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ただ、おっさんが夢の中でどっかに旅立ってしまう、世間的には需要が皆無なお話  作者: 加工豚(かこうとん)
【第一章】限り無く透明に近いをぢさん
20/50

【side恒星君】ep1



【side恒星君】



奴等(やつら)は必ず来るだろう、ご苦労な事だな。

()ず、それを知っている事がこの際、有利だ。

奴等(やつら)は攻撃に成功して勝利し、目的を果たしたと思い込んでいる。

50年の間、あ奴等は気付かなんだ。

何とも間の抜けた(はなし)ではないか!


だが、実はあ奴等(やつら)の闘争の目的は未だに達成されていない。

未だ気が付いていないのだ…あの間抜けどもが!

あの日、私が不覚をとり、あ奴等(やつら)の内の一体がしてやったり、手に入れたりと、そう信じ、奴等の首魁(しゅかい)殊勲(しゅくん)(あかし)として渡していたであろう、(わたし)(コア)は、あれは偽装である。


細心の注意を払って作り上げ、見た目も何もかも、すっかりと似せて作り上げたそれ、手に入れて吸収した相手は、感覚的に普通の(コア)を吸収した感覚を覚え、確かに力も増す筈である。


ましてや、(わたし)(コア)ともなれば、それ相応(そうおう)にその存在としての気配が高まる筈なのは疑い無い。


しかしながら、それはあくまでも複製(コピー)であり、(わたし)(コア)は実は、あの時、恒星(わたし)自身の(ほし)の中心部に隠して置いたのである。


そして、それは、(わたし)自身のコアの代わりに、本体コアからの力の源を遠隔から伝達する、いわば、極めて高等なる魔道具であり、私は己のコアのふりをしてそれを埋め込んでいたのである。






それは幻想級(ファンタズマクラス)の魔道具であった。

私はそれを共に作り上げた、とある人間族(ヒューマン)の隠者を思い出した。


世俗的な人間らしき欲望を全て枯らしたかのような、それでいて、好々(こうこうや)然としており、さながら仙人の様な変り者であった。


しかし、枯れて尚、叡知(えいち)への探究心を損なわず、いや、むしろ、それのみを突兀(とっこつ)させたようでいて、一度(ひとたび)叡知の片鱗、その気配に触れるやいなや、鋭い刃物の如き鬼気迫る気配を放ってそれを視続け、また、目だけでは無い部分でも視続けている様な男であった。


この魔道具が完成した際に、この男は行く末を見据えたかのような、それでいて、憑き物が落ちたかのような顔付きで、此方(こちら)を見据えて…





「神様の(いくさ)の、その道具を作る事になるとは、おもわなんだ。やれ、あなた様も、その行く末は短いだろうて、何をお急ぎなさいまするのかや?はて、不思議だのぅ…」





私の韜晦(とうかい)(むな)しく、私の正体を看破(かんぱ)していた様な、もしかしたらば、私と彼との初めての邂逅(かいこう)の時から、既に知っていたかのような、そんな口振りで(うそぶ)いてみせたのである。


翌日、彼の男は、忽然と姿を消した。

不思議な男であったな。






こうしてこの魔道具は完成をみた。

もしも(わたし)魔道具(それ)を抜かれてしまっても、(わたし)は仮死状態となり、恒星(わたし)の中心部へと転送され、そのまま意識が戻るまでの間眠り続けるのである。


そして、(わたし)が意識を取り戻した時に、恒星(わたし)の中心部に隠してあったコアは、(わたし)の中に自動的に入り込む。


そのタイミングで、魔道具(ダミー)への力の供給は失われてしまうのだから、当然、(わたし)が目覚めれば、あ奴等に、その私の策謀(さくぼう)(すなわ)ち、私を討ち取った事は擬態(ぎたい)であると知られることになるのだが、時既に遅く、あ奴等はまんまとしてやられたと言う格好になる次第であるな。


