をぢさん、うっかり落ちちゃった(テヘッ)
……………
メイデイ、メイデイ。
此方、夢の世界の俺。
司令部、司令部、
聞こえますか?
返答送れ、
返答送れ、
こちら、感・量・明の反応無し。
聞こえますか?
聞こえますか?
返答送れ、
返答送れ。
…うん、知ってた。
現実世界の俺との通信は途絶した。
一応。確認のためだ。
通信は途絶、場所は不明…
意識を手繰ると、状況としては、
どうやらブラックホールに引き込まれ、気絶していた様ではある…
幸いな事に、パスタみたいな身体にはなっていない。
見た目は、五体満足である。
頭が少し不満足なのは、
これは仕方がない。
先天的だか後天的だかは知らんが、
ブラックホール以前からこうであった。
さて、状況を整理しよう。
夢の中のこの俺は、現実世界の俺のイメージ部分の領域を大体は担っている。
それと、現実世界の俺を客観的に見る第三者的な視点を俺本人に提供してきた。
いわゆる、アンネ・フランクの本とかでもあっただろ?
思春期辺りに生まれる、自分を客観的に見るもう一人の自我的な何か。
そんなファジーな存在。
つまりそれが俺だ。
あのごつい見た目の癖に、豆腐メンタルな奴俺を、時として脳内で突っ込み、また、時として、奴が見た、景色・人物、出来事等の様々な事象を「~みたいだ」と形容して表現する時が主な俺の活躍シーンだ。
現実世界の俺の頭の中で派生した第三者であり、本人の一部分でもある。
奴が何時もの様に地域活動支援センターでの日課を終えて、胃痛をやり過ごして、ホッとした面持ちで家路へ向かう道すがら、道中で時々立ち止まり、慎重に周りに他の人間が居ないか確認してからそのごつい顔を破顔させ、徐に犬や猫に話し掛けて帰宅し、賞味期限が近くて投げ売り状態のソバ(約30円)と、卵とネギで質素な夕食を済ませ、スマホで何時もの通い慣れたチャットへ入り、屈託のない雑談を済ませてから部屋の電気を消灯させ、暫くの間、目を閉じて宇宙に就いて夢想し、そこでまた、ふと疑問に思った事が出来たのか、目を開くと、消灯した電気も灯けぬまま暗闇の中でスマホを手に持ち…
「宇宙の外側」「ブラックホール・蒸発」「中性子星」「マグネター」「赤色巨星」「白色矮星」「始まりの特異点」etc…
延々と、検索して出てきたサイトや、動画を見て、ウトっとして、大体その辺から、現実世界と、夢の世界の境界が曖昧になり、途端に俺が活発化した。
奴が夢と現実との境界の中で、ブラックホールを夢想して、俺は奴にその視点を提供するためにブラックホールの間近に立たされた訳だよな。
奴はブラックホールを見ながら、「始まりの特異点」って何なんだ…だとか、鉄以上の重い元素は、恒星でも出来ないらしいし、今度は、超新星爆発とか、ガンマ線バーストとか、重力波とか、また何時か調べてみっかなー、いやー、でもこーゆーのって頭が良い人が考えたとはいえ、所詮は実際に見たことが無い人間の考えなんだよな。
他人に縋るよりも、頭がそんな良くないとはいえど俺も人間だ。
彼等が、論理的で、数式に則ったり、哲学的な考え方で接近を試みたりするのなら、俺は、論理的ではない、全くの妄想で、そんな部分から宇宙について考えてみるのはどうだろうか?
