婚約者候補2
パソコン復帰しました…。
遅くなってすみません!
アリアが溜息を零した。私は双子を交互に見やって、首を傾げる。この二人にも妖精の血が流れているのは知らなかった。どういう事だろう…。
「私達に闇の魔法が使えることは、みんな知ってると思う。それの理由は闇の妖精の血を引くからなんだ…」
アリアは諦めたようにそう答える。ロイスが彼女の口を塞ごうとするけど、小さく首を振ってそれを戒める。
「ここまで言うってことと、候補に入っている時点でバレているのよロイス」
「…わかってるよ」
ロイスはそう呟くと、溜息を零した。彼はそのままお兄様を見ると、質問を始めた。
「僕らには確かに妖精の血がある。でもかなり薄いし、どうして候補に?」
お兄様は少し寂しげに笑うと、言葉を返す。
「それは君たちが先祖返りだという事、トリアの親友である事が理由に挙げられるね。先祖返りの君らは、それなりに長生きだろうし何よりトリアに寄り添える。この事はキャンベル侯爵も了承済みだよ」
お兄様はそこまで言うと、少し悲し気に悪戯な笑みを浮かべた。その様子にアリアは顔を赤らめて、ふいっと視線をそらした。
「子供たちは、話にも混ぜられていないのね。当事者なのに」
「ああ、全て大人の都合だ」
「信じられないわ…」
「申し訳ないと、思っているよ」
お兄様はそう言うと、ロイスとアリアに頭を下げた。席を立とうとしていたアリアは、思わずと言った様子でお兄様を戒める。
「頭を上げてください、先生!」
「そうです、やめてください!貴族なんです、子供たちは駒になり得るんですから分かっています!」
ロイスも後に続くようにお兄様に声を上げる。私は二人の様子を見て、ああこれが貴族の世界の一部かと感じた。私が、私達サンティス家がどれだけ政略とは離れた場所にいるのかを思い知らされた。
「ロイス、アリア。座れ、話はこれが本題じゃない」
アルが突然二人に声を掛ける。その声に二人は怪訝な顔をするが、アルの有無を言わせない顔に黙って席に着き直す。お兄様もそこで顔を上げて、苦笑を漏らす。
「アルは随分、隠さなくなってきたね」
「先生も、良いから本題に入れば?」
アルの辛辣なセリフにお兄様は、頷きのみ返すと真剣な顔に変わる。
「今からここでいう話は他言無用だ。分かっているね?」
お兄様はそこまで言うと、ぐるりと周囲を見回した。私達は真剣な顔でそれを見つめ返す。お兄様はアルを見て、シリウスにも視線をやると最後に私を見て、話を始めた。
「夏季休暇の前に、トリアが闇に攫われたのは知っていると思う。その事で事態が動いたんだ。闇、魔との戦争が近づいてきている」
お兄様はそこで一旦言葉を切る。シリウスは身近な事なのだろうし、既に知っているのもあって落ち着いている。アルは少し驚いた顔をしていて、双子は無表情に話を聞いている。
「トリアは妖精、精霊、エルフの中で特別視されている“白の乙女”と呼ばれる存在であることが、全部の精霊王、妖精王に認められた。白の乙女は私達の旗印となって魔と戦うことが、習わしとなっているんだ」
お兄様がそう言うと、流石に驚いたのかロイスが顔を上げた。
「旗印何て!!戦争に彼女が使われるんですか?」
「守るべき旗であることは間違いない。そして各王達も守護を約束してくれたけど、以前みたいに攫われる可能性もある。何故なら魔を払う力があるのが白の乙女だから。この戦争はトリアを守れるか守れないかで、片が付いてしまうモノなんだ。そこで婚約者レースとか言いつつも、トリアを各方面からサポートしてもらいたい」
お兄様はそれだけ言うと、もう一度頭を下げた。
「君たちを恐ろしく振り回している事には自覚がある。ただ婚約者候補なのは事実であるし、ベルトリアが白の乙女であることも事実だ。もしこれに巻き込まれたくなければ、退いてもらって構わないよ」
私は視線を膝に落とす。確かに何て勝手すぎる話だろうか。勝手に婚約者候補に祭り上げ、殿下と争うようなことをさせながらも、さらに魔との戦いがあるから守ってと願い出ているようなものだ。
恐ろしく我儘で、自分本位な願いだろうか。こんな一方的に押し付けるような事、するべきではない。
「本当にごめんなさい…。私がこんな事だから皆を巻き込むわ…。それがとても恥ずかしくて、死ぬほど悔しい」
気付いたら私の口から言葉が漏れていた。皆の視線が一斉にこちらを向く。
「私が願って白の乙女になった訳でもないし、魂を二つ持っている訳でもない。皆を巻き込んでしまうなら、私領地に戻る…」
私は彼らの視線を感じながらも、自分の顔を上げることが出来ないでいた。私が来ればいいのにと言ったから、シリウスが来た。友人になりたいと願ったから、ロイスとアリアを巻き込んだ。アルとも喧嘩をしたから、ここまで仲良くなってしまった。
ああそうか、ゲームの私は周囲を巻き込むことを恐れたのだ。だから人知れず退場して、この国を争いの惨禍から守ったんだ。確かにそれが一番いい気がしてきた。私が耐えれば、この子達は巻き込まれないのだ。
そう思って俯く私の頭を、誰かがそっと撫でてくれた。
「トリア、それは違う。巻き込まれたんじゃないよ、分かった上で飛び込んだんだ。だから泣かないで、一人で抱え込まないで」
シリウスの声がして顔を上げると、寂し気に優しく彼が笑っていた。どうやら私は泣いているらしい。
「シリウス…」
「僕は初めて君にあった時、君の言葉に救われたよ。だから、今度は僕が助けるから」
シリウスはそう言うと、私にハンカチを差し出して悪戯に笑った。私もつられて少し笑う。
「親友を見捨てられるわけないでしょう?」
少し離れたところから、アリアがそう呟くのが聞こえた。私がそちらに向くと、ロイスとアリアが少し怒った顔でこちらを見ている。
「私達が巻き込まれるのが嫌だっていう気持ちは嬉しい。でも貴女巻き込まれる所か命狙われているじゃない!他人の心配する前に自分の心配しなさい!」
「本当だよ!僕らに何も言ってなかったじゃないか!親友なのに!」
二人の怒っている様子を見て、申し訳ない気持ちと嬉しさが浮かんでくる。
「俺に至っては拒否権ないしな。サンティスの騎士になるって決めてんだから、頼ってくれなきゃ困る」
最後にアルがそう言うと、悲し気に笑う。私は周囲を見渡し、お兄様が複雑そうで嬉しそうに笑っているのを見て、ようやく自分が受け入れられている事を実感した。
いつも感想、評価ありがとうございます。
自分でも久しぶりに書く長編なので、書いていて迷走しつつも楽しくて仕様がありません。
いつも応援、ありがとうございます!