初見(しょけん)の相手だ。

敵にどの様な戦術・戦略の引き出しがあるか判らぬのだから、当然ながら慎重策に出ていた次第である。





あの日、恒星(わたし)の周囲を哨戒していた私の分身、それが対応するには(いささ)か酷な数の悪魔が一斉に攻め寄せた。


戦術的には飽和攻撃(ほうわこうげき)に類する攻勢。


それと同時に、どう考えても敵意が感じられない、脅威としても小さい、そんな小さな隕石が恒星(わたし)へ向かって引き寄せられていた。


私の分身は、悪魔への対応を優先させて、その小さな隕石を脅威とは視ていなかった。




だが、しかし、その隕石はその内部に、恒星(わたし)恒星(わたし)の内部で行っている鼓動──


魔素同士を反応させて、大量の燃料となる魔素を生み出す物質が繰り返し産み出されるサイクルの膨大な熱分裂魔素の奔流(ほんりゅう)


──の源泉(げんせん)となっている物質の塊であったのだ。




恒星(わたし)の内部でそれが起こる分には、ほぼ問題がない。

しかし、恒星(わたし)の表層にて、これが反応して熱分裂魔素の奔流(ほんりゅう)惹起(じゃっき)された場合は、これは大変な事になってしまうのだ。


恒星(わたし)は若くは無かった。

その余命は尽きかけており、赤く、巨大化していたのである。

鼓動は只でさえ、不安定になっていた。


そこへあれが来てしまったのだ。


恒星(わたし)の状態はそのまま(わたし)へ反映されてしまう。

その逆もまた、然りだ。


(わたし)恒星(わたし)の鼓動の上昇が通常の健常なそれではない、正気ではないレベルの奔流により、普段の動きが不可能となり、そこへあ奴等(あくま)族がやってきて、その内の一体が首尾良(しゅびよ)く私を討ち取った──無論、それは私の擬態(ぎたい)ではあったのだが──のである。


あの様に智略(ちりゃく)切れる策謀(さくぼう)を巡らせる敵…

今私は漠然と、その敵の正体を洞察していた。





その様な敵の戦術の前に私は不覚をとり…

50年の間眠り続けていた。

そして、惑星研修(わくせいけんしゅう)から帰宅した惑星(かのじょ)からの激しい混乱、動揺の意思を感じて目覚め、活動を再開したと云う次第である。


ともかくも…

これで偽物をむざむざと掴まされたあ奴等が、それと気が付いて此方に返り着く迄の間に、あ奴等が犯した間抜けの代償時間に出来る事を色々と画策する時間が稼げた。

そして、あ奴等が再び攻勢に及んだ時に、タイミングを測って、その罠のバネを弾くのだ。









……

………


昔は闘争の前はより激しく高揚した。

己の恒星風(みゃくどう)に煽られて、恒星(わたし)上空に滞空している時に、危うく姿勢を崩す事がしばしばであったものである。

恒星風(みゃくどう)では飽き足らずに、しばしば激情(コロナ)に囚われていた頃もあった。

若いとは、畢竟(ひっきょう)そう云ったものだ。


初めて戦った時は、己の生命・存在そう云った、私を構成する、その全てが総動員で以って、私自身の身を自ら燃やすかのような、そんなどうしようもない、胸の奥がむず痒い高揚感に包まれたものだ。

死と云う物は、私のすぐ隣にあり、また、同時に、生も隣人であった頃の物語り。

どうも、あの頃の方が、それら、「生きていると云う、まさにその事について」を鮮明に感じられた様な気がする…


恒星風(みゃくはく)と云う物は、(かみ)も、肉の箱達(いきもの)も等しく共通するように思う。

肉の箱達も、己の命を賭博(とばく)木札(きふだ)の如くして(なげう)つ、そんな闘争(いのちのやりとり)をする際、激しくその脈拍を上昇させる。


肉の箱達の心の臓は、概ね一生涯に何回躍動するのか、その系統によってその回数がほぼ決まっている。

多少の要素


──健康に留意し、体に良いとされる食事、生活、運動等をしたか、そしてそれが()に叶っていたか──


は有るが、それは決められた範囲からは逃れられぬ運命なのだ。

肉の箱が構造的に、それ以上は保てないようになっているのである。

どうも肉の箱の中の、あの二重の螺旋(らせん)(えが)いた螺子(ネジ)、またはバネには、実はその(ことわり)(つかさど)る設計図が有る様なのだ。

そこに、(おおむ)ね何回の脈拍に体が耐えうるのか、などの(ことわり)が刻まれていると思われる。


大まかに云えば小型の肉の箱達の脈拍(それ)(おおむ)ね早く鼓動し、そしてその肉の箱が生命で居られる時間は短い傾向にあり、大型の脈拍(それ)が概ねゆっくりと鼓動し、肉の箱の生命で居られる時間は長い傾向が見られる。


