パンツァー・カイルの関東軍(どくだん)
「ぃゃぁ…しかし、それにしても久し振りだよなー、お前、無事だったんだなぁ、うんうん、良かった良かった!心配していたんだぞぉー?」
間違い無い。
この太々(ふてぶて)しくも、心にもない「心配していた」だなんて事を心の底から云っている様に見せる「いけしゃあしゃあ」とした感じは間違いなく、俺である。
…
……
お、お前、どうやって此処に居んだ?
「えっ、何て言うかなー、何かいきなりお前の声が聞こえて、今何か視界だけ変な感じになってるー。」
ふぅん。
現実世界の中で、突然今視界が俺側になった感じかな?
それ、大丈夫なの?
運転中とかヤバくないの?
「んー、なんかさー、俺今小説書いてんだよねー、んで、その小説書いてる時だけらしいよ、どうもさー、視界が変わるのが。不思議不思議ぃー!」
大丈夫そうだな。
おい、俺、それは今視界がこっち側に来ているって事だな?
回りの風景まで判るって事は、だ。
当然、これも見えてんだろ?
ちょっとこれ投げるイメージやってみ。
俺は件の重力魔法で作ったボール(砂製)をかえり見ながら俺に指示を出してみる。
すると、ボールは宙に浮きあがり、野球少年の俺が辿り着いた回転の究極系ストレートの軌道を見事に再現させて、あの切り立ったでっかい岩壁の一つに着弾して爆砕した。
クレーターの出来具合、大きさも概ね同じ規模である。
ど…
どしたんだおめっ!(某俳優の優作さん風に)
召喚していきなりそのスペックか?
「んー、なんつーかさぁ、お前が作った何人かの分隊が居るじゃん、その内の野球少年から、情報が流れて来るんだよな。お前らの試行錯誤して辿り着いた、変化球の向こう側的なあれの投げ方、力の入れ具合なんかがさ。もしかしたらば、俺たちってさ、高度な情報の共有化が図られていないかな?」
…うん。
そうだな、確かに尤もだ。
おーい、分隊ちょっといーか?
お前らそれぞれ、お前ら本人以外の他のメンバーの事どんだけ知ってっか話してみ?
「僕以外の人の話かー。えーと…オカマの人はさぁ、俺が、実は本人は同性愛とか全くその気が無いのに、テレビとか見てそんな感じなのかなーってノリで以前ネットで演じたネタキャラがそのまんま成立しちゃった印象の、そんな分隊さんだよねー。で、武闘派の人は、本人ヤクザとかじゃないのに、刑務所とか入った事もないのに、テレビとか小説とか映画とかで見たヤクザの印象と、学生時代のそっち関係の友人とつるんでいた頃の記憶とかを色々と混ぜ合わせた感じの分隊。僕、あーゆーのは怖いなー。引き籠りさんのキャラは、本人が普段落ち込みがちの時に抱く思いと、十代にカリスマ的な人気を誇ってて、早逝しちゃった某ロック歌手がライヴん時のMCとかで云いそうな感じの声の出し方で演じる、彼を真似したお笑い芸人さんとのイメージの融合で出来上がった分隊さんかなー…そんな印象だよ。」
おお、野球少年よ。
的を得ている。
「野球少年ボーイちゃんはねっ、あの頃の本体のコンプレックスが強いわよねっ☆髪の毛を伸ばせなかったから、その反動で以降は野球辞めてから物凄く伸ばしまくっていたものねー☆あとは、昔を懐かしんだ郷愁も入り組んでいるわ☆駄菓子屋で豪遊して、火薬のピストル玩具を住宅街で鳴らしまくって自転車をパトカー気分で乗りこなして演じた刑事ドラマだとか、当時を懐かしんで戻れないから、イメージの中で、少しファンタジーな『なんちゃら丁目の夕日』的に昇華させた世界観の中で成立した分隊ちゃんよねっ☆武闘派ちゃんはね、野球少年ボーイが云っていたみたいに、メディアが見せていた画面の向こう側のアウトサイドなキャラを、色々と混ぜながら、やんちゃだった時代の己の体験や感性をそれに付与した感じの分隊ちゃん☆中でもとある作家さん…『なんちゃら板谷』さんの影響が表面に比較的強く出ている、そんな印象っ☆うふっ!かぁ~わいぃ~んだ・か・ら☆引き籠りボーイちゃんはね、野球少年ちゃんも言っていた様な雰囲気だけども、そこに更に本体の社会に対しての不満や、少しだけゲーテちゃんの影響を受けているわ~☆」
…オカマ、
分析力高くないか?
