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闇の足音

遅くなりました!!



目の前にいるアリアの手を握って、どうして逃げないのか聞こうとして私は動きを止める。そこにいたのはアリアじゃない。目のあるはずの部分が黒い大きな空洞になった、そんなものアリアじゃない。

目の前の化け物は私に、ニタリと笑いかけると私を闇の中へと引き摺り込んだ。




―――――――――――




私は自分の悲鳴で目が覚める。途端にアニーが駆け寄ってきて、私をそっと宥めてくれる。優しいその腕に抱きしめられ、私はたまらず彼女の背中を強く掴んでしまう。

「大丈夫です、大丈夫。お嬢様はちゃんとここにいらっしゃいます。アニーの腕の中にいます」

私は段々それが只の夢であることを理解し、落ち着いたころにアニーが淹れてくれたホットミルクを飲む。

今は深夜だ。大人しくベッドに戻り、眠れないまま朝を迎えた。





相変わらず静かな日々を過ごしています、ベルトリアです。殿下が来ない日々がこんなに平和でありがたいとは、本当に気が付かなかった。

今日も今日とて食堂の奥では、殿下やその側近、クラスメイトに囲まれたリズベットの姿が見える。それを尻目に私達は食事をとりながら、もうすぐ行われるテストについて話し合っていた。

「今回の試験も無事に済むといいけど」

「前回は突然誘拐されたし、アリアに化けるなんて姑息な手を取られたし」

不穏な会話をするのはロイスとアリアで、私は黙々と食事をとっている。あの時の話は、正直したくない。何でもない風で過ごしていたけど、最近テストが近づくにつれて、あの日の夢を見るのだ。

「今回は精霊王や妖精王の手助けもあるから、襲撃もなく過ごせると思うけど…」

そう言うシリウスも不安げにアルに視線をやる。

「俺もできるだけトリアの傍からは離れねえよ」

彼らは私の加わらない会議を、小声でしているのだ。私はそれを聞きながら相槌を打つことで誤魔化している。

眠れなかった夜、毎晩魘されて不安に苛まれている今。私の目元には大きな隈が出来上がっていた。それをアニーが見事な腕前で誤魔化してくれている。隈と血色の悪い肌は健康的な肌へと、見事に仕上がっているのだ。

視線を食事のプレートに落とす。いつもなら食欲がしっかりあって、残さずに食べられるのに最近は食べきれることが少なくなってきた。それを誤魔化すように、私は最近太ったからダイエットだと笑っている。


「――だよね、トリア」

突然名前を呼ばれて顔を上げると、シリウスがこちらを覗き込んでいた。

「えっと、ごめんなさい。聞いてなかったわ」

私は慌てて彼に笑いかけると、その場にいるみんなは訝しげな顔をする。最近皆この顔をする事が増えた。上手く誤魔化さなくてはいけない。

「ぼうっとしているなんて珍しいね。今日は放課後用事がないか聞いたんだよ」

シリウスは笑顔を浮かべながらも、心配そうにこちらを見ている。私は頭の中でスケジュールを確認し、特に予定が無いことを伝えた。

「ならよかった。今日は皆で街を散策しよう」

「わかったわ」





放課後になり、王都へ降りて街を散策する。貴族街や大通りをシリウスに案内しながら、ゆっくりと観光していく。こうして街を歩くのは、実は私達も初めてだ。

学校からはお兄様が手配した、サンティスの馬車で来ており街の入り口で待機してもらっている。

「あそこが人気のカフェよ!」

「それでこっちが魔道具やだよ」

アリアとロイスが嬉々として、シリウスを案内する。彼も初めての王都に楽し気に足を進めている。その彼らの後ろをアルと歩きながら、自分達も久しぶりの王都を楽しむ。

「あそこの本屋、よく家に来てもらってるところだわ」

「うちのとこにも来てるな」

「お得様なのね、きっと上位貴族が」

昼は三時を過ぎた頃だというのに街並みは賑わっていて、賑やかな喧騒が陰った心を一瞬だけ忘れさせてくれる。

「あ、見て。あの店のマドレーヌは絶品なのよ」

「へえ、そうなんだ。あまり甘い茶菓子は食べないから知らなかった」

私とアルもちまちまと会話をしながら、前三人の盛り上がりを見つめる。

「最近、何かお前変だぞ」

唐突にアルがそう言うと、私の方をちらりと見る。

「そうかな?テストが近づいて勉強しているからじゃないかな」

「ふうん?」

私は彼を雑に誤魔化すと、アリアに向かって小走りに走って抱き着いた。

「きゃあ!」

アリアは可愛い悲鳴を上げると、私を見て頬を膨らませて怒る。そんな彼女を見て私は自分の中の不安を誤魔化した。いつの間にかシリウスの隣にアルが来ていて、五人横並びで夕方の散策を心行くまで味わった。



私はつかの間の安息の時間を心置きなく過ごし、闇と交わる夜に備えた。馬車の中では賑やかに皆が会話する。私も輪に入って一緒に馬鹿な冗談を交えて、寮まで過ごした。食事は外でとって来たから、そのまま解散となって自室へ戻る。

「お嬢様…」

アニーが心配そうに私に近付く。私は彼女に優しく微笑むと、お土産のお菓子を手渡す。

さあ、そろそろ備えなければいけない。闇と交わる夢の世界に。

きっと私が見ている夢は、トラウマからだけでなく闇からの影響もあるのだと思う。だからこそ負けられない。精霊王達から貰ったお守りを手に、私は今日も眠りについた。





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