等と奴は考えを巡らせていた。
その時に、ふと、奴が不吉な考えを過らせたのを俺は覚えている…
『もしも、魂と言う奴が真に存在するのならば、俺は死後に色々とやってみたい。』
『鉄以上の重元素を合成するという、超新星爆発、他にも、ガンマ線バースト、核融合…そんな様々な事象を間近で見てみたい。出来れば、触って、感じてみたいんだ。』
『俺は馬鹿だから、きっと間近で見たとしても理解できないに違いないのだが、それでも、触れてみたい。』
『核融合で重金属が合成する瞬間を、核分裂のエネルギーを、マグネターの磁力を、まるで情熱と言う燃料が尽きた後に、僅かに熱を残して穏やかに、そしてもの悲し気に、熱を放射しているかのような白色矮星を…』
『寿命が尽きつつある、赤色巨星の大往生を、ガンマ線バーストの目視出来るかは判らないがレーザービームみたいな線の集束エネルギーを…クエーサーの台風と閃光の暴風を。』
『幼いあの日に馬鹿だった自分は、落花狼藉さながらにポタリと垂れて、次第に光を失い、辺りの闇夜に同化してしまった、赤色巨星の燃え尽きた後の様なそんな物悲しくも美しい追憶を伴ったその線香花火の、あの火の玉の残滓にどうしても触れてみたく思い、また、それを躊躇無く実行して、その稚拙な代償としてチクリと痛みを伴う、そんな火傷をしたっけな…』
『その痛みは、数日間、自分を苛んだ。』
『俺と彼女の、それは蜜月だったのかも知れなくて、未だ味わっては居ない初恋の様な気配に、それとは知らずにその気配に触れて、少しだけ打ち震えていたのかも知れないな。』
『頭が良い奴は、言葉を聞いて理解する。』
『次に頭の良い奴は、文字を読んで理解する。』
『更にその次の奴は、体験して理解する。』
『多分、俺は馬鹿だから、一度の体験では理解できないんだ。』
『何度も、何度も、体験してみたい。』
『そっから、「学ぶ」のではなくて、「感じて」みたいんだ。』
『何て言うか、その…魂に刻んでみたいんだ。』
『あと、心霊スポットで、そこに肝試しにやってきた人間の前に出現して、さも意味が有りそうに、指でどっか適当な方向を指さして、其処に何か伝えたい事が有る、浮かばれない霊であるかのような、そんな悪戯とかもやってみたい。』
『魂が無事な様なら、ブラックホールの中に入ってみたい…』
…心霊スポットのくだりの願望は止めとけ。
悪趣味過ぎるわ。
それはそうと…
一番最後の願望の呟き…
―魂が無事な様なら、ブラックホールの中に入ってみたい―
くっそ!
俺がブラックホールに落ちたの、もしかして、奴が犯人じゃね?
なぁーにが、『メイデイ、メイデイ』だよ、白々しい。
お前、実は俺で実験する気満々だったんじゃねーか!
くっそ、死ねよ!
『タヒね』じゃなくて、死ねよ!
それで、俺は…
あの黒くて真円で深淵の不気味な物体に身動き出来ないまま、自然落下していったんだな…
あの、周囲の光すら、重力の影響で屈折しているから、モワァーンと歪んで周りの恒星やなんかが見えると言う、某有名動画サイトでの、ブラックホール周辺の見え方そのまんまに、そいつが次第に近づいてきた…
何と形容したものか…
何と形容すべきな物なのか…
某ゲームの、ダンボールかくれんぼが大好きな、「蛇軍曹」が、ちょっと不自然な光学迷彩で歩いている時に感じる違和感。
ブラックホールは、真の闇だけれども、その周囲の恒星なんかが歪んで見える不自然感は、まさに、それに近いだろう…
不意に、その景色が、ネガみたいに、反転する。
歪んだ光が見えていた領域が闇になり、
闇だった領域が、光になっていき…
つまり、今まで真っ暗な円に見えた部分が、歪んだ光を放っている星々が見える領域になり、
今まで歪んだ星々が光を放ち見えていたブラックホール周囲の領域が、真っ暗になった。
あの、見え方が、写真と、その写真のネガを見比べてみた時みたいに反転して見えた点辺りから、俺はブラックホールの、事象の地平線と呼ばれているそこに至って接近してしまえばもはや光すら脱出不可能と言われている領域に入ってしまったのであろうか?