「オカマってぇーのはよ、新宿の通りの一本裏側でよ、そっから、人間の裏側見てんだよな、ある意味、俺等に近いんだ。俺等もよ、裏側みてっからよ、判んだよなー、そうして俺達みたいなもんはよ、世間一般の方々に、一夜の非現実を提供するんだわ。夜店だったり、興行でよ、一夜のそれは綺麗な夢だよな、まるでよ、俺等やそんな裏側の人間はよ、例えたら、『祭りの縁日の店』みたいな存在なんだよな。世間様の片隅でよ、確かに存在していて、夜を賑わすんだよな。そんで、一夜明けたら、広げた風呂敷きっちり片付けてよ、まるで、昨日までの幻想的な景色が夢みたいに…そう、キツネかタヌキにでも化かされたみたいに消えちまう。砂漠に雨季が来て、嘘みたいに花や草が賑わって色とりどりに賑わっても、雨季が終われば砂漠に戻る、忽然とな。俺達はそんな『一夜の夢』を、次の街でまた、演じるんだよ。野球ばっかやってたらつまんねーそボーヤ、ほら、りんご飴と焼き蕎麦だ、食えよ、そうして俺らの祭りにたまには来てみろや、大人んなったらな!おい、引き籠り、おめーさんだってよ、そんなお天道様嫌なら、お月様信じてみねぇかな?お月様は、お天道様なんかと違ってよ、野暮な所がねぇんだよ。隠したいもんはよ、そのまんま隠しといて、それで俺達を照らしてくれんだ、誰もが持ってる、隠したい事、隠したまんまでいーんだよ。そんなもんは夜の世界じゃー、誰も聞かねーよ。」
武闘派…
上手く纏めやがった。
「僕が生きている今現在の世の中の有り様は、何ら戦国時代と変わらないのさ、隙を見せれば付け込まれ、何らかの『精神的な領土』の覇権争いに余念がなくて、それはさ、確かにその争いで死にはしないさ、物理的な領土だってそもそも無いのだから失いはしないさ、けれども内面は戦国時代と何ら変わらないしゃぁないか、精神的な領土を蚕食されるのはさ、まるで魂をレイプされているに等しいんだよ!俺はそんなあれやらこれやらが嫌になってしまった厭世感を、野球少年で癒そうとしているのさ。現実逃避のあらわれなのさ、昭和の古き良きファンタジー、甘美なる追憶だよね。夏休みにやる、午後2時の刑事ドラマ、ピストルやらダイナマイトやらカーアクションやらが飽和していて、あれ、面白いもんでさ、カーアクションのクライマックスで爆発する場面だとかダイナマイト爆発するシーンなんてさ、もぅ、明らかに『ここなら爆発させても大丈夫だ』って場所に移動しちゃっているんだよね、採石場だとかに。んで、そんな刑事ドラマ見て影響受けて熱くなっちゃった子供達は、『鉄は熱いうちに叩け』的な事を本能で知っているのか、その情熱を抱いてさ、熱いまんまで自転車乗って駄菓子屋で火薬ピストル買ってきて、自転車だって頭の中ではテレビで見た立派なパトカーで、そんなイメージで刑事ドラマごっこに興じて、んで、そんな子供達の中に、昔はノリが良いご近所の陽気なおじちゃんやら、おにぃーちゃんやらおねぇーちゃんが飛び入り参加して来て、野球少年がピストル火薬で撃ったらば、それはもう迫真の演技で倒れたり、某優作さんの名台詞、『な、なんぢゃぁ~こりゃぁ~!』なんて絶叫したりさ、もぅ、ノリノリだったよね。今の世の中で、これ、出来ると思うかぃ?出来ないよ、他人の家庭の敷地なんて関係無しに犯人役は逃げて、当然、刑事役だってそれを追い掛けて…昔はそれで苦情なんかやって来る野暮な家庭なんて無かったさ。今の社会でこれ、同じ事をやったとするならば、忽ちの内に大問題になっちゃって、ご近所から苦情が来ちゃって、遊んでいた子供の家庭はさ、『村八分』扱いに違いないのさ。野球少年は俺のそんな部分さ、そんな今現在の世の中に対しての厭世感の負の結晶なのさ、その負の結晶をさ、個性的で魅力的なキャラクターへと昇華した格好に見えるのさ…他の分隊だってさ、大同小異と、紙一重に似通っているのさ、だって、他の分隊達もさ、そのキャラクターが出来上がった根底には、『俺の厭世感から来る現実逃避の思考』が根本に在るのだから。オカマさんは、あれだよね、俺が、やっぱり、世の中嫌んなって、そんなときに『戦場のメリークリスマス』だとかを見ていて、男性同士のキスだとかを見て、何処か遠く漠然と、愛って概念に迷走して、結果、どうでもよくなって、半ば破れかぶれな心持ちで女性を演じてチャットをやっていた時のある種の開放感、それなんかが源泉に組み込まれている。ヤクザさんは、僕が云う前に皆が散々云ってきている様に、俺の学生時代のワイルドサイドな友人達とつるんでいた頃の、世の中が嫌で嫌で、『出鱈目で束の間の刹那的な自由』に酔っていた頃への思い出と、それと小説や映画や漫画…あらゆるメディアから掻い摘んできたワイルドサイドの方々(かたがた)のイメージと、あと俺の何だか少し詩人みたいなセンスとの融合部分も見える気がするんだよ、僕は。ほら、ヤクザさんが云っている『一夜の夢』的なさっきの言葉には、詩人的なエッセンスが多分に有るだろう?」
引きこもり…
こ、こいつ…侮れねー!
