の毛の隙間から、何かやたらと俺を見ている、そんな気がするのだが、…その一団へと向かって、自称女神は俺に対しての今までの態度、それをコロッと180℃変化させて、彼等に向かって優雅に会釈をする。
なんだその変化!!
客の居ないキャバクラで、女の子たちが暇そうに携帯弄くり回してる感じから、そっから不意にお金持ちの太い客が来た時の豹変ぶりを思い出すよな。
眼の色も何か違うぞ、きらっきらしておるやんか!
俺の前だと、お城のお堀の濁った緑色の水に反射したぬるっとした照り返しみたいに…なんか生臭く臭いそうな感じだったのに…
そうしてから、優雅に彼等の元へと歩み出した。
突然、訳の分からない場所へと移動してしまいさぞや混乱しているであろう、その5人へと声が聞こえるであろう距離へと近づくと、先程、俺と話していた時の声音
──不機嫌な時の野良猫みたいな低めな声──
とは打って変わった、初対面なら誰もが好感を抱いてしまうのではないのかなその声は、って感じのそれっぽい声音で以って、彼等に声を掛けたのである。
「ようこそ、おいで下さいました、転生勇者候補生の皆さま方、私あなた様方がこれから先、訪れるであろう惑星──コルネリウス──を管理しております、ナタリアと申します。」
…へー。
この態度をコロコロ変えるリトマス試験紙女、ナタリアって名前なのか。
俺は、俺がナタリアに今までぞんざいに扱われていたのだと、ようやく理解した。
??}( ˙-˙) ฅ(*¯ㅿ¯*ฅ){ォ"ァ"ー!
こ }Σ(๑°ㅁ°๑)
こ }Σ( °-° )
は }Σ(⊙_⊙) ฅ(๑ÒωÓ๑)ฅ{ニャーン♪
ど }Σ( °_°)!
こ }Σ(๑°⌓°๑)
Σ(°ᗝ°){そうか、これが格差社会…