闘争に際して、肉の箱達のそれら鼓動は普段以上に消費させられる。

脈拍が激しく上昇するのである。


けれども、その事が、その消費


──この際、「浪費」と云えば適当であろうか?──


が無駄には私には思えない。

肉の箱達が、強敵と対峙(たいじ)して闘争し、その己の存在全てを()して闘争する間中(あいだじゅう)、浪費されているその鼓動…その期間に於いて、しばしば肉の箱達は、「今まさに、俺は生きている」と、その心の深い部分に、その時の出来事すっかり全部を焼き付けて居る事が多いからだ。


いわば、その生命の時間を浪費しているその瞬間にこそ、肉の箱達は、生を実感できているのだ。

その存在、生きていると云う事、その期間の出来事をきっちりと、魂の中に焼き付けて居る。

私も、そうに違いないのだ。

私の恒星風(みゃくどう)は、燃える魔素同士が融合して少し重い別の魔素となり、更に燃える魔素を生み出す。

そうやって営まれているようだ。

そして、その魔素はどうも有限であるらしいのだ。




私が己の存在を木札(きふだ)として(なげう)ち、闘争する時、挑戦してくる者達に対峙する時…

私の生命、恒星風(みゃくどう)は激しく荒ぶる。

私はその時には私の生命を普段よりもよりずっと多く浪費しているのだ。

だが、私はそれを悪い事だとは、惜しい事だとは思わない。


それは肉の箱達と同じだ。

生命を浪費している、その瞬間にこそ、私は私が今生きていると云う事、存在していると云う事、そして、その時に行った闘争の一挙一動、それをすっかりと鮮明に焼き付けて居る。

(はしら)の奥深い領域に、それが鮮明に焼き付いて居ることを自覚している。

遥か昔の戦いが、まるで昨日(さくじつ)(いくさ)の如くである。

そして平時の、闘争していない平和な時間を過ごしている時の記憶は、それよりも遥かに昔の(いくさ)よりも、それがよりずっと最近の出来事であったとしても、何だか曖昧な霧に包まれがちであったりする。

柱も、肉の箱達も、どうしてその在り方に違いが在るものか。


だから、我々はきっと、命の鼓動を浪費する時にこそ、その生命が輝いているのだろう。

(まぶ)しく、眩暈(めまい)を覚える位の燃焼だ。

或る金属の粉末が、燃える為に必要な魔素と急速に反応した時に、目映(まばゆ)く青白い一瞬の光を放つ時がある。

さながら、闘争に限らず、脈拍が上昇して浪費している期間、我々はあの金属と魔素の反応の様な有様(ありさま)なのだ。

その時間は(とうと)く、(ひど)(まぶ)しく、眩暈(めまい)を覚える程に綺麗であり、果敢無(はかな)いものだ。


だが残念な事に、その酷く美しい時間…それを過ごすには邪魔になってしまう現象が起こる。

やがて、「慣れ」てしまうのだ。

初体験は初体験ではなくなって…

経験の追従(ついじゅう)の様になってしまう。


鮮明な、私が私として、今生きている、存在している、と言う実感、高揚感。

これらを感じられる時間は、生命の時間が長ければ長い程に、体験が豊富であればある程に、その生命としての終焉(しゅうえん)が近ければ近い程に、短く、浅くなってゆく。


私の生命、それは死と生が、限り無く隣人であったあの頃を既に遠く眩しく眺めるのみである…


マグネシウム、と、ドワーフ族のその王が、云っていたか?

あの金属が、粉末が、燃える為に必要な魔素と一瞬で反応した時に光る閃光(せんこう)、あの様な美しい生命の燃焼…

やがて、それを感じられる時間は浅く短くなってしまう。


なんと残酷な事であろう!