思えば、ちょうどその辺りから。
俺は、現実世界の俺に呪詛の悪態を吐きながら、意識を失ったんだったな。
意識を失う瞬間に、何か見えた気がした。
現実世界の俺が、さわやかな顔をして、親指を立てて、
「グッドラック」
っと言っていた気がするんだ。
…多分、間違いない。
腹立つわー………
…
……
………
俺が今まさに寝た姿勢のままで見ているこの場所を
「霊廟」と、評したのは、
其処にある、厳かな雰囲気からだ。
先ず、見知らぬ天井が視界を占めた。
そうして、周りを見回す…
黒曜石に、所々弱い薄っすらとした白色が混ざるような石のような物体で、天井も、柱も、そして、祭壇も出来ている。
それらは、全てが先程説明した様な石みたいな物で構成されており、全てが墓石みたいにツルツルに研磨されていた。
天井・柱・祭壇…
そう、壁が、一切見当たらない。
壁を探して目線を動かした俺が、地平線…と言うには、それらは余りにも人工物然としていて、そう呼称するにはいささか迷いが生じるのだが…
その…地平線に視線を動かせば、床と、天井が段々と視界を占めてゆき…
両者の縦方向軸が次第に近づいて行く遠景のみである。
視線のずっと向こうの方で、天井と床は間に僅かな暗闇のスペースを残して、その暗闇部分は見渡す限り、横一線に視界に暗闇を提供して際限無く左右に拡がっており、視界の限界で当然全てを見渡すことは不可能となっている。
細い針を横に寝かせたような暗闇だ。
恐らくは、暗闇の部分は、空間だろう。
唯でさえ、黒に僅かに白が混ざる石みたいな物体で出来ているのだろうから、
空間と、天井と、床の境界も曖昧である。
壁は、無かった。
てか、天井高い。
ドーム球場の、二倍位?
所々に柱が立っているが…
あの見え方からして、相当に太くて長いに違いない。
長くて、太くて…黒い…
決して淫らな表現では無い。
祭壇…
そう、祭壇がある。
何かを、祀るように、
或いは、誰かを、祀るように…
何かの、または、誰かの霊を祀るような、そんな円形の祭壇があり、
円の外周に、サッカーボール位の、深い青、黒に近いような水晶玉的な球形の宝珠の様な物がある。
宝珠は円形の祭壇の外周に沿って、
等間隔に並んでいる。
俺は俺が作るお好み焼きを連想する。
お好み焼きの円の外周に沿って
俺は竹輪の輪切りを等間隔に並べるのだ。
話が逸れた。
チベットの仏教のコーランみたいな物もある。
起き上がった。
俺が横になっていた部分にはファンタジー世界で有りガチな、円形の魔方陣があった。
直径、4メートルって所かな。
円形の祭壇らしき部分とチベット仏教の寺院に有りそうなコーランっぽい構造物、あと、俺が寝ていた場所にある、直径4メートルの魔方陣…
それが、この、現在視界に見える範囲での、柱・天井・床をぬかして、それ以外のオブジェクトである。
『う…うぅ…』
『ハッ!』
『こ、此処は…!?』
などと、思わないし、ましてや言ったりしない!
テンプレ過ぎて、恥ずかしいだろうが。
ふんだ!
某文豪さん、此処は何処ですか?
雪国どころではありません!
ニーチェさん、違うんですって。
深淵を見たかったのは、俺じゃありませんから!
奴なんですよ!
犯人は、奴なんです。
<あらー、珍しいなー。>
<此処に人が来るのも、そして…>
<それが生きた人間ってのも。>
<でも…>
<何か完全に生きているって訳でも無いみたい…>
<何?このファジーな存在は?>
俺が、愚にもつかない述懐を頭の中で演じていると、
不意にそんな声が聞こえてきた。
声…と形容したけれども、それは、ダイレクトに、そして、強烈過ぎずに、
実にちょうどいい感じで直接、脳に響いてきたのだった。
ってか、誰っすか????????
( ・`д・´)b{グッドラック
(˘•ω•˘)イラッ!