…
……
………
【side本体】
嗚呼、今のやり取りで気が付いたわ。
生き物と云う名の点の連続たる線、それは毛糸玉みたいにコロコロと毎日転がってって…他の生き物の毛糸玉とぶつかって、そうやって目まぐるしく、
───世界全体を俯瞰して見られる視点で見たとしたらば、眩暈覚える位の果てしない回数、果てしの無い事象の連続できっと他の生き物と接触・衝突を繰り返して、───
交点を描く。
互いに結びついたり、それと良く似通ってはいるけれども、こんがらがって拗れたりもする。
二つの糸のこんがらがりを直そうとして切っちゃったり、中には単独でこじれちゃって、切っちゃったりする奴等もいる。
交点を描く度に、和音だか、雑音だかを発する事もある。
その音の正体はつまりは、『影響』だろうな。
それは精神的な、遺伝子だろう。
肉体的ではない、精神的な二重螺旋だ。
生き物は、他の生き物たちと目まぐるしく接触・衝突して、互いの影響を交換し合っているのだろう。
そうして接触して他の生き物から得た影響、さながら、『撒かれた種子』は、或る日、唐突に発芽して、その触れた生き物の能力となるのだろうな。
己と云う存在の内面に存在している、それは『土地』であって、その土地──『内面』──が変化し続け熟成して、耕作地に適した状態になったある日に於いてそれ等は『発芽』するのであろう。
耕作に適さない内は発芽しない一見すると『弱い種子』、雑木林みたいな場所でも容易く発芽し繁茂する一見すると『強い種子』、それは実に様々なのだろうなぁ。
インフルエンス=影響であり、
インフルエンス=能力であり。
そうやって発芽したインフルエンスは、やがて育ちて花を咲かせて種子を結実させ、その生き物が別の生き物と接触した際に、その軌跡を相手の精神的な遺伝子に刻むのだ。
つまり、今度はそんな己の内面に撒かれた種子を、別の相手に無意識に『撒いて』いるのかも知れない。
それが発芽するのかも知れない、あるいは発芽しないのかも知れない。
けれども、それが必要であるからだろう。
生き物たちは、他の生き物たちと接触を止める事は無い。
もし仮に私が生まれた時から誰とも接しない環境を手に入れており、だけれども、糧秣を一切必要とせず生存が可能である生物だったと仮定したらばどうなっていただろうか?
世界観が他の生き物と余りに掛け離れてしまい、違い過ぎる、互換性が無く、言葉を紡ぎ出す事も出来ぬ野蛮人以下の出来上がりであろう。
そんな奴にならなくて良かった。
インフルエンスは、必要な事象だ。
こうして他の私の分身を見てみるに、他の様々な人間から実に多くの影響を私が受けてきて、そうして能力として、開花しているのを理解した。
私は、果たして、他の誰かに影響を残しているだろうかなぁ?
…
……
………
しかし、それにしても、いきなり視界が切り替わってびっくりしたよ。
これは、あれかな?
現実世界に今居る、今も存在している俺は俺で有るけれども、また、同時にブラックホールに落ちた世界へ行ってしまった複数の分隊も全体に対等に存在しているのだから、分隊が本体を必要とした時には何かが繋がって共有・協力すると言う、そんな緊密な同盟関係なのかな?
ブラックホール→ 謎の姿が見えない特異点の主→ 現在惑星で色々やってる…
その情報が一瞬で俺に伝わって来たんだよな。
そうかそうか、これで俺は俺の儘で、分隊の世界へと参加可能になった訳だよな。
これはちょっと、他の人間には無い、そんな特別な体験なのじゃないかな?
深淵を見つめ続けた結果、
深淵の世界を認識出来たのかな?
ニーチェさん。
俺、やったよ!
…
……
………
よー、俺、そんななら、大体は事情判ってんだろ?