だがきっと、それが生命たる者たちの逃れられぬ(ことわり)であるに違いない。





それは私が私の身分を韜晦(とうかい)し、惑星(かのじょ)の知らぬ間に、かの世界


──惑星(かのじょ)自身、即ちその惑星の地表──


に赴き、私自らの内面にて発露(はつろ)した知的関心を発散する為の、満足を得る為の小旅行…かの世界へと(おもむ)き、そして見聞を広げていた頃に出会った王である。


惑星(かのじょ)がその身分を韜晦(とうかい)し、彼女の世界を廻ったのと同じようにして、私は私でそれを行っていたあの頃…鍛冶と酒が好きで、鍛冶の間は鬼気迫る勢いで作業をこなし、のめり込み、身も世も無いようにして集中し、やがてそれが終わると、酒盛りをして、皆と車座(くるまざ)に座り屈託無く笑いながら談笑していた、あの王よ。


彼が余興に、と、その金属の粉を持ち出し、燃える為に必要な魔素と反応させると、辺りの暗闇が一瞬、まるで昼間さながらに見え、その粉末を、私が作り上げた仮初(かりそ)めの、人間族に準じた仮の肉体で()って


──可視光線を認識して像を結ぶ視界で──


直視していた私は、暫くの間、目の奥に何か眩しい可視光線が何時までも残留しているような不思議な感覚になり、眼をしばたたかせていたのであった。


それを見て実に面白そうに、(はか)った悪戯が成功した時の童子(どうじ)の如き笑顔でもって私を眺めていた、彼のドワーフ族の王よ…

彼の心根にある、無垢(むく)なるその愛よ!

恐らくはもう、彼すら生きてはおるまい。

私は深い悔恨(かいこん)の念に囚われた。


だがしかし、私の生命としての時間を(かんが)みるにつけ、それは短い間なのだ、と、思い直した。

そう遠くない内に、彼と私は再開を果たすであろう。

その時には、私の過誤(かご)を謝罪しよう。









……

………


あ奴等の、紛れもなく、研ぎ澄まされた()

疑い無く、私はあの瞬間に敗退していた。

あ奴等の()が、私のそれを上回っていた瞬間の左証(さしょう)として私は不覚をとり、致命的な傷を、演技ではなく負ってしまった。

その事実だけで充分であろう。

敵から受けた傷が元になり、(くだん)の小惑星の反応が重なってしまい…


(わたし)のそれに反応する様にして、恒星(わたし)激情(コロナ)が更に暴発してしまった…負傷による激情はそれまでも何度か体験した物だったのだが、此度の負傷は(かつ)て無い程の深刻なる負傷であり、その時の咄嗟の判断が無かったらば、私は既に生きてはおるまい。


そして、その判断が有ったにも関わらず、私の現在も完治せぬこの負傷は、私を、私のこの命を、確実に削っている。

現在も削り続けているのだ。

私は私の生をより浪費してしまい、最早、余命幾(よめいいく)ばくも無い。


そんな負傷をおびて、私の激情(コロナ)が更に暴発する気配…

それを抑える事が叶わなかった…

それは、生理的な反応であった。

抑えたいのだが、抑える事が叶わなかったのだ。


そして、私の激情(コロナ)惑星(かのじょ)自身を焼き、地表を、そこに連なる肉の箱の物達(せいめい)を、阿鼻叫喚(あびきょうかん)地獄絵図(ぢごくえず)に叩き込んだに相違あるまい。


それに対しての贖罪は、私の死後、あの「時間の無い場所」に於いて、彼等に対して行おう。








……

………


恒星風…私は私自身の脈拍――

それを受けて飛んだ。

あ奴等の接近を感じたのだ。


恒星風に(あお)られた外套(ガウン)(ざわ)めく様にはためいた。

今尚、私の脈動を、それに牙を突き立てて貪りたい…その様な意思を秘めているかのようだ。

その昔に攻めて来た龍の、戦いの後にその皮で作られた外套である。

ぬめりとした、艶やかな暗黒龍であった。

私が倒したものだ。


私を打倒して、その(コア)を貪り、(かみ)としての位を上げたかった不逞(ふてい)なる挑戦者…その龍の名は…何と云ったかな?

ガウンが私の恒星風(みゃくどう)を受けて(あお)られ、(すそ)が私の頬を打つ。

未だに意志を持っているのだろうか?

