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王子と王子

シリウスとハリス王子の回です。



シリウスはハリス殿下の後ろを校舎を案内されながら、ゆっくりと歩く。その場所は既にベルトリア達に案内された場ではあるものの、王家に伝わる話を交えながらの彼の案内は純粋に面白く感じている。


「さて、一通り簡単に案内できる場には案内させてもらったよ。あとは王家秘伝の場所だから、案内はできない」

ハリス王子はにこやかな仮面を被って、シリウスに向かって笑顔を崩さない。王家秘伝の場所、つまり直系にしか伝えられないもので、ハリス王子もまだ知らない秘匿事項のことである。エルフであり精霊の彼がどこまで知っているのか、試してもいるのだろう。

シリウスは温和な表情を保ったまま、嬉しそうにありがとうと答える。その答えにハリス王子は納得がいくこともなく、不満な表情を浮かべてしまう。

「顔に出してはいけないよ、殿下。少なくともエルフと妖精、精霊は君の味方であり、味方ではない。僕に警戒を緩めてはいけない。勿論、ベルトリアにも」

シリウスは笑顔を崩さずにそう言うと、周囲を見回し日が傾いた空を見上げる。夕日が森に飲まれるように陰り、静かに夜の帳を告げている。

「私は顔に出ていたかな?」

ハリス王子は憎たらし気に笑顔を浮かべている。ああ、までだ子供だと強く感じる彼の表情は、子供ながらに王族を演じており、王族という役に飲まれている。

「それはもうはっきりと。サンティスとファウストの役割は、まだ殿下の知る所では無いだろうね。でも殿下がベルトリアを望むなら、今すぐにでも知らなければならない。その為に貴方の覚悟は甘すぎる」

シリウスは胡乱げな表情に変わったハリス王子に、はっきりとそう告げる。ハリス王子の表情は一瞬怒りに染まったがすぐさま笑顔の仮面を被り直した。これが流石と言えよう。

「私の何が甘いのかな」

ハリス王子はこめかみを引くつかせながら、笑顔を絶やさないようにそう問いかける。シリウスは相変わらず笑顔のまま、彼を真っすぐ見据える。しばらく見詰め合った後、シリウスは真顔になり、表情を消して真っすぐ王子を見た。その変化に驚いたのかハリス王子は表情を固めてしまう。


「ああ、とことん甘いよ。砂糖で煮詰められたジャムの様に。僕らは人間の様に甘い考えでは生きていないんだ。自分の選択肢一つで、自分と家族だけでなく、妖精、精霊、エルフ、そして人間の命を掌の上で守っているんだ。今その立場にいるのはベルトリアだ」

シリウスは真顔で、淡々と言葉を突き付ける。そのまま一歩一歩ハリス王子に近づく。彼は後ずさることも出来ないまま、シリウスの只ならぬ雰囲気にのまれてしまう。

「この国は何処までも傲慢だ。僕達が手を引いたらどうなるのか、分かっているのかな」

シリウスは怒りを隠さないまま、吐き捨てるようにそう呟く。ハリス王子は彼の言葉に苛立ちを覚えながらも、抱いた違和感を隠し切れない。

「まるで君たちは王族である我らより優位であるように語るね…」

ハリス王子はうそれだけ言うと、目の前に対峙するシリウスを真っすぐ見つめる。彼は意外な事を言われたかのように、目を見開いて口を開く。

「…君はこの国の成り立ちを知らないのか…?」

「光の精霊王に愛された青年が、周囲の一族をまとめ上げたのが始まりだろう?」

ハリス王子は当たり前の様に、隠蔽された絵本の中の歴史を答える。シリウスは母親である精霊王の顔を思い浮かべ、一族の長と認められた者に正しい歴史が告げられるという言葉を思い出した。つまり彼は、第一王子であり王太子ではないということだ。


「君と話す価値がなくなってしまったよ。僕は、いや僕らは。この国を守るために動こうというのに…。命を捨てようとしているのに、君はその事を理解しないまま命の数を数えるのだね」

シリウスはそう言うと、軽蔑した目線をハリス王子に送った。彼は独りよがりだ。自分は有能だと、信じて動き周囲を引き寄せる。ある意味カリスマなのだろう。でも僕らは彼を信じるに値しないと判断した。まだ七歳の子供、されど七歳の子供。王族の一員なのだ。彼には対極を見据えた動きを望むのは、国民だけではない。共存する一族も同じなのだ。頭でっかちで全てを理解した風な彼はお呼びではないのだ。

ハリス王子は顔を赤黒く染めながら怒りを隠さない。腹芸をしろと言っているのではないのだ、人の話を聞くことが出来るかなのだ。彼は少なくとも出来ていないのだから、望みは薄いだろう。

「この国のトップは王族かもしれない。しかしそれは人間の頭でしかない。僕らは人間じゃない。その枠に当てはめない事だ」

シリウスはそれだけ言い捨てると、ハリス王子の目の前から風の魔法を使って姿を消した。






◇◇◇◇









くそ…。くそ、何だあのエルフは!!!!

怒りが胸を締め付ける。この国の貴族であるならば彼を不敬罪にて、刑に処することが出来たのに他民族の子供だ。だけどあくまでこの国の方が優位なはずだ。

僕は苛立ちに感情を沸かせながら、王城への道を急いだ。



彼から告げられた言葉を、怒りのまま陛下に告げる。ここは謁見の間であり、息子である僕のことを心配して、父上が優先的に通してくれたのだ。

「何なのですか!あのエルフと精霊の混じり物め!この国を侮辱したのです!!」

僕は怒りのまま、父上に全てを訴える。彼の言葉のままだと、僕とベルトリアが選ばれることもあり得ないということになる。何故お前に決めつけられねばならない。怒りに目の前が真っ赤に染まるが、あくまで王子然とした顔を崩さない。

父上である陛下は深く溜息をつくと、僕の方を残念そうに見つめる。

「お前は、人間である我らが偉いと申すか」

父上はそれだけ言うと、黙って僕の目を見る。人間が偉いか?それは否だ。それぞれの地にルールがあり、尊ばれるものが違うのだから。

「お前は第一王子だ。いずれ王太子と思っていたがその考えが甘かったのか。何故ここまで人間至上主義に染まってしまったのか」

陛下はそう言うと悲し気に僕を見つめた。その言葉に食って掛かろうとして、自分とシリウス殿の話を思い浮かべる。どう考えても自分が優位と思って対等に話をしていなかった事が、喉元に突っかかり嫌な感じがする。

「王家直系にしか伝達されない内容は、サンティスとファウストの者は当然の様に教わる内容だ。私達と彼らは一線を隔した存在なのだ」

「父上、それでは彼らが王族よりも偉い地位に言う事になります」

「彼らはこの国の民ではない、我ら王族を王と認め守護し、監視する一族だ。少しでも王族たらしくないと判断されれば、守護もすべて失うのだ」

父上はそれだけ言うと、深く溜息をついた。

「お前がサンティス嬢を気に入ったとしても、彼らが私達に歩み寄る事なんてほとんどないのだ。我らの庇護を失えば、この国は一気に廃れ消え去る」

父上は僕を芯に見つめて、素質を見抜こうとしているのが分かった。僕はその視線に負けじと睨み返す。王太子の資格がないといわれたが、まだ七歳だ。子供だと甘えるのはもう終わりにして、王族としての役割を果たしていこう。





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