お前さ、正面視界を担当しろよ。
一人じゃ大変だと思うからさ、更にお前の下にお前が20人居るイメージだよ。
お前はそれで動かないで、20人が偵察してきた視界情報の中で重要そうな奴を俺に提供してくれ。
判るな?
「べつにさー、そんななら俺の分身20人とか必要無くない?お前も判ってんじゃぁーん、俺の脳内記憶領域の低さ。ドイツ装甲集団の戦車一両当たりエリート戦車兵五人一組のさー、都合20両100人体制で俺はやってみるよ。ってかもう既にイメージ出来ちゃったよ。そんで何かヤバそうなヤツ居たら脅威度と緊急性に応じてさー、報告か反撃か、その判断は20人居る戦車長の判断に任せる事にするよ。あれだよ、『威力偵察』ってイメージだよ、判るだろ?こっちぁー既に準備は良いぞ!『パンツァー・カイル』っ!集中せよ!散会せよ!そんな電撃戦で行こうぜ!」
…俺、テンション高くね?
その上がったテンションにつられて、何かスペックも五人中最高兵力だし。
ってか、戦車だし。
お前、判ってんの!?
威力偵察だとか電撃戦だとか…お前の脳内、今明らかにアイツだろ!?
ハインツ・グデーリアン。
お前今明らかにそのイメージとテンションになっちゃっているだろ!
…回想録上下巻持っていたもんな、こないだ生活に苦しんで売っ払っていたけども。
【空間認識】を発動するには音の速さだぞ。
電撃戦とかは要らないからな!
光の速さとか、それ、未だ今後の課題だからっ!
「大丈夫だってぇー、戦車だけども、音の速さで偵察するんだろ?場合によっては威力偵察になるけどもなー。オッケーオッケー。問題なしっ!」
…ほんと、大丈夫なのかなコイツ。
一抹の不安が尽きない。
馬鹿だからなー、こいつ。
うし。
やってみるぞ!
おまえらー
配置につけー
やるぞー!
…
……
………
俺は俺の分隊が配置につき、既にこの実験への準備が整った事を理解した。
俺は目を瞑る。
俺の分隊達が提供する視界情報に集中する為だ。
よし、はじめっ!
…魔素が循環する気配に満ちる。
今まで魔法を使ってきて、今回が一番でかいな、腹の中で何かがグルグルと回っている感じが。
分隊はそれぞれが隷下の約20名前後、本体のみ、20両の戦車である。
正面・右・左・後・次元、分担されたおのおのが、分隊の更に分隊達20名(両)に命じて今視界を偵察する為に音の速さで散開している事だろう…
右側面、地上、特に報告無し、地下、異常なし!
武闘派の俺の返答。
次いで俺に奴等が編集した視界が提供されてきて見えてくる。
よし、良いぞ。
この構想、正解だわ。
左側面は地上も地下にも、特に変わったモノはなかったわぁーん☆
オカマの情報。
次いで、視界が見える。
後ろはねー、地上も地下にも特に何も無かったよー。
野球少年の報告。
次いで、視界が見えた。
次元を超えて君に干渉しようとする下品な輩は今の所は見当たらないかなぁ…しかしね、見えないモノを見ようとする誤解について…(略
引き籠りの解説。
ついで、何か見ていてイライラしてくる様なグネグネと曲がる視界が提供されてきた。
…これ、慣れなきゃ駄目か?
そして、本体の暴走!
正面、地下に異常無しっ!地上前面凡そ300米先、切り立った岩場の奥、空洞有り、空洞迄の岩壁厚さ、概ね5米、中に生体反応は無し、ただし精神体の反応を認める!空洞への通路を確保する!戦車20両全号、徹甲弾、撃てぇー!
ちょ…ちょまー…!
ズッッドドドドドドドドドドドドドーーーン!!!
…俺、何してくれてんだこの馬鹿っ!
しかし、空洞内に生体反応無しは当たり前だけどもな。
そもそも、この惑星、無人って『名前の無い者』が言っていたじゃないか。
しかし、それにも関わらず…問題は、精神体の反応があった事だ。
あの野郎、もしかしたら、謀りやがったのか!?
ピコーン!
<個体名称、ヲヂサンのスキル【ゲシュタルト思考】の…(略 >
な、なんだってぇー!?
正解だ。
生命体は居なかったが、精神体、つまり俺の仲間みたいな種類が居やがっただとぅ!?
(メò_ó)異常なしっ!
('∇')異常ないわぁーん♪
(*'ω'*)異常ないよー。
( ´・֊・` )異常…ない。だけども…(略
ファイェル!(っò_ó)▄︻┻┳═一 ‐
ちょ…ま!(⊙⊙)