名を、思い出せない事への、抗議。


そう、暗黒龍「ワザリング」そう云う名であったな。

堂々と、1匹で来た。

私を打倒し、その(コア)を貪り食って、恒星(わたし)に成り代わり、恒星の主として君臨し、「匹」から「柱」へと、その存在的な呼称の成り上がりを志して私に挑んできた不敬(ふけい)なる輩である。


不敬ではあったが、卑怯ではなく、その戦いぶりは、武人然とした、堂々たるものであった。

暗黒龍ワザリングの火炎放射(ブレス)をひらりひらりと躱して挑発しつつ、あともう少しで攻撃が命中する、あともう少しで、致命的な一撃を与えうる、そんな誤解を生じさせるような戦い方を展開して、暗黒龍ワザリングを、戦いに夢中にさせた。


カジノのディーラーの様に、相手を戦いに傾倒(けいとう)させて行く…惜しいと思わせ、時としてそれを信じさせるに足る様なダメージを敢えて私は受け…代わりに私は、暗黒龍ワザリングに、過小評価させるような傷、――その、翼に対して――ダメージを集中的に蓄積させ、それに気づかせずに、これはまるで勝てない賭博ではない、あと少しで勝利が叶う、と見せ掛けた。


兵とはすなわち、詭道(きどう)である。

暗黒龍ワザリングは、その賭博に夢中になった。

私がそう仕向けたのだ。


体制を立て直そうとしたのか、或いは仕切りなおそうとしたものか、暗黒龍ワザリングが姿勢を変えようと制動の素振りを見せた───


龍であれ、竜であれ、あ奴等は魔素を自在に使いこなし、空を翔ぶ。

あ奴等は翔ぶのに魔素を使っている。

しかしながら、まったく全てに於いて、その一挙動一頭足(いちきょどういちとうそく)が魔素に依存(いぞん)しきっていて、それだけで完結して飛翔(ひしょう)が成立している訳ではないのだ。

(すなわ)ち、翔ぶときには翼は必要なのである。

もしも、その翼に侮れない負傷を負っていたとするならば…

翔ぶ、或いは制動(せいどう)する、その動作に隙が生まれる。

自覚していなければ、それは尚更であり、それが戦いの最中(さなか)であった場合は、それは致命的な隙を生む。


───その時に、私は躊躇無く、全力の乾坤一擲(けんこんいってき)を放った。

両手を上げて頭上で合わせ、激しく回転しながら暗黒龍の心臓部の深く、(コア)へと突っ込んだ。

屈強な防御力を誇る龍族の、その物理的にも魔力的にも固く守られた装甲(うろこ)を、動揺の隙に生じた魔力のほつれの間隙(かんげき)を突いた、それは一撃であり、暗黒龍ワザリングのその装甲は貫通した。


暗黒龍の身体から抜け出す時には、その(コア)を掌中に収めて、吸収していた。

吸収の際に、声が聞こえた。

彼女の意志の残滓である。





《私の身体で外套(ガウン)を作りなさいな、大いなる恒星よ。》

《そして、その事を誇りなさい》

《そうすれば、私は不死となり、神話になる》





何故だか、その言葉が、妙に心を捉えて、私はそうする事にしたのだった。

私の那辺(なへん)の部分が、彼女の今わの際の声の、その心根に響いたのだろうか?

未だに判らないし、今となっては判らない。


揺らぎの気持ちの領域だろう。

魔素が生まれたのかも知れないし、或いは生まれなかったかも知れない、そんな心の中の真空の領域に、それは不意に発現したのであるから。

其処を深く考える事には意味は無いのだ。


私は私の(かつ)てのその闘争の記憶を、しばし懐かしんだ後に丁寧に仕舞い込むと、あ奴等の前へと向かう。


本来であれば、私は出向く立場ではない。

だがしかし、私が弾いた罠のバネ、それによって、あ奴等がどの程度その事に対して、感情を揺らしたものなのか、そして、私に対して改めてどの様に思っているのか、その辺りの関心を満たすことに対してどうも逸早(いちはや)く確認したい衝動が抑えきれず、早い話が、罠に掛かって生き残ったバカ面の顔を早く一瞥してみたかったのである。


そもそもに()いて、私はそう言った諸々(もろもろ)の、私の立場に伴う形式的な儀礼、礼節に対して関心が向かなかったし、また、向いてもいないのである。


私は恐らくは戦士(ファイター)なのであろう、本質的に。

闘争のみが、私を昂らせた。







……

………


今、私の目の前には、惑星(かのじょ)の地殻のあの山脈の中から()でた新種…魔族・妖魔・悪魔。

そんな新種の3種の内の1種である悪魔族の姿があった。

全部で3体。


今は既に判明した事である。

私は昔日(せきじつ)の戦いに於いて、あ奴等の不意討ちによって不覚をとり、その命数を削り取られてしまったのだからな。

悪魔族、それは初めは敵対的勢力ではなかった。


敵対的勢力からの、何等かの接触が及んだのであろう。

そして、それがあ奴等の生来(せいらい)(いや)しい性質に対して、何等か魅力的に感ずる、その醜悪なる嗜好を満たすに足る、と、あ奴等自身が判断に及ぶ条件でも出されたに相違あるまい。

今は同盟を結んだその敵対的勢力へあ奴等の諜報活動の結果を報告しつつ、同時にその卑しい嗜好を満たすことに傾倒して、そうやって存在を重ねているのが現在の状態である。




「よくぞ参られたな。」




私は余裕を見せてこう話し掛けた。

本格的な戦いの前の、これは軽い舌戦(ぜっせん)その幕開けだ。





─くぁっはっはっは!此れは此れは、わざわざ小生(しょうせい)()の如き矮小(わいしょう)なる存在に対して、余りに御丁寧(ごていねい)なる御口上(ごこうじょう)、痛みいります。(はしら)様。─


─如何にも、如何にも、我々に対する過分なる御心遣(みこころづかい)い、望外(ぼうがい)の極みと申し上げますよぅ~。(はしら)様よ。─


─我々の主にも、斯様(かよう)なる、寛大(かんだい)なる柱様の御慈悲(おじひ)深い此のような申し様、しかと伝え置き致しましょうぞ、ハッハッハッハ!─





悪魔と云う物は別にこの星系(システム)内だけの存在ではない。

全宇宙に浸透(しんとう)している存在であり、その意味では我々の様な存在、(はしら)似通(にかよ)っている。

宇宙に星が無数に当たり前の様に存在する事と等しく、あ奴等も、宇宙の隅々に浸透しており――


主に、生き物を(なぶ)りたいその本能を満たすべく、高等な知能を持つその様な箱の肉を堕落させたり、絶望させたりを糧としている故に、その様な肉の箱が存在する惑星などを好む


――そして、その気配、見た目から、どの系統を首魁(しゅかい)と仰ぐ(しもべ)であるのか、その判断が闘争の前段階の戦略を練りこむ際には必要になる。


あ奴等の魔力の気配、容姿、それ以外…

其処から導き出される枝葉(あやつら)(しゅかい)は…


先日の交戦結果、私が感じた他のあ奴等(なかま)達も、そして今、合間見合(あいまみあ)えているこの三体も、概ねは同じ特徴である。

あの山脈から出たのだ、地下に住んでいた。

そして怪物の容姿、短気で好戦的そうだ。

飽和攻撃はともかくとして、あの小惑星兵器での戦術、それは私が今、演算(えんざん)しているこ奴等の首魁(しゅかい)がやるには、不似合いな戦術であった…

間違いなく、こ奴等(やつら)首魁(しゅかい)はあくまで枝葉の幹に近い部分であって、幹自体ではなく、更に敵の首魁は、幹は存在している事であろう。


こ奴等の首魁(しゅかい)の更に後ろに、絵を描いた首魁(しゅかい)、それは…


材料が足りないか?

出来ればもう少し情報が欲しいな。





まぁ、相手は此方(こちら)()んで(あなど)って掛かっている様子である。

それは、私が瀕死だと云う事はもはや、隠しようが無いからである。


表面上、気勢を上げて、此方(こちら)に動揺など皆無であるぞ、と。

そのアピールを前面に出した格好だな。

そして、さり気無く、意図的に無礼である。

普通は、此のような場では、私に対しての直答は避ける場面なのだからな。

目線も、私に合わせてはならぬものだ。

知っていてそれを破っている節が見られる。


そして、主に()の、上がりきった口角(こうかく)である。

()れから起こる、その闘争への昂りを隠そうともしておらず、むしろ露出させている。


少し怒りの気配の発露が見えるのは、私が弾いた罠のバネによって、既に此処へ到達する予定であったあ奴等の同族の何体かが、その目的を果たさぬままに、その存在をこの世の(ことわり)から抹消された事に対する感情のそれであろう。


いわゆるところの、これは、意趣返(いしゅがえ)しの慇懃無礼(いんぎんぶれい)と云う物であろう。


昔日(せきじつ)、この戦いが始まった時であるが、悪魔族は、50体を越えていたのである。

一斉に飽和攻撃をしてきたあ奴等は、あの戦いの終わりには確か…12体になり、そしてこうして今、私に相対しているのは3体。

奴等にとっては手酷い損害であるに違いない。


私は私の存在の分身、それを無数に分散させて、恒星周囲に配置しており、その分身一体一体には、通過、または付近に接近する者が有れば、それが敵対的かどうか、脅威に値するかどうかなどを判断する簡単な「知」を付与させている。


敵対的な勢力の接近に対しては、それは指向性を持ち、巧妙にその気配を隠蔽(いんぺい)させて追随(ついずい)し、容赦無く敵対的な勢力を焼き尽くす業火を発しつつ相手へと粘着する。


相手を焼き付くし、最早戦力として数えられぬ負傷、または損害を与えた後に、止めを刺すのか、或いは他の巡回が薄い場所へと赴くのか、その選択の判断も兼ねた素晴らしい分身である。


通常はそうなのだが、更に私が脅威度が高いと判断した場合には、その分身はそれを悟り、その敵対的勢力を構成する作りと正反対の魔素へと存在を作り替え、それから相手に接触するのである。


すると、どうなるか?

簡単な事である。

敵を構成する魔素と全く反対の性質を持つ魔素の塊との衝突、それが何を意味するか?


敵対的勢力も、その私の分身も、その存在がまるで「初めから無かった事」で在るかの如く、消滅してしまうのだ。

反魔素と、一部の賢人であれば、()れを()るであろう。

反魔素による、対消滅。


昨日の戦いに於いては、悪魔族は、どの様な物質であろうと焼き付くす業火に捕捉されその数を減らし、そして今回の戦いに赴く前には、その存在を無かった事にされてしまったのだ。

いわば、煮え湯を飲まされ続けた格好となろう。

滑稽なその有り様よ。


故にこそ、あ奴等としては業腹(ごうはら)に違いないのである。





「──して、此度はどの様な来訪であるのか?」





盤面(ばんめん)に石を置くにしても、ある程度の予定調和(セオリー)の様な物があり、私は暫しはその様にして、盤に石を(なぞら)えて行く。

ある意味、様式美である。





─此度の来訪と致しましては、柱様(はしらさま)よ、昨日のそれは御丁寧な、私共には身に余る過分なるその歓迎(はげしい)(げいげき)に対しまして、私共、いたく感動いたしましてナァ…─


─そのみ心遣いに対しまして、私共と致しましても、ただただその様な厚遇(そんがい)に、その御慈悲(むじひ)を一身に甘受(やられっぱなし)する事に対しまして、その…非才ならざる私共には、望外な望みになりますでしょうが…クックック…─


─ささやか、いや、それすらも(はばか)られる様な手技(じつりょく)ではありますが…或いはその、柱様の(まぐれ)かな(とどめ)めとなりますれば、私共と致しましても、それは後々の思い(じまん)となりましょうからノゥ…─





短気を覆い包んでいる気配が丸見えだ。

演繹(えんえき)された事実を弾き出す。

……成程な。

ある程度は符合した。

これで盤は整ったのだ。

準えた様式美に沿って…




「相分かった、その貴殿等の礼節と志儀(しぎ)、今しかと此処に拝聴致(はいちょういた)す!」




盤の局面は打って代わり、相手を屈伏させるぶつかり合いと変わった次第である。

あ奴等もどうやら、理解した様だ。

愚鈍なあ奴等にしては重畳(ちょうじょう)であるやりとりであった。


矢張り、私は本質的には戦士(ファイター)なのであろう。

簡単な事なのだ。

戦えば良いのだからな。







気が付いた…主人公、一切戦わずに、無関係なイケメンがこの小説初めての戦闘を派手に行おうとしている…

仕方が無いよな。

主人公のモデル俺だし…華が無いし。( *¯ㅿ¯*)

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